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篠原聖一×下村由理恵『アナンケ 宿命』インタビュー!

2015年、大阪で初演を迎えた篠原聖一演出・振付作品『アナンケ 宿命』。ヴィクトル・ユゴー原作『ノートルダム・ド・パリ』をテーマにドラマティックな作品世界を描き、大きな注目を集めた話題作が、待望の東京初演を迎えます。この秋の上演を前に、篠原さんと主演を務める下村由理恵さんにインタビュー。作品への想いと意気込みをお聞きしました。

個性豊かなダンサー陣にも注目です。キャスティング選定の基準にしたものとは?

篠原>キャスティングは毎回彼女に任せています。“こういう感じの役なんだけど”と伝えると、“だったらこの人が合うんじゃない?”と提案してくれる。そのセレクトが上手いんです。いつも外れたことがない。最初は“エッ?”と思うような配役でも、実際に踊ってもらうと“なるほどね”となることが多くて。今回も芳賀望さんがクロパンで、浅田良和さんがグランゴワールということで、“エッ、逆じゃないの?”という声もあったけど、それが不思議としっくりくるんですよね。

下村>いろいろな作品でいろいろな方とお仕事をさせていただく中で、“この人だったらこういう役が合うんじゃないかな”、といつもどこかで考えているところがあって。それに加えて、“この人のこういう役が見てみたい”という私自身の想いもあります。また篠原はダンサーの良さを引き出すのがすごく上手いんですよね。

 

 

『アナンケ 宿命』は大阪で初演を迎え、今回3年ぶりの再演で東京初演を迎えます。当初から再演を視野に入れていたのでしょうか?

篠原>そうですね。最初は大阪の佐々木美智子バレエ団で上演して、その後東京で再演を、という流れで考えていました。『アナンケ 宿命』は僕の中では割と出来がいい方なのかなという気がします。音と上手くかみ合ったというか、“この作品のために曲があったようにみえた”という方もいて、それはすごくうれしいですよね。

下村>今回のメインキャストのうち、山本隆之さん、佐々木大さん、青木崇さんは大阪と同じキャストで、あとは東京勢になっています。佐々木さんはDANCE for Lifeの第一回公演以外は全て主演していただいています。彼は何でもできるけど、内に秘めたパワーがすごい。秘めたエネルギーを表現できるダンサーというのは意外と少ないし、カジモド役がぴったりだと思ってお願いしました。実際のところ、彼はやはり素晴らしいカジモドです。

山本さんにはフロロを踊っていただいていますが、悪役がもうぴったり。頭にくるくらいかっこよくて、にくたらしくなってしまいます(笑)。青木さんはクリーンなテクニックとダイナミックさを備えたダンサーで、フェビウス役にぴったりです。3人とも、あの芝居心はすごいなと感じます。再演ということもあり、すでに振りは入っているので、そこに+αが加わることで初演とはまた違った味が出てきている。見ていてすごく面白いし、さすがだなと思います。

 

 

今回下村さんはエスメラルダを踊ります。篠原さんがエスメラルダとして下村さんに求めるものとは?

篠原>エスメラルダは十代の役で、フェビウスに出会って初めての恋に落ちる。そんな純粋さもありつつ、大道芸人としていろいろなことを経験してきている女性でもある。“グランゴワールと結婚すれば彼は死刑にならなくて済むのよね”と、機転がきいたり、ずるさやしたたかさも持っている。いろいろな要素があるけれど、その根柢にあるのは優しさみたいなものだと思う。その辺を出してもらえればいいですよね。

下村>篠原から“こうして欲しい”と言葉で説明されることはほとんどないですね。ある程度ダンサーに料理させてくれるんです。私はトータルして、“彼の望んでいるエスメラルダ像はこういうイメージなのかな?”と想像しながら役をつくり上げる感じです。もともと彼のようなタイプの振付家のもとでずっとやってきたので、振りをもらったらある程度自分なりのニュアンスを掴み、そこから“どうですか?”と提示する、というのが私のスタンス。ある程度つくりあげたものを彼の前で踊り、そこから彫刻のように削っていくこともあれば、粘土のように足していってくれることもある。そういう作業を暗黙の内にしているような気がします。

 

 

私たちダンサーというのは、演出家が望むものを表現するのが仕事。ただ私も相当がんこで我が儘なので、“こういう解釈で踊りたい”と思ってしまうこともあって。ときにはその方向性が違っていることもあるので、そういう場合は“そうか、解釈が違ったのかな”と受け止めたり、またあるときは“私だったらこの解釈になるけれど?”と問いかけてみたりする。そこからまた作家とやりとりをしていきます。そのやりとりが私は大好き。佐々木さんや山本さんも同じように言ってくれています。

なかには頭から“自分がこう言うんだからこうしてくれ”と言う作家もあるだろうし、もちろん歩み寄らせてくださる作家もいらして、それはそれで当たり前です。篠原は一緒につくり、みんなで意見を言い合う場をくれるので、ダンサーたちも納得して演じてくれています。

 

 

篠原>もともとダンサーと振付家というのは同じところに立っていると思っているので、先生と生徒だとか、上下関係といった感覚はないですね。ひとりの能力というのは限られている訳だから、いろいろな意見があればそれを取り入れていく方がいいと思う。またそれを聞くことで、こちらも“こういう考え方があるんだ”、“こういう説明の仕方があるんだ”と教えてもらうことがありますから。

下村>でも彼はある意味優しすぎるところがあって。作家なんだからもっと押し通した方がいいのにと思うときもある。それが彼の良さでもあるけれど。

篠原>もちろん僕にも絶対に譲りたくないところはある。そこはそうして欲しくないと思うこともあるし、ときには厳しく言うこともあります。へんなところで頑固なんです(笑)。

 

 

 

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