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遠藤康行『狂 -くるい-』インタビュー!

セルリアンタワー能楽堂主催、アーキタンツ企画制作による「伝統と創造シリーズ」。第8弾となる今回は、元フランス国立マルセイユ・バレエ団の遠藤康行さん演出振付による『狂 -くるい-』を上演。能や歌舞伎でお馴染みの『道成寺』をモチーフにした『DOJYOJI+』と、能『鉄輪』をモチーフにした『KANAWA』の2作品を披露します。開幕に先駆け、遠藤さんにクリエイションの様子とご自身の活動についてお聞きしました。

セルリアンタワー能楽堂で開幕を迎える『狂 -くるい-』。第一部の『DOJYOJI+』はフランスでも上演されていますね。

遠藤>『DOJYOJI+』はフランスで初演し、これまで夏に3回上演しています。エクス・アンプロヴァンスという街に喜多流能楽師の先生が寄贈した能舞台があって、大使館や領事館の方々とそこで何かやりたいですねという話をしたことから公演を開催することになりました。ヨーロッパで能舞台があるのはかなり珍しく、そこくらいじゃないでしょうか。能舞台ではありますが、現地で能を上演するのは年に一回くらいで、実際来てくださったお客さまも能ではなく普段コンテンポラリーダンスを観ているような方たちでしたね。能楽堂でコンテンポラリーダンスを観るというのは、フランスのお客さんにとってはかなり新鮮だったと思います。

能舞台での上演を前提に作品のモチーフになるものを探していたとき『道成寺』と出会い、テーマ的に面白いなと思って題材に選びました。『DOJYOJI+』の“+”は、『道成寺』のシンボリックなアイデアに僕のアイデアをプラスするという意味で付けたもの。今回の日本初演にあたり、フランスで上演した舞台をベースに新たに作品をつくり直しています。根本にあるテーマは同じですが、ダンサーが変わり、能楽師の津村禮次郎先生が加わる。さらに音楽もオリジナルで書き下ろしてもらっているので、フランスとはまた違いかなり新しい雰囲気になると思います。

 

(C)MIKI SATO

(C)MIKI SATO

キャスト選定にあたりオーディションを行っています。どのような要素に注目してダンサーを選んだのでしょう。

遠藤>フランスで初演した『DOJYOJI+』が女性にとってかなりハードな作品だったので、フィジカル面でそれに耐えられる人ということがまずひとつ。オーディションではコンテンポラリーを踊ってもらいましたが、もちろんみなさんバレエの要素がある人がほとんどだと思います。ただそういうことだけではなくて、“はい、ではここに立って何ができますか”といったときに出てくるもの、実力と即戦力を一番重視して選びました。その上で、作風や僕のやりたいものに雰囲気が合うか、何人かまとまったときにバランスが取れるかというのも考慮した部分です。

キャストのうち男性ダンサーはひとりで、彼に求めたのは『道成寺』にあるひたむきな感じ。上田尚弘さんはまさにぴったりだなと思い、それが決め手になりました。フランスでは女性5人に男性がひとりでしたが、今回は女性がひとり増えて6人になっています。津村先生は女性側の象徴的な役を演じてもらいますので、女役が7人に男性がひとりというイメージです。津村先生には動きも付ける予定ですが、ただ佇んでいるだけでもすごい力が出る方なので、シンボリックな存在としていてもらうところもあります。

 

(C)MIKI SATO

(C)MIKI SATO

現場ではどのような作業をされているのでしょうか。遠藤さんのクリエイション法をお聞かせください。

遠藤>まずマテリアルをつくります。“ここは追いかけるような感じで”“逃げるような雰囲気で”といろいろなイメージを出し、それに付随するムーブメントをつくっていきます。つなぎは考えずにとりあえず片っ端から素材をつくり、ずらっとテーブルに並べていくというやり方です。

基本的に振りはその場でつくります。ダンサーの動きをみたり、こういうものをやりたいと頭で考えたことを実践しつつつくり上げていきます。バレエのムーブメントではないので自分ひとりでつくり上げるのはやはり難しい。だからかつてのベジャールのようにダンサーが来たらできている、というようなことはないですね。例えばダンサーがこう動いたら反対側に空間が生まれるからーー、というのは頭の中ではなかなか想像しきれない部分でもあって。その場で粘土みたいにこねくり回してみんなと一緒につくります。

今はこれまでつくった素材を寄せ集めつつあるところ。ハンバーグがあって、シウマイがあってと、いろいろな素材はあるけれど、上手く弁当箱の中に詰めるところまでは到達していないというか、そこがまた一番面白い部分でもあります。ゴールはかなりアバウトに見えていますが、作業を進めていくうちにゴールの形も変わっていく可能性はあって。この横にこれを持ってこよう、やっぱりこうじゃないなと、いつでも変えられる自由度は残しておきたいと思っています。

音楽はオリジナルで、井上裕二さんという作曲家にお願いしています。フランスで上演したときのイメージを伝えつつ、クリエイターとして彼の方からもさまざまな要素を提案してもらい、振付と同時進行でつくっています。僕の方からもあれこれリクエストしています。例えば“日本的な音色を使って”とか、“力強い地響きのような”とか、ワルツでムーブメントをつくったパートがあるので、“ここはワルツが壊れているような音が欲しい”と伝えたり……。

井上さんには『KANAWA』の音楽もつくってもらっています。『DOJYOJI+』はシーンごとに音楽がいろいろ変わっていきますが、『KANAWA』の方はもう少し大きなひとつの塊になる予定です。

 

(C)MIKI SATO

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-コンテンポラリー