大貫勇輔×栗山廉『ビリー・エリオット』インタビュー!
オールダー・ビリー役で出演するにあたり、オーディションを受けられたそうですね。
大貫>4年前にマシュー・ボーンの『ドリアン・グレイ』のオーディションを受けにロンドンへ行ったとき、たまたまウエストエンドで上演していた『ビリー・エリオット』を観ていたんです。本当に素晴らしくて涙が止まらなくなってしまって、幕が下りても立ち上がれないくらい圧倒されました。ただそのときは、“これは日本では絶対に上演できないだろうな”と思っていたんです。バレエが踊れて、タップができて、芝居もできるような子は日本にはいないだろうと。だから日本で上演すると聞いたときはびっくりしたし、僕もこの作品に関わりたいという気持ちでオーディションを受けました。
オーディションは丸二日間をかけたかなりハードなものでした。まずバレエの審査がバーからセンターまでみっちりあって、そのあと『Dream Ballet』の振付けを踊り、さらにタップと歌と芝居があって、本当にへとへとになりました。オーディションでは栗山さんも一緒でした。栗山さんは手脚は長いし、顔は小さいし、ラインがすごく美しい。プロポーション抜群だなって思いましたね。
歌のオーディションでは、アダム・クーパーがちょうどそのときミュージカルで歌っていたというのもあって、『SINGIN' IN THE RAIN』を歌いました。全力は尽くしましたけど、バレエダンサーがたくさん受けていたので、手応えは正直わからなかったです。どんなオーディションでもいつも確信はないですよ。ただ結局のところ、自分がどれだけこの役をやりたいか、その想いがいかに相手に伝わるかだと思います。
リハーサルの手応えはいかがですか?
大貫>振付は基本バレエで、そこに少しだけコンテンポラリーの要素が入っている感じです。オーディションに受かってからこの一年間、舞台に備えてバレエをみっちり稽古してきました。ただ振付自体何か特別なことをしている訳ではないので、いろいろ表現をしていかないと埋まらない部分があって。オールダー・ビリーとして、子役のビリーとのつながりが感じられないといいシーンにはならないと思う。だから自分だけではダメで、子役のビリーと共に『Dream Ballet』というシーンをつくり上げていく気持ちでいます。
とはいえ子役のビリーも5人いるので、表情もエネルギーもそれぞれ違う。ビリーと対等な立場でいるのか、同じ気持ちになって楽しむのか、お兄さん的な立場でいるのか、相手によって僕自身も変わってきます。映画でアダム・クーパーが出ているシーンはリアルだけれど、『Dream Ballet』は夢の世界のシーンなので、ビリーに寄り添うような、“きっとビリーは将来こうなるんだろうな”とお客さんに想像してもらえるような、ふたりのつながりや温かみ、可能生が感じられるシーンにしたいと思っています。
今回はオールダー・ビリーに加え、炭鉱夫や警官、バレエダンサーの役も演じることになっていて、いろいろな経験ができて勉強になります。台詞もバレエダンサー役で少しだけ話します。歌はアンサンブルで歌いますが、3声や4声のハモリというのは初めての体験なので、やはりすごく難しいですね。
ビリー役の子供たちの様子はいかがですか?
大貫>子供たちは本当に吸収が早いですね。はじめの頃は笑顔もなければ呼吸の仕方さえ忘れちゃうくらいぎこちなかったけれど、みるみる上達していって。彼らが稽古場で踊っているのをいつも親みたいな気持ちで見ています。“良かったよ!”ではなくて、もっと良くなるためにはどうしたらいいか、いろいろ一緒に探っています。
どうやったら上手にピルエットが回れるか、ジャンプが上手く飛べるのか……。“こうすればいいんじゃない?”、“ああすればいいんじゃない?”と、子役たちとひとつひとつ丁寧につくり上げていきました。せっかくここまでがんばってきたんだから、どうせなら世界で一番良かったといわれるビリーを目指して欲しい。そのために何を言ってあげたらより良くなるのか、ということを常に考えています。
彼らと同世代の頃、今のご自身の姿を想像していましたか?
大貫>全然考えていなかったです。当時はプロになろうとも思ってなくて、気づいたら舞台に立っていました。それがどんどんつながっていき、いつしかプロになっていた。あの頃は芝居や歌には興味がなくて、踊りしかやってなかったし、あんなに動けてなかったと思う。だからもしオーディションがあっても僕は絶対に受けてなかったですね。そもそも踊りに対してあんなに真剣ではなかったですから。
あの頃の僕にとって踊りは趣味だったり生活の延長という感覚で、中学2年生くらいの頃からだんだんのめり込んでいった感じでした。そういう意味ではビリーとは全然環境が違いますね。ただ小さいときは言葉にならない感覚を表現するとき、踊ることで救われていた気がします。
芝居や歌に興味が出てきたのは23歳のときに出演した『ロミオ&ジュリエット』。あれは大きな転機でした。言葉にならないものを表現できるのがダンスであり、じゃあ芝居はとなったとき、人間をより掘り下げていく必要があることに気づいた。自分なりに感情を言葉にできないと、その台詞を口にすることはできないと思うから。
芝居をはじめたことで、昔より言葉にできないという感覚が減りました。“これはこういう感覚があってこういう何ともいえない感情が生まれるんだ”というように、自分の中である程度答えが出せるようになってきた。だから芝居を経験したことによって、踊りも変わってきたと思います。