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カラス・アパラタス三周年! 勅使川原三郎インタビュー。

2013年7月、荻窪にオープンしたカラス・アパラタス。勅使川原三郎率いるKARASの拠点であり、館内のホールではダンスシリーズ『アップデイトダンス』の連続公演を行うなど、オープン以来精力的に活動を続けています。この夏迎える三周年記念公演を前に、主宰の勅使川原さんにインタビュー。これまでの三年間と、今後の展望についてお聞きしました。

これまでアップデイトダンスシリーズで上演した作品のなかで、特に印象に残っている作品、好きな作品といえば?

勅使川原>全部好きですが、『プラテーロと私』はすでに3回上演しているのでちょっと特別扱いしているかもしれません。『詩人なき詩』も好きですね。この作品は幕開けからしばらく誰も舞台にいない時間をつくりました。最近上演した『ペレアスとメリザンド』、『春と修羅』、『トリスタンとイゾルデ』、『白痴』といった作品も好きです。なかなか選べないですね。

 

『プラテーロと私』©KARAS

『プラテーロと私』©KARAS

限りある小空間を毎回違う景色に描き替える、その奥行きある演出にも驚かされます。

勅使川原>空間については、まず映像イメージから抜け出したいという想いが前提にあります。網膜に映っているものは立体であり、それをイメージではなく実体としてつくりたい。映像イメージのような二次元的なもの、フラットなイメージという観念を排除したい。ただディテールをきちんとつくっていかないと、逆にイメージに陥ってしまう。視覚記憶を再利用するのが舞台美術であり、そこに陥って観念的イメージを背景のように使ってしまうのではつまらない。昔の書き割りのようなものはまさにそうですよね。僕は照明も自分で手掛けていますが、照明に興味があるのは、それが背景ではなく全面的に支配しているから。絵柄としてのイメージではなく、その情景が見えてくる、生きている空間としての息づき方を求めています。

 

『月の月』©KARAS

『月の月』©KARAS

大劇場とはまた違い、舞台と客席の近さも醍醐味のひとつです。舞台で踊っていて、観客の熱を感じることはありますか?

勅使川原>やはり観客の熱というのはびしびし感じます。一番顕著だったのは『静か』という無音の作品。あのときは観客と同じ空間で一緒に創っていった感覚がありました。他の作品でもそう。アップデイトダンスは観客のみなさんと一緒に作品を創っている気がします。

これだけ至近距離でパフォーマンスをしていると、こちらもやはり日々鍛えられます。それが今の僕の年代、佐東のキャリアでできるのはとてもありがたいことです。小さな空間ではありますが、『白痴』の最終日は74人と過去最高の来場者数を記録しました。みなさんアパラタスを選んで来てくださり、本当に真剣に観てくださっているのを感じます。いつも公演後に舞台上で話をしますが、そうしているとひとりひとりの顔がよく見えます。お客さんと近い関係を持てるのは、やはり大きい劇場にはない良さですよね。

 

『白痴』©KARAS

『白痴』©KARAS

アップデイトダンスシリーズでは一時間もの間ダンサーに休みを与えることなくソロやデュオを踊り続けます。身体的負担は相当なものではないでしょうか。

勅使川原>振付とは単に身体の動きを組み合わせるものではなくて、その時々で立ちあらわれてくるものを構成するべきだと思っています。音楽にしてもそうで、演奏家が疲れるから緩急を入れようというのではなく、音楽性として演奏されるものでなければならない。画家の仕事にしても、疲れたからちょっと手を抜くような部分があったらおかしい。我々はその時間が勝負なので、動きのない瞬間というのがあるとすれば、作品によって要求されるべきだと思う。考えなしに動きの組み合わせで踊ったら疲れるでしょう。けれど疲れたら休めばいいというやり方は、僕にとって違う仕事になってしまう。

踊り続けられるのも、結局は日々の積み重ねです。筋肉以上に呼吸で動くというのが僕のメソッドであり、長年訓練していると呼吸の仕方が画一的ではなくなってくる。呼吸と身体の関係は画一的だとよく言われますが、僕は呼吸法というのは随時変化するものだと思っています。話し方や演奏によっても違うし、踊るときの呼吸、スポーツするとき、静かに歩くときの呼吸もあって、どれも全く違う呼吸の仕方をしている。その時々で随時制御しつつ、使い分けているのが呼吸だと思う。それを組み合わせるだけではなく、何があっても対応できるような身体になっているべきだと考えていて、そういう意味でも稽古はかなりハードに行っています。

 

『ハリー』©KARAS

『ハリー』©KARAS

佐東さんに加え、鰐川さんもアップデイトダンスでソロデビューを果たし、注目を集めました。

勅使川原>もともとKARASのダンサーは全てワークショップ出身で、みんな同じメソッドで訓練しています。大事なのは明快な基礎メソッドであり、それによりひとりひとりの潜在能力がよりはっきりあらわれてきます。鰐川はアパラタスでソロデビューをしましたが、まだまだやらなければいけないことはたくさんある。佐東利穂子もそう。僕としては、今度は佐東のつくる作品を観てみたい。次の展開はそこですね。もちろん僕はそれができる時期だと思っている。佐東本人は“もうちょっと待って”と言っていますが。彼女はコントロールがきき、かつそこにおさまらず、自分自身に対してとても要求が高い。僕とは違う感覚を持っているので、そこがまた面白い。海外でも高く評価されていますし、佐東の作品は待ち望まれていると思います。

 

『トリスタンとイゾルデ』©KARAS

『トリスタンとイゾルデ』©KARAS

 

-コンテンポラリー