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首藤康之×丸山和彰(CAVA)『レニングラード・ホテル』インタビュー!

ダンサーの首藤康之さんとパントマイム集団CAVAの丸山和彰さんのタッグにより、この夏初演を迎える『レニングラード・ホテル』。バレエとマイムという異なる出自を持つおふたりがひとつの舞台に集い、新たな世界を創造します。開幕を前に、リハーサル中の首藤さんと丸山さんのおふたりにインタビュー。舞台の発端とクリエイションの様子、作品への想いをお聞きしました。

フィジカルシアターならではの苦労、醍醐味を感じることは?

首藤>手順がいろいろ出てくるので、ここを少しでも間違えたら大変なことが起こるだろうな、ということは沢山あります。『くるみ割り人形』は一日二回公演でしたけど、二回とも冷や汗だらけ(笑)。『空白に落ちた男』のときはああいう舞台自体がはじめてだったということもあって、公演の前に53回毎日稽古をしていましたね。そういう意味では日々変わっていけるというのは面白いなと思います。

丸山>今回は4回公演ですが、やはり毎回変わっていくと思います。どんな舞台でもコールアンドレスポンスはあるけれど、特にパントマイムはそこが一番キモになる。たとえば棒を持つ仕草のマイムをしてるとき、お客さんに握っている様子を想像してもらえないと何も生まれない。観る側のイマジネーションが働いてはじめて動き出すものなので、観客とのやりとりが一番の勝負になってきます。

“イマジネーションが働いてないな”というのは舞台にいても体感的にわかります。“こういう空気感になるだろうな”“次はややユーモアが入っているからこれくらいウケてくれるだろうな”と自分で描いているバロメーターがあって、それが観る側に伝わっていないとワタワタしちゃう。キャストにかかるイマジネーションの部分は大きいし、それがお客さんの反応でふわふわしてもいけない。名前を付けたのもそうですけど、演者がどれだけイマジネーションを深く具体的に濃く持っているかというのが、ブレないためにはやはり必要になってきます。

首藤>お客さんが入って変わることってすごく多いですよね。お芝居をやっているときは特にそうだけど、お客さんにウケると日々そのシーンが過剰になってきたりするじゃないですか。そういうのはすごく危ないところであり、演者がキャラクターをどれだけ熟知して、その中で収めていくかが重要だと思います。

 

『空白に落ちた男』(C)青木司

『空白に落ちた男』(C)青木司

 

丸山さんの中で舞台の結末は見えているのでしょうか。

丸山>僕の中でゴールは見えているんです。この場面のこの瞬間にフォーカスさせたいんだ、というものはある。そこにいかに辿りつかせるかが勝負です。

たとえば『ドン・キホーテ』の場合はキトリとバジルが踊る結婚式のパ・ド・ドゥがメインで、あのシーンがいかに際立つかというのはそれまでの苦難いかんにかかってくる。苦難があればあるほどあのシーンはすごく感動的なものになるだろうし、どう苦難を乗り越えるようにつくればいいのかと考えると自分の中で画が見えてくるんです。

首藤>確かにバレエの場合、グラン・パ・ド・ドゥが最大の見せ場ですよね。丸山さんは『くるみ割り人形』でも最後の画が見えていたし、いつも明確にやりたいことがある。ただ丸山さんの中で画はきちんと見えているけど、完全に彼の中の画だから僕たちは見ることはできない。でも僕はそこに辿りつくことができると信じています。

丸山>偶然というのは作品をつくっていく上で大切な要素だとは思うけど、偶然の上に偶然を重ねて、最後も偶然に頼ってしまうのは僕が思う責任ではないような気がして。そこをどう持っていくか、お客さまがそこまで付いてきてくれれば、という気持ちがあります。

 

SWITCH 30th Anniversary 文学への新しい冒険 チャイコフスキー『くるみ割り人形』(C) 大河内貞   

SWITCH 30th Anniversary 文学への新しい冒険 チャイコフスキー『くるみ割り人形』(C) 大河内貞

 

この作品に期待すること、目指すものとは?

丸山>首藤さんの『ドン・キホーテ』でドン・キホーテを、『コッペリア』ではコッペリウス役で出演させてもらいましたが、そこですごく印象に残っているのが“時が来た!”という言葉。ドン・キホーテがサンチョ・パンサと出発するとき、首藤さんがおもむろに“時が来た!”と言う。『コッペリア』の場合も、コッペリウスがいよいよ魔法をかけるというときに“時が来た!”と言うんです。首藤さんってたぶん些細なこともドラマティカルに解釈する方なんじゃないかと考えていて、それゆえの“時が来た!”なんだと思います。

首藤>そんなこと言ってたんだ、自分では全く気づいてなかった(笑)。ただ何でもそうだけど、“時が来た!”は大切かもしれない。フリーランスになったときも“時が来た!”と思って辞めたし、この舞台も“時が来た!”からホテルの物語をやろうと思った訳だし。

丸山>ドン・キホーテは“時が来た!”からサンチョ・パンサを連れて旅に出て行くし、コッペリウスは“時が来た!”から人形に魔法をかけようとする。ワンデイではなく、ザ・タイムなんだと思う。“その時”っていう時間であり、それがまさに“時が来た!”ということなんだと感じます。

そう考えるとこの“時”は何回もある瞬間ではない。だとするとこの表現では首藤さんの”時が来た!”という感動には足りてないなと思うし、毎日やっていることになってはダメだなと痛感させられた。今回僕が見えているゴールも、”時が来た!”の時なんです。首藤さん演じるセルゲイに“時が来た!”瞬間がザ・タイムであり、お客さんにとって何より特別な瞬間になったらいいなと期待しています。

首藤>作品ってライブであり、形には残らない。だからこそ、演者も丸山さんもスタッフも、何よりお客さんにとってその瞬間がいい時間になればすごくうれしい。楽しい舞台を観た後ってどこか足取りが軽くなるような、言葉にできない気持ちになるじゃないですか。いろいろある現代社会の中で、劇場を出たときだけは何か言葉であらわしきれない豊かな気持ちになれる。そこを目指していきたいと思います。

 

2000-01-01 00.03.29

 

 

 

-バレエ