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笠井叡『高丘親王航海記』インタビュー!

舞踏家で振付家の笠井叡さんが、澁澤龍彦の遺作『高丘親王航海記』をダンス化。生前の澁澤さんと交流があったという笠井さん。没後30年以上の月日を経た今、総勢21名のダンサーを率いこの大作に挑みます。リハーサル中の笠井さんに、創作のきっかけと、本作への想いをお聞きしました。

総勢21名のキャスト勢にも注目です。ダンサーにはそれぞれ役柄があるのでしょうか。

笠井>書き上げた台本はキャストにも渡しています。みなさんそれぞれ役柄があり、みなさんそれぞれどこかキャラクターに似たところがありますね。高丘親王役は私で、藤原薬子役はBATIKの黒田育世さん。薬子は実在した人物で、平城天皇の寵愛を受けた。平城天皇から嵯峨天皇の世に変わったとき、もう一度平城天皇のもとに権力を取り戻そうと変を起こす悪い女です。

安展は親王の従者で、コンドルズの近藤良平さんが踊ります。近藤さんも安展に似ていますね。近藤さんには私が2000年にグローブ座で上演した作品に出てもらったことがありました。彼がコンドルズを結成する前の話です。その後彼もすごく忙しくなってしまって、ご一緒するのは約20年ぶり。コンドルズでの近藤さんとはまた違う側面が彼にはあって、今回はキャラクター的にもそうした部分を出してもらおうと考えています。

 

 

パタタ姫というのは東南アジアの国王の娘。d-倉庫で上演した『白鳥の湖』(2017)にも出てもらった篠原くららさんが踊ります。篠原さんは熊本のバレエダンサー。パタタ姫のイメージに合っているので今回お願いしました。

春丸は空を飛ぶ天女と鳥の中間のような舞姫で、京都公演には寺田みさこさんが、東京公演には酒井はなさんが出演します。寺田さんは京都のバレエダンサーで、『今晩は荒れ模様』(2015)にも出ていますが、なかなか舞台度胸のある方です。酒井さんとご一緒するのは初めてです。榎本さんが“春丸はぜひ彼女で”というので、それほど言うのならということでお願いしました。

円覚はちょっと学者肌の人物で、これは笠井瑞丈が踊ります。秋丸というのは女なんだけどそれを隠してて、いつも男の格好をしているというキャラクター。秋丸役は岡本優さん。彼女が学校を卒業した直後から知っていますが、なかなかしっかり動くダンサーです。陳家蘭役は上村なおかさんとBATIKのメンバー。蜜人は日本でいう即身成仏のようなもので、食べ物を一切断って生きたまま仏になる。蜜人役はオイリュトミのダンサー6名が踊ります。

 

 

キャストのひとり、円覚役でご子息の笠井瑞丈さんが出演します。振付家として、笠井瑞丈というダンサーをどう捉えていますか?

笠井>彼については自分が生み・育てたという部分からどうしても逃れられない宿命があって、なかなか客観的に言うのは難しい。ひとりのダンサーとして使うことはできたとしても、そこで私自身との関わりを作品の中にどう生かしていくか、という部分を回路として持ってしまうんです。

その上でひとりのダンサーとして見た場合、彼は動きの中に感情を持つということをしない人。普通は感情があるから動きが出てくるものだけど、彼の場合はそうではなくて、頭でこうだと考えて客観性を持って動く。即物的というか、無機的というか、感情なしで動くタイプ。だから私が瑞丈をダンスの素材とする場合、“この人はどうしたら動きと感情を結びつけられるか?”とまず考えます。彼の場合、感情が動くのは音楽だけなんです。音楽に乗る場合は感情がある。音楽を除くとどうなるか、そこは面白いところかもしれません。

『花粉革命』(2017)は親と子という人間関係に流れるものがあるからできた作品でした。表面にはストレートに出てこないけど、彼の中に“笠井叡のようになりたい”という感情がある訳です。ひょっとしたら彼のダンスの感情というのはそこに一点集中しているのかもしれません。だからこそ『花粉革命』のような作品ができたとも言えるでしょう。

 

 

作中はどのような楽曲を使用される予定ですか?

笠井>モーツァルトの歌劇『魔笛』を中心に使っています。というのも、『高丘親王航海記』と『魔笛』には物語自体に重なるところがあって。高丘親王というのは平城天皇の子供で、第三皇子なので本来なら天皇にはならない立場にあるけれど、世の動向によってはひょっとすると天皇になる可能性もある。ところが薬子の変に巻き込まれ、権力争いの末に出家する。権力を放棄して求道に入っていく訳です。一種の天路歴程、悟りということなのでしょう。

『魔笛』はというと、ひとりの男がいろいろな女性と出会い、最後にピラミッドの神殿に辿り付いて神になる。要するに『高丘親王航海記』は天竺に行きたいというお話で、『魔笛』もまたさまざまな出会いを経て天上を目指す。そこに共通する部分を感じます。

 

 

ダンスというと、音楽を使うか、音楽を使わないかですよね。でもこの作品は、音楽、語り、ダンスの三つが主軸になっています。作中は私が朗読した『高丘親王航海記』の一文にダンスを合わせ、そこに音楽を加えています。やはり語りを入れないと観ている人は筋がわからないし、面白くない。単純に動きとして目で見て面白いというのでは、“別に『高丘親王航海記』でなくてもいいじゃない”となってしまう。なので観ている方にとって筋書きがイメージできるようにしています。

ダンスに関わるのは音楽と言葉ですが、さらに今回は舞台美術も加えています。かなり大がかりなものになっていて、舟を新たにつくりました。人が乗れるくらいの大きな舟で、舞台の上を航海していきます。あと舞台には虎も出てきて、これも2〜3mと結構大きい。初演会場のある京都でつくっていますが、東京公演の際どうやって運ぼうかというのもまた悩ましいところです(笑)。

 

 

 

-コンテンポラリー