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田中泯『オドリ』インタビュー!

1978年にパリで運命的な出会いを果たし、3年間に渡りフォトセッションを繰り返してきたダンサーの田中泯さんと写真家の故・田原桂一さん。約40年の時を経て写真展『田原桂一「光合成」with田中泯』を原美術館で開催。展示に加え、期間中は関連イベントとして3度に渡り田中泯さんによるダンスパフォーマンス『オドリ』が上演されます。田中泯さんに、田原さんとのフォトセッション、そしてご自身の表現活動についてお聞きしました。

最近は俳優の仕事で映画やテレビに出演することも多く、俳優だと認識している人もいるのでは? ご自身の中でそこにギャップを感じる部分はありますか?

田中>僕のことを俳優だと思い込んでいる人たちに対して、“自分はダンサーです”ということをわかってもらうよう日々努力をしています。ダンスをやってきたから俳優をやれているようなもので、最初から俳優を夢見て生きてきた訳ではないですから。俳優の仕事にしても、自分としては不思議な気分です。ただ本当に勉強になるし、ひとつの役をやるというのはリアリティがある仕事でもあります。

 

映画『ほかいびと~伊那の井月~』(2011年、一般社団法人井上井月顕彰会、ヴィジュアルフォークロア) 撮影時の記録 ©ヴィジュアルフォークロア

映画『ほかいびと~伊那の井月~』(2011年、一般社団法人井上井月顕彰会、ヴィジュアルフォークロア) 撮影時の記録 ©ヴィジュアルフォークロア

俳優の仕事を通して得たものがダンスにフィードバックされることはありますか?

田中>もちろんあります。「オドリ」にとって利益にならないことは僕はやりません。役が来て最初に考えるのが、“どんな身体の質感を持つ人がこういう人間になるんだろう”ということ。それを考えるのがもの凄く楽しい。他の役者さんは、もしかすると台詞回しだとか声の質感とか顔つきから役をつくると思う。でも僕は「カラダつき」から始めます。少し肩を上げっぱなしにしてみたり、顔をちょっと出しっぱなしにしたり、ちょっと傾けたりーー、という工夫はどの役でも全部しています。

例えば、つま先はなるべく内側にしてみようと考える。それはダンスに通じますよね。ダンスというのは足の先がどちらを向いているかで表情が違いますから。骨格だけでなく質感もそう。お腹を柔らかくした状態で喋る、胸を出す、引っ込める。それだけで全然違います。

ただ台詞にしても言葉を発するのはあまり好きではないですね。でも何度も何度もやっていると、言葉にどれくらい身体がくっついていくか、ということに凄みを感じます。本当に凄い俳優さんを見ているとよくわかる。その人次第だけど、俳優というのはとんでもなく面白い仕事なんだろうなと思います。

 

映画『無限の住人』(2017年、ワーナー・ブラザース) 撮影時の記録 © Madada Inc.

映画『無限の住人』(2017年、ワーナー・ブラザース) 撮影時の記録 © Madada Inc.

山梨を拠点に農業をされています。農業も“踊りにとって利益になること”なのでしょうか?

田中>農業はまさに「オドリ」にとって利益になります。農業というのは、こちらが確固たる自分でいるとできないんです。相手を判断したり、相手を位置付けたり、相手に決定を下すというのは全部こちら側の作用ですよね。でも農業の場合は相手が決定を下してる。相手というのは植物です。さまざまなコンディションをこちらに見せてくれて、それをこちらが感じ取り、受け入れ、時間も向こうのペースになる。そういう状態に自分がなれるというのは凄い利益です。

 

2017年5月 山梨のジャガイモ畑で ©Madada Inc.

2017年5月 山梨のジャガイモ畑で ©Madada Inc.

田中さんにとって踊りたくなる場というのはどういうところですか?

田中>それぞれ違った理由があります。自然と言っても絶対的に踊れない場所というのも勿論ありますよ。人の気配の凄くする場所とか、人がずっと使い続けている場所だとか、それもまた違った魅力がある。逆にもう使われなくなってしまってぽつんとある場所もそう。遺跡のようにしてきちっと残されている場所と、もう誰も目もくれないような場所にしても、それぞれまた違った魅力がある。それぞれ踊りたくなる条件でしょうね。本当はね、踊り続けていたいのです。でも不可能な夢、だから「場」を選ぶんです。

先日ノルウェーに行って、2020年に完成予定のオスロー新国立美術館の建築途中の屋上で、オープニングイベントの為に踊り、ポルトガルに行った時は町中や海岸でも踊ってきました。ポルトガルは今回が初めてだったので、いろいろ発見したし、再認識することができました。9月末には奄美大島で開かれる年に一度の儀式に行ってきます。また、それとは別にスペインの写真家のイザベル・ムニョスさんと「オドリ」を撮影することになってます。展覧会での『オドリ』はそのすぐ後だから、きっと影響を受けて帰ってくると思います。

 

2017年8月 ポルトガル、サンタクルスの海を眺める ©Madada Inc.

2017年8月 ポルトガル、サンタクルスの海を眺める ©Madada Inc.

踊りたい場があるのとは別に、踊りたくないと感じる場所もあるのでしょうか。

田中>権威的な場所ってあるじゃないですか。どうだ、立派だろうとか、凄いだろうというような。そういう場所には踊りなんかいらないんじゃないかと思うことが多いですね。時にはそういう場所で踊ってくれと言われることもあります。断ることもありますが、人が大勢来てその場所が人で埋まれば見え方が変わってくるかもしれない。それを期待して、“よし、ここで踊る!”ということもあります。

 

2016年6月 公演 田中泯「場踊り」 ポンピドウ・センター前広場にて ©Madada Inc.

2016年6月 公演 田中泯「場踊り」 ポンピドウ・センター前広場にて ©Madada Inc.

『田原桂一「光合成」with 田中泯』関連イベントとして、9月、11月、12月の3回、原美術館の中庭で踊ります。中庭を踊りの場に選んだのは何故でしょう?

田中>作品を僕の身体で見えなくはしたくないという気持ちがあります。僕がイヤなんじゃなくて、写真が“イヤだよ”と言ってるんです(笑)。だから作品のないところにいって、なるべく大勢の人に見てもらう条件をつくらなきゃいけないと考えました。

 

Bordeaux-6 1980 ©Keiichi Tahara 『田原桂一 「光合成」 with 田中泯』

Bordeaux-6 1980 ©Keiichi Tahara『田原桂一 「光合成」 with 田中泯』

田中さんが踊りで喜びを感じる瞬間とは?

田中>踊りを見て元気になってくれる。それが一番うれしいです。踊りの内容うんぬんなんてあんまり関係ないですよね。たぶん踊りの瞬間瞬間が届くんでしょうけど、それを言葉で上手く言えなくて、“元気になった!”と言ってくれる。それこそ本当だろうと思います。

 

2017年3月 ナショナルギャラリープラハ(プラハ国立美術館)展覧会『Keiichi Tahara: Photosynthesis 1978–1980 featuring Min Tanaka』オープニングパフォーマンス ©National Gallery in Prague

2017年3月 ナショナルギャラリープラハ(プラハ国立美術館)展覧会『Keiichi Tahara: Photosynthesis 1978–1980 featuring Min Tanaka』オープニングパフォーマンス ©National Gallery in Prague

 

 

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