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映像芝居『錆からでた実』インタビュー!

2013年に初演を迎え、第8回日本ダンスフォーラム賞を受賞するなど大好評を博した『錆からでた実』。束芋×森下真樹という異色のタッグで注目を集めた話題作が、この夏3度目の再演を果たします。ここでは、構成・演出・美術を手がける束芋さん、振付の森下真樹さん、ダンサーとして出演する鈴木美奈子さんの3者にインタビュー! 作品への想いと再演にかける意気込みをお聞きしました。

第三弾となる今回は、構成・演出・美術を束芋さんが、森下さんは振付に徹し、ダンサーは鈴木さんひとりと、それぞれ立ち位置を大きく変えています。どういった経緯があったのでしょう。

束芋>演出をするのは初めてです。そもそも当初は別の方から第三弾をやらないかというお話をいただいていたのですが、いろいろあってその話はナシになったという経緯がありました。だけど自主公演でもいい、小さい会場でもいいからやりたいという想いがあり、会場も何も決まらないまま森下さんとふたりで一ヶ月に一度集まっては話しをしたり創作をしたりと作業を続けていたんです。そんななか森下さんがセゾン文化財団のシニア・フェローに選ばれて、助成金を第三弾に使ってくれることになった。でも森下さんだけに頼るのはどうかということで、私もドネーションを募って同じだけの金額を集めたりと、公演に向けて準備を進めていきました。

いよいよ公演が実現するとなったとき、プロデューサーから「第一弾・第二弾は森下真樹の作品だった。ならば今回は束芋の作品として演出をしたらどうか」と提案されて。演出とはどういうものかわからなかったけど、ここまでやってきたのだから、私にできることは精一杯頑張ろうと思ってお受けしました。ただ第一弾・第二弾ともにダンスの部分は森下さんに頼りっぱなしだったので、第三弾もそこは森下さんにある程度委ねたい、できれば今回は踊りか振付のどちらかに専念してほしいと伝えました。

森下>束芋さんに言われる前から、私自身もやはりどちらかにした方がいいなと思っていたんです。はじめはソロを踊りたい気持ちがありましたが、ダンサーをやりながら振付も演出もするとなると、ダンサーの感覚を持ちながらやれる強さはありますが、俯瞰できない部分もあります。それは初演・第二回と続けて感じたことだし、一番は束芋さんと「創る」というところでガッツリやりたかったので、振付に徹しようと決めました。

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束芋>私が演出するなら第一弾・第二弾のスタッフとやりたい、ダンサーは美奈子さんがいいという強い想いがありました。というのも第一弾のとき森下さんが振付をしたサンプル映像で美奈子さんが踊っているのを見て、ものすごく感動した覚えがあって。わくわくして何度も何度も繰り返し見た。森下さんの振付を美奈子さんが踊ることで、あの鳥肌が立つ感じがまた実現するのではと……。それに美奈子さんはダンサーではあるけれど、今回もまたみんなが落としてることを拾い上げてくれるのではという期待もあって、ダンサーとしてもつくる側としても参加して欲しいということでお願いしたんです。

鈴木>実は“第三弾でも関わって欲しい”というお話があったとき、ちょっと考えさせてくださいと伝えていたんです。というのも当初は真樹さんにもプロデューサーにも“今回も振付助手で”と言われていて。もちろんこの作品は最初から関わらせてもらっているし、どんな形でも参加したいという気持ちはありました。でも私は踊ることがすごく好きなので、できればダンサーとして舞台に立ちたい。そのころちょうど振付助手の仕事が続いていて、さらにここでまた振付助手をやりますと言ってしまっていいのだろうかと迷いがあって……。実際みんなで会って話しましょうと言われたときは、断ろうと思ってました。ここは心を鬼にして、“私は私の道をいくぞ”と考えていたんです。

束芋>断られなくて良かったね。踊ってくれと言っても断られるかもしれないと、あのときはかなりどきどきしてた。

森下>私は“ダンサーならやります”と言ってくれるのではと期待してましたけど。

鈴木>そうですね。ただ真樹さんが毎月のように束芋さんと会ってはいろいろ試していたのを知ってたので、私のなかでは真樹さんがソロを踊ることしか想像していなかったし、意外なお話ではありました。

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森下さんと鈴木さんは過去に別作品で共演をされていますね。

森下>2013年の『100万回生きたねこ』で共演したのが初めて。お互いその前から存在は知ってたけれど、たくさんダンサーがいるなかで美奈子と仲良くなって、一緒に旅行も行ったりしましたね。

鈴木>共通の知り合いも多かったので、どこかで会えば“こんにちは”くらい言う感じだったけど、意外と付き合いは長くないんですよね。一度の共演で何故かものすごく仲良くなりました。『100万回生きたねこ』が終わってほどなくして、真樹さんに『錆からでた実』を手伝ってほしいと言われて。私は基本的に誰かの作品にダンサーとして出演する感じで、自分で作品をつくることもなければ、振付助手をした経験もほとんどありませんでした。いい機会だと思ってお受けしましたが、この作品はなんだか大変でしたね。

森下>『錆からでた実』がきっかけで、その後『パピコント』という美奈子とのデュオ作品を発表しました。翌年同じ作品を“美奈子と掛け合わせたら面白そうだな”と思った24歳の若くてつかみ所のない男の子と踊ってもらったりと、ダンサーとしての美奈子とも付き合いが深まっていった感じです。私にとって振付はそのダンサーのスイッチが入る場所を探す、このダンサーでしかありえないという振りを探していく作業であり、だからこそ替えがきかない。美奈子に関しては『パピコント』でけっこういじったし、どんな面白いスイッチがあるのかいろいろ試したつもりでいました。

ただもうこれ以上はないだろうと思ってたけれど、また一緒にやるとなったとき、実はまだ結構スイッチがあるんだなと気付いて。さらに最近は、日常生活の中で生み出される動きを基に振付したものなど、私がこれまで「動く動機」として大事にしてきたものがあり、それを美奈子にも踊ってもらいたいという気持ちが沸いてきた。今まではどこにスイッチがあるかなという作業をしていたけれど、振付ってそれだけじゃないんだと、まだまだ一緒にやれることがあるんだと気付いたというか。美奈子はすごく正確だし、振りもすぐに入るし、忠実にこなすという部分ですごく長けてるけれど、それだけじゃないところがある。稽古場以外の付き合いも深いので、そこで知ることも多いし、結構まだまだ持ってるんですよね。笑って喋れなくなったり、むすっとしてるから何か悪いこと言ったかなと思っていたらただお腹が空いてるだけだったり、気付いたらなんかよく泣いてるし……。

鈴木>今もすでに泣きそうです(笑)。

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森下>この前も私の妹が母の日に“自分も母になってこんなに子育てが大変なんだと知った、お母さんありがとう”とフェイスブックに書いていたのを見て号泣しだして。涙スイッチも興味深いというか、だいたい言葉にできない想いがわっとなったときにくる。私は結構そういう現場を見てるから、“きたーっ!”ていう感じ。その涙を踊りに変換できたら面白いなと考えていて。いろいろな表情があるし、いろいろな味わいがあるけれど、それをシーンごとにちりばめられたらと思っています。

束芋>舞台からは泣いてる姿なんて想像できないだろうし、実際私も美奈子さんの泣いてる姿と舞台の上の姿が全然結びつかないんですよね。でもいい役者とかダンサーって、舞台と実物のギャップが面白かったりする。私がちょっとシンプルすぎるのか、そういう部分があまりないから余計興味深くて。例えば仕事をしていて“ここで泣いたら状況が変わる”という場面はあって、実際に効果的ではある。そういう感覚を覚えているので、美奈子さんの純粋さが不思議なんです。

鈴木>何の効力もない、無駄な涙ですよね(笑)。

森下>基本的に泣いてるのかもしれないよ。泣いてるけど、踊ることでしゅっと涙を止めてるのかもしれない。

束芋>ダンスをつくるときは、“束芋さん、コレどういう意味なんですか!?”なんて問い詰められたりするくらい、すごくかちっかちっとしてる。一方で公演が終わると二日間はだらだら寝てると言うけれど、そんな美奈子さんもちょっと想像できないというか。

鈴木>やることがないとずっと寝てるんです。寝過ぎると夜眠れなくなる人っているじゃないですか。でも私は寝過ぎたなというときでもちゃんと夜眠れちゃう。いくらでも眠れるし、それですごく食べるんです。

束芋>初めて美奈子さんと一緒にご飯を食べた人はきっとびっくりすると思う。食べ物に関してはものすごくこだわりがあって、まず四角いお皿があったら、そこに自分の取り分を直角にきれいに並べるんです。それで写真を撮る。本人は大人しくやってるつもりでも、結構あれ目立つから(笑)。

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