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福田紘也『Nosferatu』インタビュー!

新国立劇場バレエ団の福田紘也さんが、横浜BankARTで振付作『Nosferatu ノスフェラトゥ』を発表! 新国立劇場バレエ団のダンサーをキャストに迎え、自身の作品世界を披露します。創作中の福田さんに、作品への想いと意気込みをお聞きしました。

横浜BankARTで開催されるパフォーマンスイベント“Cafe Live 2017”で、振付作『Nosferatu』を発表します。イベント参加のきっかけは、“Cafe Live 2017”で選考委員を務める中村恩恵さんの推薦だったそうですね。

福田>今年3月に新国立劇場で上演した中村恩恵さん振付作『ベートーヴェン・ソナタ』に出演させていただいたのですが、参加できて良かったなというほくほくした気持ちと、同時に来シーズンはバレエ団のラインナップにコンテンポラリー作品がないということで寂しく思う気持ちがありました。そんなとき恩恵さんから「BankARTで作品をつくってみませんか?」と声をかけていただいて。すごくありがたい話ではあるけれど、僕としてはどうしようという戸惑いの方が大きくて、「とりあえず一週間だけ考えてもいいですか?」とお願いして返事を待っていただきました。

一番躊躇したのは、これまで一作しか作品をつくっていないという部分でした。しかも発表したのが新国立劇場の『DANCE to the Future』だったので、スタッフの皆さんもいつもご一緒している方々ですし、いろいろと周りに助けてもらった部分も多い。もしまた作品をつくるとしたら同じような環境でと思っていたんです。ですが、今回お話をいただいたBankARTの公演は振付家に任される部分が多くて、いろいろと自分でマネジメントしていかなければならないという。それに第一作をつくったときは“作品をつくろう!”と思ってすごく練った訳でもなくて、パッと思いついてパッとできた感じだったので、いざ二作目をつくろうとしても実際にできるだろうかという不安がありました。

 

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とりあえず曲を探してみようと思って、いろいろ聴いていたときに出会ったのが古いドラキュラ映画のサントラ。これは少し変わったつくりで、もともと1920年代につくられた映画に1980年代になってから作曲されたもの。曲を聴いたとき、パッと感じるものがあったというか、BankARTの空間を含めてイメージが浮かんできた。“ドラキュラ”をテーマに何かこれでつくれるのではと考えて、“よし、飛び込んじゃえ!”と思いきってお返事しました。

飛び込んではみたものの、やはりすごく大変でしたね。前作もそうですが、振り付けって修業だなってしみじみ思います。僕は昔から人に頼るのが苦手で、“これやって!”と言えないたち。だから一作目も自作自演の作品にした訳ですけど……。でも次に作品を創作するときは人と一緒につくろう、そこに挑戦しなければ人間的に成長しないだろうという想いがあって、バレエ団の井澤駿さんと奥田花純さんのふたりにお願いして出演してもらうことになりました。

 

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創作はどこから着手したのでしょう。

福田>まずは曲先行で、次にストーリーを考えていきました。タイトルの『Nosferatu』はドラキュラの意味。3人の登場人物が三角関係を繰り広げる物語はよくあるけれど、そのうちひとりがドラキュラだったら面白いのではと考えたのが発想の原点です。映画のドラキュラは悪役だけど品があって、魅力的だからこそ女性たちが集まってくる。井澤さんは品があるし、ドラキュラにぴったりなのではと考えました。

動きとしてはネオ・クラシックが多いですね。パッと出てくる動きがたいていネオ・クラシックな動きになっていく。ただ今回は会場もすごく変わっているし、もう少しチャレンジをしたい。あまり普段見ないような動き、普段ふたりがしないような動きをしてもらわないと面白くないな、という葛藤もあります。

 

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僕は家族の中でも末っ子で、教室の中でも末っ子的な立ち位置で、先輩方がバンと開いてくれた道をゆっくり歩いてきたタイプ。この年齢になるまで人を引っ張っていくということをしてこなかったのが、今こういう立場になってはじめてやらざるをえなくなっている。ですが、人にお願いするのが苦手なので、どこまで振りを投げていいのか、ふたりがケガしたらどうしようとか、いろいろ考えてしまうことも多くて。

人を待たせるのが苦手なので、振りを付けるときもどうしてもあせってしまいがち。もう少しドンとしていればいいんでしょうけど、奥田さんに振りをつくっているときに井澤さんが待っていたりすると、悪いなと思って早く取りかかりたくなるんです。とはいえそればかり気にしていたらチャレンジがなくなってしまう。最近はなるべくひねろう、粘ろうという努力もしています。

 

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井澤さんには前半はすっとした感じでいてもらい、終盤にかけて激しい感じを出すよう意識して振りを考えました。奥田さんは彼女にぴったりのすごくかわいい曲があったので、そこは素直にかわいらしく振り付けました。何より自分自身の振りに一番時間がかかっていますね。一度詰まるととことん詰まってしまう。ですが、そこはなるべく粘って、自分に対しては一番攻めた動きをしようと思っています。

バレエ団の中でも深く話をするのが奥田さんと井澤さんで、ダンサーとしてもすごくふたりを尊敬してる。奥田さんはいろいろ話を聞いてくれるので助かっています。僕が「さっきの動き、あの作品に似てないかな?」と聞くと、「そんなことないよ!」とバンと言ってくれて、それが心強くもあったりする。井澤さんはバレエ団で主役を踊っているし、リハーサルも掛け持ちだから一番忙しいと思う。彼はあまり感情を表に出すタイプではないから口にすることはないけれど、くたくたなんだろうなというのはわかります。ただ少しの待ち時間もiPhoneで真剣に音を確認しては、全力で踊ってくれる。ふたりとも本当にいいダンサーだなって思うし、ふたりが踊ってくれてすごく恵まれてるなと感じています。

 

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作中に使用する映像もご自身で制作されたそうですね。

福田>映像にはもともと興味があって、これまでもいろいろつくってきました。はじめて映像をつくったのは自分の教室の公演です。先生に“セット転換に時間がかかるからその間を繋ぐ映像をつくって”と言われて、それまでの舞台のダイジェスト版をつくったんですが、音楽に合わせて映像を編集していく作業がとても楽しくて。もともと映画やミュージックビデオを観るのが好きだったというのもあって、プロが使うようなソフトを買ったりと、いろいろ凝り出すようになりました。最近はバレエ団で誰か結婚すると映像をつくってあげたり、退団するダンサーに映像を贈ったり、といったこともしています。

今回の作品では、映像を使うことでストーリーにちょっとしたヒントのようなものを差し込めたらと考えています。でもいざテクニカルチェックで投影したら思うようにいかず、夜な夜な調整している最中です。

編集だけでなく、映像を撮るところから自分で手がけています。バレエ団の中島駿野さんや渡部義紀さんをアシスタントにお願いして、朝一番で車のシーンを撮影したり。あと、やはりバレエ団の細田千晶さんと廣田奈々さんにも協力してもらっています。ふたりとも絵を描くのが得意なので、彼女たちには小道具的なものをつくってもらいました。

 

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-コンテンポラリー