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金井芙三枝『プロメテの火』インタビュー!

1950年に江口隆哉・宮操子振付により初演を迎えた『プロメテの火』。モダンダンス界の歴史に輝く伝説の作が、この春オーケストラ演奏により完全再現を果たします。ここでは、江口門下生であり、作品監修を手がける金井芙三枝先生にインタビュー! 初演時の思い出と、作品への想いをお聞きしました。

2016年に新国立劇場で行った復元公演時の反響と手応えをお聞かせ下さい。

金井>モダンダンスで物語舞踊を創作したのは『プロメテの火』が初めてでした。ただ1950年に大きな評判を呼んだ作品だとはいわれていても、現代の人たちは本当のところどうだったのかを知りたい。批評家や学者からは、実際に作品を観ることができて良かったという声をいただきました。

あと伊福部ファンという方たちがかなりいて、幻の音楽が、しかも舞踊と一緒に観ることができたという喜びの声を多く聞いています。今回は特に生演奏なので、伊福部ファンがかなりチケットを購入してくださっているようです。

 

金井芙三枝『プロメテの火』

 

前回の復元公演で一番苦労したのはやはり火でした。本物の松明だと人間が喜んで飛び跳ねれば炎の先が揺らめいたり火の粉が飛んだりと火の面白さがあるけれど、なにしろ消防法で禁じられてしまったので、制約が厳しくなかなか使えません。でも前回よりかなり改善されていると思います。とはいえもちろん本物の松明とは違うので、火が消えないように大事に大事に動くようにと振りを手直ししています。そういった特殊装置はとても重いので、踊り手は苦労すると思いますが……。

1950年に初演して、以来10年あまり上演を繰り返す過程で装置もいろいろ変わっていきました。帝国劇場での初演時はわりとリアルな装置でしたけど、上演を繰り返しているうちに抽象化されていった。時代的な流行もあったと思います。今回は装置も衣裳もデザイナーが変わったので、少し初演時に近くなっていて、2016年の上演時よりリアルになっていると思います。鷲の羽根などはかなり大きくなって、迫力が増しているのではないでしょうか。

 

金井芙三枝『プロメテの火』

 

江口先生の振付はどの程度踏襲されているのでしょう。アレンジを加えている部分はあるのでしょうか。

金井>私共、門下生としては100%思い出したいという気持ちがありました。ただ50年以上前に上演が途絶えた作品ですから、思い出せない部分も多い。当時は家庭用のビデオもない時代で、写真を見て思い出すしかない。写真もカラーがまだ一般的ではなかったのでモノクロで、しかも感度が悪いので舞台写真自体があまり残っていないんです。

第三景は私自身100回近く踊っているのでだいたい再現できていると思います。全体としては、50%くらい思い出せたといって間違いないのではないでしょうか。曖昧な部分に関しては、江口先生がお稽古場で好んでやっていた動きを取り入れながら復元していきました。国宝にしてもそうですけど、復元するときって何か似た材料を持ってきてくっつけたりしますよね。そのような感じで、補修しながら復元していきました。

また幸いなことに『プロメテの火』は伊福部先生が踊りに合わせて音楽をつくっているので、音楽が変わると“ここで動きが変わったんだな”というのがわかるんです。例えばプロローグの中間部分は突然音が激しくなるので、動きも激しくなるんだなと考えたり……。そうやって音に伴い思い出した部分がずいぶんありました。

再現にあたっては私自身の記憶だけではなく、古いお弟子さんや関係者にも観てもらっています。その上で“こんな感じだったんじゃないかな”とみなさんに確認してもらいながらつくっていきました。

 

金井芙三枝『プロメテの火』

 

江口先生の創作法はどのようなものだったのでしょう。

金井>当時はお稽古の半分が即興舞踊でした。第三景の創作はかなりその方法を取り入れていて、お稽古のときに江口先生がみんなに“原始人が火をもらった喜びを表現してみなさい”と指示をして、私たちの即興を見て“この動きを採用しよう”という感じでつくっていましたね。プロメテウスのソロはもちろん江口先生がつくりましたが、群舞に関してはみんなの即興から動きを取り入れて、だんだん振りを固定することで作品化していました。

 

金井芙三枝『プロメテの火』金井芙三枝『プロメテの火』

 

 

-モダンダンス