dancedition

バレエ、ダンス、舞踏、ミュージカル……。劇場通いをもっと楽しく。

レーゲンスブルク劇場ダンスカンパニー・竹内春美インタビュー!

森優貴芸術監督率いるドイツ・レーゲンスブルク劇場ダンスカンパニーが、この秋最新作『Shakespeare Dreams』を発表! レーゲンスブルク劇場ダンスカンパニーは森優貴さんが日本人として初めてヨーロッパの公立劇場で芸術監督に就任した気鋭のカンパニーであり、竹内春美さんはその最古参メンバーとして活躍しています。『Shakespeare Dreams』の上演に際し、本作の主要キャストを務めた竹内さんに現地取材を敢行! 初演を迎えた感想と、作品への想い、現地での活動をお聞きしました。

小さい頃からプロのダンサーとして海外で活躍したいという夢があったのでしょうか。

竹内>東京ディズニーランドのバックダンサーに憧れて、12歳のときにバレエをはじめました。遅いスタートではあったけど、稽古をするうちにどんどんバレエが好きになって、いつしかバレリーナになりたいと思うようになりました。あのときの自分を振り返るととてもバレリーナになれるとは思えないけど、無謀にも当時は東京バレエ団を目指していたんです。そのためにはまず留学だと思い、高校卒業後にオーストラリアにある小さなバレエ学校のプロフェッショナルコースに留学しました。だけど実際バレエは向いていなかったので、発表会やスクールパフォーマンスでもいい役はもらえなかったし、華々しい留学とはなりませんでしたけど。

ただその学校がバレエの技術だけではなく演技についても熱心に指導をする方針で、踊りだけではなく多くのことを学べたのはよかったところ。例えば『ラ・シルフィード』の稽古をしていたときなどは、“主役のシルフが今何を思っているか感じなさい、同じ気持ちになった人だけ動きなさい”という指導をされて。本当の感情になるまで動いてはいけないんだ、常に本当の気持ちになってから行動を起こさなければいけないんだ、ということを教わりました。嘘の演技をしないようにするというのは、あのときの経験がベースになっていると思います。

オーストラリアではコンテンポラリーとの出会いもありました。腰のケガで半年ほど休みを余儀なくされて、そのリハビリの過程でいち早く動けたのがコンテンポラリーだったんです。そこで、もしかしたら私はバレエよりコンテンポラリーがやりたいのかもしれないと思って。でもコンテンポラリーの授業は週に2回しかなく、結局コンテンポラリーダンスとはなんぞや、という状態のまま日本に帰ってきました。

 

森優貴『Shakespeare Dreams』

『Shakespeare Dreams』© Bettina Stöß

 

帰国後はバイトをしつつ、いろいろなワークショップを受ける日々。あるとき田町のアーキタンツで優貴さんがワークショップを開催することになり、受けてみたらとにかく楽しくて。優貴さんも“春美ちゃん頑張りなよ!”と応援してくれて、その後もメールではげましてくれるようになりました。それが10年前のこと。

しばらくして“一度僕が踊ってる公演やカンパニーのリハーサルを見に来てみたら?”と連絡をもらい、当時優貴さんが所属していたシュテファン・トスのカンパニーを見学しにヴィースバーデンまで行きました。そこでもう、シュテファンの作品が大好きになってしまって……。帰国後在外派遣員の資格を得て、改めて研修員としてヴィースバーデンに行きました。シュテファンのカンパニーは当時ダンサーが24人くらいいて、優貴さんはそのプリンシパルとして現役でばりばり踊っていた頃。私は在外研修員という立場でしたけど、シュテファンの作品ははげしいのでケガ人も多く出て、穴埋めとして代役で何度も出演させてもらいました。

ときにはソリストのこともあったし、ちょい役から大きい役まで立たなかった舞台はほとんどないくらい。本当にボリューム満天の一年でした。だから優貴さんも私が踊るのを見る機会はたびたびあって、そこで認めてくださったんだと思います。

本当は私もシュテファンのもとに残りたかったんです。ちょうどひとつポジションが空いたのでオーディションに挑戦したけれど、採用してもらえず大きな挫折を味わいました。一年間の研修を終えて結局日本に帰ってきましたが、その頃家の事情で金銭的に余裕がなくなり、自分で食べていかなければならなくなって。

でも日本のダンス環境では踊りだけで生計を立てるのは難しい。週に一回教えをして、あとはバイトでなんとかやりくりする生活でした。それでも貯金を切り崩しはじめていたので、このままだともうダンスは辞めざるをえない、続けていけないという状態だったんです。精神的にもかなり追い詰められていて、レーゲンスブルクの芸術監督に就任した優貴さんから“ウチに来ない?”と連絡が来たときは、実はもうぎりぎりでした。

本当に、よく私を立ち上げメンバーに入れてくれたなと思います。今でこそいいチョイスをしたと思ってくれているかもしれないけれど、当時はものすごい賭けだったはず。だからその感謝を忘れずに、私にできるベストを尽くしたいと思っています。

 

森優貴『Shakespeare Dreams』

『Shakespeare Dreams』© Bettina Stöß

 

ダンサーとして感じる森優貴作品の魅力とは?

竹内>ダークだったり、ちょっと変わった動きがあって、それでいて美しいところ。あと優貴さんの選ぶ音楽はどれも大好きですね。何より優貴さんの作品に出続けたいと思う魅力は、ダンスだけではなく演技も要求されるところ。踊りだけでなく、物語がある。そのプラスαの部分がないと、お客さんにも伝わらない。プラスαに到達するのは苦しいけれど、それができたらすごい感覚になれる気がして。だからこそ、喜びを感じるし、やり甲斐を感じるし、面白いんだと思います。

ダブルビルで外部から招聘されたゲスト振付家の作品を踊ることもあって、最初はどちらも新鮮だし刺激的で楽しくても、舞台の回数を重ねてなおのめり込めるのはやはり優貴さんの作品なんです。優貴さんの作品は演じる部分にしても、踊りの難しさも、すごく深い気がするんですよね。

 

森優貴『Shakespeare Dreams』

『Shakespeare Dreams』© Bettina Stöß

 

これまで辞めたいと思ったこと、他のカンパニーに移ろうと考えたことはないですか?

竹内>単純に家族や大事な人たちが恋しい、日本食が恋しい、ということで日本に帰りたくなったことは何度もあります。ただやはり優貴さんの作品は強いですね。ダンサーの中にはいろいろな振付家と仕事をしたいと外へ挑戦しにいくハングリーな人もいるけれど、私にそういう気持ちが起こらないのは、飽きない何かがそこにあるから。まだ足りない、まだ出会いたいって思う。だからまだ辞めたくないんだと思います。

年齢を重ねるごとに体力的にキツくなってきたり、苦しいと感じることもあるけれど、どこかでもっとやりたいと思ってる。もし今辞めたらこの先優貴さんがつくる作品に関わっていけないんだと考えると、まだ味わっていたいと思ってしまう。優貴さんの作品にしても一年目より今の方がステキだし、これからもどんどん良くなるんだろうなと考えると、まだここにいたいって思うんです。

 

森優貴『Shakespeare Dreams』

『Shakespeare Dreams』© Bettina Stöß

 

大好きな振付家の作品を踊り、プロのダンサーとして生きていける。非常に幸せな環境ですね。

竹内>本当にそう思います。ダンス界、劇場専属カンパニーのダンサー、フリーランスのダンサーの中で、どれだけの人がここまでのめり込める作品や振付家に出会えているかといったら、世界中見渡しても本当にひと握りだと思うから。しかもヨーロッパでこうしてプロとして踊ることができるなんて、奇跡みたいな話だし、正直言って恐いくらい。

でも入団した頃からの日々を改めて振り返ってみると、もう少し余裕のある将来像を思い描いていた気がします。ずっと何かしら悩みや試練と闘ってきました。ラクだなって思ったことは一度もないままここまで続けてきた。この5年間いつになっても挑戦が減らなくて、だからこそ刺激があって、だからいつまで経っても気がすまないんだと思います(笑)。

 

森優貴『Shakespeare Dreams』

『Shakespeare Dreams』© Bettina Stöß

 

 

 

-コンテンポラリー