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フィリップ・ドゥクフレ『新作短編集(2017)ーNouvelles Pièces Courtes』インタビュー!

フィリップ・ドゥクフレ率いるカンパニーDCAが、『新作短編集(2017)ーNouvelles Pièces Courtes』を引っさげ来日。昨春フランスで初演を迎え、話題を呼んだ最新作が早くも日本上陸を果たします。公演に先駆け来日中のドゥクフレに、作品についてお聞きしました。

映像を駆使するなど、テクノロジーを積極的に導入されています。ダンス作品にテクノロジーを取り入れる上でのこだわり、気を付けていることはありますか?

ドゥクフレ>最近はあらゆる技術や方法があるので、適切なものを選ぶということが大切だと思います。いろいろ研究して見つけ、そしてきちんと見極める必要があります。映像を使うにしても、それが生身の人間の身体より目立つようであってはいけません。何回も自分の目で見て、バランスを取るようにしています。今は技術が進んでいますので、映像を使う時はたいてい抑える方向で調整する必要があります。

あと大事にしているのが、生であるということ。私の作品では常にそうですが、できる限りライブで、生きたものをお届けしています。舞台にいるダンサーを撮影し、それを舞台上に投影すると本人がそこにいる。ライブで撮影したものを投影することで、生身のダンサーがよりうつくしくなり、より強くなる。事前に撮影したものを投影したら、より複雑になってしまう。たくさんの情報を理解し、取り込むといった作業を観る側に強いることになるでしょう。

ライブというのがひとつのキーではないかと思います。ビデオも生で、音楽もできる限り生で、もちろんダンスも生のもの。生きたもの、生の状態でおみせすることでたくさんのものをお届けし、それを分かち合っていきたいと思っています。

 

フィリップ・ドゥクフレ

©Charles Freger

 

短編集のひとつに日本をモチーフにした作品をつくろうと考えた理由をお聞かせください。

ドゥクフレ>日本は大好きな国であり、過去30年間に渡り40回以上来日していますが、依然としてミステリアスでとても惹き付けられます。日本文化というのは非常に洗練されていて、厳密で、決まりごとがたくさんあって、なかなか理解できないこともあります。

ミステリアスな部分は、まず人々でしょうか。例えば、日本人は何か感じたことがあってもそれを必ずしも見せる訳ではないですよね。レイヤーがいくつもあるように思います。日本人と比べると自分は真逆で、透明にされた気分になってしまいます。感じたことをすぐ言ってしまうし、疑問が浮かんだらすぐ言葉にするし、何か気になることがあるとすぐ質問をしてしまう。どういう気分なのかきっとすぐにわかってしまうでしょう。

 

フィリップ・ドゥクフレ

(c)Laurent Philippe

 

1996年に日本で沢田研二主演のミュージカル『DORA-百万回生きた猫』をつくりましたが、ついでに日本の方と恋をしたり……、なんてこともありました。その経験をきっかけに、日本に対するミステリーがさらに深くなりました。理解できなくなった上に、より日本に惹き付けられるようになった。私の心に印象深く刻み込まれた経験です。

もちろん作品の中でこのようなことを語っている訳ではありません。言葉やコミュニケーション、フィジカルな要素、そして狭い空間にたくさんの人がいる、といった日本の印象も扱っています。ナレーション的な感じというよりも、いろいろな要素が入り交じった作品です。

例えば楽曲にボサノバを使用していますが、これはたまたま表参道を歩いていたときに聴こえてきて買ったCDです。ボサノバはもちろんブラジルの音楽ですが、私の中では日本と結び付いている音楽なんです。また昨年日本で上演した『わたしは真悟』でご一緒したトクマルシューゴさんの曲も使っています。

そう見えるかわかりませんが、私が大好きな歌舞伎へのオマージュにもなっています。初めて坂東玉三郎さんの舞台を観に行ったとき、非常に印象深い場面がありました。彼は扇子を手に持っていましたが、それを見もしないで空中に投げ、さらにそのまま視線を扇子に向けることなく指二本で掴んでしまったんです。あのときは顎が外れるほど驚きました(笑)。

今回はそれを作品に再現しています。ただ私たちの場合は、ダンサーの指に扇子を渡す人間がもうひとり必要でしたけど(笑)。私はマジックや魔法といったことが大好きで、ときによってはトリックを見せてしまうこともありますし、マジックにすることもあります。

 

フィリップ・ドゥクフレ

 

玉三郎や歌舞伎について何か研究はされたのでしょうか?

ドゥクフレ>どの作品をつくるときも毎回同じですが、多種多様なものを集めて作品をつくっています。興味深かったり美しかったりするものと、全く関係ないものを合わせてつくるんです。たくさんの尊敬の念を持ってつくっていますし、自分の栄養になってはいますが、何かを厳密に再現している訳ではないので、もしかすると玉三郎さんのオマージュには見えないかもしれません。しかもここでは全く違う要素も取り入れていて、六本木のキャバレーで見たニューハーフショーの出演者がとても奇妙で印象深かったので、その様子もオマージュに混ぜています(笑)。

日本にはたくさんの愛情、尊敬、そして多くのクエスチョンマークが私の頭の中にあります。愛を込めて、軽やかなタッチで描いています。一見オマージュには見えなくても、何か心を動かすものがあればと思っています。空想力を広げられるような世界観を提示し、そこからみなさんご自身の方法で何かを語ることができるようになればと。何かうつくしいものにして、感動をみなさんと分かち合えればという想いでつくっています。

 

フィリップ・ドゥクフレ

©Laurent Philippe

 

 

-コンテンポラリー