篠原聖一×下村由理恵『アナンケ 宿命』インタビュー!
作家として、下村さんというダンサーをどう受け止めていますか?
篠原>今の若いダンサーは技術的にはすごく高度なものを持っているけれど、バレエに必要なのはそれだけではない。特にこういう作品はやはりドラマが大切で、ダンサーのみなさんが演技をしてくれないと成り立ちません。そういう意味でも、彼女の踊りと演じる心を他のダンサーに学んで欲しいなと思う。
彼女は音のとらえ方がすごく独特で、ある意味特異なセンスというか、すごく面白いなと僕はいつも感じていて。作品でもその辺りが生かされればなと思っています。
下村>すごく音痴なんです。みんなが“エッ!?”というようなカウントで踊ってしまうんです(笑)。共演者からも、“どこからそのカウントが出てきたの?”とよく言われます。
篠原>僕としては、それはそれでいいんじゃないかと思っています。好きなところですっと止まってバランスを取ったかと思うと、次の音にはまるように上手く処理します。そういうダンサーってあまりいないと思うから。福田一雄先生が以前彼女の『眠れる森の美女』のヴァリーエションを見て、“まるでオペラ歌手がアリアを歌っているようだ”とおっしゃったことがありました。アリアというのは歌手が好きなように歌うらしいんです。福田先生の言葉を聞いて、“ああ確かにそうかもしれないな”と思いましたね。
ただ本人は無意識なんです。好きなように自分をコントロールできているところが面白い。感性が特別なのかもしれないけれど、本当に気持ちの良いいところで音を使ってくれる。今のダンサーは優等生が多い。昔はもうちょっと個性が強い人がたくさんいたよね、なんてついつい思ってしまいます。求めているものが違うのかもしれません。今はスポーツ的にワッと回ったり足を上げたり、バンバン飛んだりする傾向にある。アクロバティックな要素というのはもともとバレエにあるものだから、それはもちろん大事だけれど、それ以上に人間が演じているということを忘れてはいけない。完璧に踊れるというのも素晴らしいことではあるけれど、それだけではだめで、いろいろな要素がバレエには求められると思うんです。
僕の一番の目標は、一般の人にもわかりやすいドラマをみせること。わかりやすいストーリーを通してバレエの楽しさを伝えられたらいいなと考えています。またそうでないと一般の観客がついてこないと思う。バレエ人口の開拓は本当に大変です。どうしてもバレエって敷居が高いと言われてしまう。いつも同じお客さんや関係者は来ても、一般にはなかなか広がらない。それをどうにかしていきたい。こんなに面白いのに、何でだろうと思うんだけど……。マニアックな方たちが学問的な視点で捉えるような作品もあるだろうけど、僕はやっぱり一般の人たちが楽しめる作品をつくっていかなければいけないのかなと思う。それはストーリー性の強いものであると思うし、それを演じてくるのが彼女なんです。
篠原作品のミューズであり続けるために、心身共に日々心がけていることはありますか?
下村>治療の先生に身体のケアとピラティスを指導していただいているのと、柔道や空手、ラグビーの強化選手を指導しているコーチについて筋トレをしています。コーチはダンサーに指導するのは初めてで、最初は“折れそうで怖い”と言っていましたね(笑)。パーソナルレッスンで、私がこうしたいとお伝えした内容に合わせてプログラムをつくっていだきました。身体だけでなくメンタルについても話をしたりと、いろいろ助けていただいています。年齢と共に筋力も落ちていくけれど、コーチと出会ったことでとても前向きになりました。
私が身体を維持するのは、篠原の作品を残していくため。篠原にはもっともっと作品をつくって欲しいので、彼の助けをしていくために身体づくりはしておきたい。また下村由理恵バレエアンサンブルのみんなにも、もっともっと彼の作品を踊ってもらいたい。私が自分自身の身体で伝えていくためにも、健康でいなければと思っています。