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遠藤康行『狂 -くるい-』インタビュー!

セルリアンタワー能楽堂主催、アーキタンツ企画制作による「伝統と創造シリーズ」。第8弾となる今回は、元フランス国立マルセイユ・バレエ団の遠藤康行さん演出振付による『狂 -くるい-』を上演。能や歌舞伎でお馴染みの『道成寺』をモチーフにした『DOJYOJI+』と、能『鉄輪』をモチーフにした『KANAWA』の2作品を披露します。開幕に先駆け、遠藤さんにクリエイションの様子とご自身の活動についてお聞きしました。

2016年の夏にフランスから日本に拠点を移しています。ゆくゆくは日本で活動をと考えていたのでしょうか?

遠藤>特に考えてはいなかったですね。今も死ぬまで日本でとは考えてないし、実際まだフランスにも家があります。もちろんベースは大切であり、しっかり拠点を築くという意味では日本に腰を据えていこうと思っています。日本が拠点ではありますが、「JAPON dance project」の活動をモナコで続けていたり、『横浜バレエフェスティバル』の仕事で海外にいるダンサーとやりとりすることも多いので、フランスと日本を行ったり来たりという状態ではあります。

日本に拠点を移そうと思ったきっかけとしては、母が中心になっていた実家のバレエスタジオ『エンドウ・バレエ』に改めて力を入れていきたいという考えがまずありました。あと『横浜バレエフェスティバル』を通して今後はバレエ教育にも関わっていきたいと思っていて、実際に今年から「ジュンヌバレエYOKOHAMA」という企画をスタートします。若いダンサーはみんな踊りに関しては上手だけれど、それ以外に重要なプロになるためのスキルを伝えたい。「ジュンヌバレエYOKOHAMA」では、10名弱の選抜メンバーを対象に、コンテンポラリーダンスやグループワークの仕方などを教育して舞台に上げていこうと考えています。そこまでするとなると、やはり日本にいないと難しい。

またそれとは別に、フランスの教師免許であるDiplôme d'Etat de professeur de danseを日本に持ってくるプロジェクトを進めています。日本は教師のレベルや考え方がバラバラだから、習っている生徒の方が混乱してしまう恐れがある。でもフランスのバレエ教師は教師免許を持っていて、“この年齢ではこれは教えてはダメ”とか、“これを教えるのはこういう理由だから”という理論を全部把握した上で教えてる。それを日本にも浸透させたいと思っています。

 

(C)MIKI SATO

(C)MIKI SATO

長くヨーロッパで活動をしてきて、日本と海外のダンス界で一番違うなと感じる部分はどこですか?

遠藤>オーストラリアに2年、ベルギーに6年、フランスに12年、全部で約20年間海外で活動してきました。日本と海外の大きな違いは、やはり舞台の回数ですね。日本はとにかく公演は沢山あるけれど、一回上演して終わりというケースが多すぎる。すごくもったいないと感じるし、変わって欲しいなと思う部分でもあります。

変わるためには、舞台の料金が安くなり、お客さんがついてきてーー、ということが必要になる。ヨーロッパは国をはじめいろいろなサポートがあるから、まずそこが違いますよね。日本も公共のサポートがもう少しあればいいなと思います。例えば市が“これだけ援助します、スペースを提供するので公演を開催してください”となったらできることも増えるし、それを定期的に繰り返せばお客さんもついてくるでしょう。

僕がいたマルセイユ・バレエ団はフランスではパリ・オペラ座の次にサポートされていたカンパニーなので、かなり恵まれていたと思います。ただ公演数はヨーロッパのなかではそれほど多くはなくて、年間80回くらい。オーストラリア・バレエ団にいたときは年間170回くらい公演がありました。そこまで回数を重ねると擦り切れていく部分もあるけれど、若いうちは鍛えられますよね。それにダンサーだったら一度はそういう経験をしたいと願うもの。3ヶ月後の作品のクリエイションをしながらその日の公演のリハーサルをして、夜になると舞台に立つような生活です。今思うといい経験でしたね。

ただ日本にも新しい流れはいろいろあって、実際東京バレエ団やNBAバレエ団などはディレクターが変わったりと、あちこちで世代交代が起きている。僕もダンサー同士の輪を生かしつつ、みんなと一緒に何かサポートしていけたらと考えています。

 

(C)MIKI SATO

(C)MIKI SATO

生活面でのフランスと日本の違い、それぞれの良さを挙げるとしたら?

遠藤>違いは沢山あります。まず日本は電車も正確に来たりときちんとしてるし、ごみが落ちてなかったりときれいで清潔だし、安全で住みやすい。フランスの良さは、おおらかでアバウトなところ。それでいて人生を楽しむことはすごく上手。今日はキャンプに行こうとか、ゆっくりリラックスしようとか、ときにはフランスを一周しようとか。そういう感覚はすごくいいと思うし、またそういうところからしか出て来ないものもある。

僕がいたマルセイユはキケンな街というイメージがあるらしいけど、慣れると全然そうでもなかったですね。白い石造りの街で、エメラルドの海が近くにあって、本当にきれい。でも日本と違って、よく見るとごみが落ちていたりするんですけど(笑)。

 

(C)MIKI SATO

(C)MIKI SATO

 

-コンテンポラリー