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篠原聖一×下村由理恵『アナンケ 宿命』インタビュー!

2015年、大阪で初演を迎えた篠原聖一演出・振付作品『アナンケ 宿命』。ヴィクトル・ユゴー原作『ノートルダム・ド・パリ』をテーマにドラマティックな作品世界を描き、大きな注目を集めた話題作が、待望の東京初演を迎えます。この秋の上演を前に、篠原さんと主演を務める下村由理恵さんにインタビュー。作品への想いと意気込みをお聞きしました。

篠原聖一バレエ・リサイタル DANCE for Life 2018『アナンケ 宿命』。本作のテーマに『ノートルダム・ド・パリ』を取り上げたのは何故でしょう?

下村>新作のテーマを決めるにあたり、私の方から“『ノートルダム・ド・パリ』はどう?”とアイデアを出させていただきました。以前小林恭バレエ団の公演で初めてエスメラルダを踊らせていただいたとき、そのドラマ性が自分の中でぴたっときた覚えがあって。私自身エスメラルダという役に惹かれていたのと、もともとドラマティックな作品が好きだったということもあり、この題材を篠原の演出で新たにつくってもらえないかと考えたんです。

篠原>今回の作品にしてもそうですが、新作をつくるときはだいたい彼女から提案されることが多いですね。僕はどちらかというと慎重すぎるというか、石橋を叩いても渡らないタイプで、ひとりだとなおさら渡らない。DANCE for Lifeも17年目になりますが、毎回お尻に火をつけられて取りかかっている感じです(笑)。下村の話と重複しますが、以前小林恭バレエ団の『ノートルダム・ド・パリ』で僕がフェビウスを、その何年か後に彼女がエスメラルダを踊ったことがありました。だから彼女もなおさらやりたいという気持ちがあったのでしょう。またそういう経緯があったので、僕もつくってみたいという気持ちを以前から抱いていました。

 

 

創作にはどのようにして取りかかりましたか?

篠原>いつもそうなんですが、創作には曲が重要で、しっくりくる曲がないと上手くつくれない。コンセプトを考えて、それに対して音をはめていくというスタイルです。音をつくるために、まず指揮者の福田一雄先生のところにお伺いして、音楽をお借りすることろからはじめました。“『ノートルダム・ド・パリ』の音楽を探しているんです”とお伝えしたら、“こんな曲はどうかな”、“こんな曲もいいのでは?”と、いろいろな音を貸してくださって。

福田先生とはもともとうちの父の代からお付き合いで、福田先生の息子さんとも旧知の間柄。息子さんは今ヨーロッパのオーケストラでオーボエ奏者として活躍されていますが、彼の通っていた学校と僕のいたバレエ団が近く、よくお昼を一緒に食べに行ったりしていたんです。そういう縁もあり、今回の創作の際もいろいろご協力いただきました。福田先生が貸してくださった楽曲の中からまた私があれこれ抽出し、最終的にロシアで活躍した作曲家でまとめることができました。グリエールやハチャトゥリアンなど、かなりドラマティックな構成になっています。

 

 

『ノートルダム・ド・パリ』というとヴィクトル・ユゴー原作で有名ですが、今回のバレエ化に際し台本は用意されたのでしょうか?

篠原>取りあえず資料を集めないと気が済まないタイプなので、まずは本を読むところからはじめました。ただ台本があるのは僕の頭の中だけで、ダンサーに台本をお渡しするようなことはないですね。頭の中に台本ができ上がるのはだいたい曲と同じタイミング。曲からインスパイアされてストーリーが生まれる場合もあれば、大きなコンセプトを考えておいて、この曲があてはまる、あの曲があてはまる、と構成していく場合もあります。

曲が決まると作品の流れも決まってきます。音楽が決まったら、僕の中では7〜8割方出来上がっている状態です。流れができてしまうと、動きも何故か生まれてくる。逆に音楽が決まらないと動きも全然出てこないんです。

振付に関しては、美術みたいな感じでしょうか。こういう流れの中にこういう動きがあってーー、という大まかなデッサンを考えておき、その上で人物にあてはめながら、ダンサーのイメージでつくっていきます。

 

 

下村さんが創作にタッチすること、何か意見を言うことはありますか? 

篠原>僕がダンサーに与えたものに対して、何かしら意見を言ってくれることはありますね。例えばピアニストがピアノを弾くとき、同じショパンを弾いたとしてもいかに自分の音にするかによって個性の違いがみえてくる。それと同じで、同じステップでも僕の音の取り方、音のとらえ方というのがあって、それを一番わかっているのが彼女。全てをわかった上で“篠原はこうだと思うよ”とすぐ反応してくれるので、すごくありがたいですね。

下村>リハーサルでみんなのことを後ろから見て、“この人はこっちの方がいいかもしれませんね”“こういうステップはどう?”と提案することはたまにあります。彼がやって欲しいこと、望むことは普段から聞いているし、まして今回は再演なので、初演でちょっと至らなかったことを“今度はこうしていきたい” という話をしていたりとやりたいことはわかっている。それにたぶんもともと“こういうものがつくりたい”という部分、目指すものが一緒なんでしょうね。

“篠原という作家はこういうことをして欲しいのかな”と考えて、私はその手助けができたらというスタンスです。あと、ダンサーの手助けをするも私の役目。篠原といろいろなダンサーがいて、双方の橋渡しをしている感じ。だからダンサーが迷っていると、“篠原はこういうことをやって欲しいんだと思うよ”と言うことはあります。またそこはミストレスとしてすべきことかなと思っています。

 

 

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