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映像芝居『錆からでた実』インタビュー!

2013年に初演を迎え、第8回日本ダンスフォーラム賞を受賞するなど大好評を博した『錆からでた実』。束芋×森下真樹という異色のタッグで注目を集めた話題作が、この夏3度目の再演を果たします。ここでは、構成・演出・美術を手がける束芋さん、振付の森下真樹さん、ダンサーとして出演する鈴木美奈子さんの3者にインタビュー! 作品への想いと再演にかける意気込みをお聞きしました。

第三弾となる本公演。作品のベースにあるものとは?

束芋>私と森下さんは去年40歳になったんですけど、40歳って女性にとって折り返し地点というか、ここから錆ていくようなイメージがあるじゃないですか。でも錆という言葉をマイナスイメージで使うのではなくて、『あいまいな稜線』(森下さんがボーカルをつとめるバンドの曲。初演時クリエイションの発端になった)の歌詞に“錆からでた実が熟れてはじけますように”とある通り、私たちはこれから錆ていくわけだけど、錆というのが活発に動いている証であり、プラスに転換することで実がなる、花が咲くこともあるんじゃないかと考えて。40歳の女性が部屋にいるときってどんな感じなんだろうとか、40女というのをイメージしながらつくっている部分があります。美奈子さんもそんなに歳は変わらないしね。

鈴木>ちょっと下ですけどね(笑)。

森下>去年の5月くらいから束芋さんと毎月いろいろ試してきて、例えば最近手の動きが気になるということで、手だけの即興をつくってみたり……。

束芋>それがすごく魅力的だったので、最初に生まれたこの形は改良を重ねながらも最後までシーンとして残しています。さらに、第一弾・第二弾にも登場した鳩がビジュアルイメージとして存在します。鳩と手が両方同じくらい重要なキービジュアルとして存在するので、そのふたつの関係をどうつくっていくか悩んで。そんなとき鳩が主人公でタイトルが「手」という安部公房の小説を見つけ、それを指針としました。鳩がどんどん変容していき、最後にピストルの弾となって木にねじ込まれていくという結末。そのストーリーを作品化したわけではないけれど、手と鳩というモチーフの関係をつくり上げる指針として何度も読み返しました。

©igaki photo studio

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振付作業はどのように進めていますか?

森下>先日ダンスチームだけで4日間稽古をしました。といっても明治神宮に行って『錆からでた実』が上手くいきますようにと絵馬に書いたり、パワースポットに行ったりと、4日間ほとんど動かずじまいだったけど(笑)。

鈴木>シーンについてたくさん話もしましたよね。束芋さんにひとつの指針があるように、ダンス側からこの作品を読み解いてみようとしたんです。

森下>それがこじつけであったとしても、ふたりにとって共通の何かがあったらいいなと思って。ずっと話していたら、ふっと沸いてきたものもありました。いろいろ試しては旅をしていた感じ。すごくいい時間でしたね。

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本公演に先駆け、4月に城崎でショーイングを行っています。

森下>城崎では私が動きながらどんどん美奈子に振りを渡したりと、ずっとマンツーマンでつくっていった感じでした。

鈴木>真樹さんの手の動きの振り起こしもしましたね。ビデオを見ながらの作業でしたが、インプロの振りを起こすのってすごく大変で。

森下>しかも音楽と合わせていたわけではないので、自由に動いていたものを今度はカウントにのせなければならなくて、これがまた大変だったという。

鈴木>でき上がった振りを束芋さんにみせて、“いいね”と言ってもらったものを、もうちょっと違うみせ方はないかともう一度壊してみたり。賛否の賛をもらうんだけど、こちらであえて否を探すという作業をしてました。

束芋>城崎のショーイングはお客さんの反応もすごく良くて、私も“これでばっちり、100点だ! あとはそれぞれスキルアップしていけばいい”と思っていたんです。でもアフタートークで“今どのくらいまできてますか?”と聞かれたとき、私は100%と思ってるところを謙遜して“80%です”と言ったら、森下さんが“50%です”と言うから“えーっ!”と思って。私としてはそれ以上良くなるなんて想像できなかったけど、森下さんが50%だと言うならもっと良くなるんだろうと……。実際翌日ショーイングの映像を見ながらみんなで話し合ったら山ほど意見が出てきて、6時間くらいかけても結局終わらず、帰りの車のなかでもずっと続いて。

鈴木>私もショーイングまではわりと出る側に徹していたので、外から見たことでいろいろ気付いたものがあって。4月10日にショーイングをして、翌11日は朝からずっとフィードバック。束芋さん、あれで熱出してましたよね(笑)。

束芋>最後に感動的なシーンがあって、まさかそこは変えるなんて言いださないだろうなと思っていたら、美奈子さんに“束芋さん、最後のあれ必要ですか?”と言われてショックを受けて(笑)。でも変えたことで本当に良くなりました。

美奈子さんはダンスだけでなく映像に対しても意見を言ってくれるので、そこで私もちょっと考えさせられるというか。私が普段作品をつくるときは全て自分で決断していて、完成だと思ったらそこからは絶対に動かない。でもこれだけたくさんの人と作業をしていると、全員がいいと思うところを目指さなければいけないし、何かひとつ変化したら私も変化しなければいけない。美奈子さんに“何で?”と聞かれて、変わるべきだと思わされたことがよくありました。

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鈴木さんはまず頭で考えてから動くタイプ?

鈴木>頭と身体は一緒かな。そんなつもりはないけど泣いてるみたいな感じで、わりと直結しているかもしれません。束芋さんの演出や森下さんの振付で“こうやってみて”と言われたときも、“どうしてこうなんだろう?”って自分なりに考えて試してみます。身体を通してそれが実現できるときもあるし、難しいときもある。じっくりそれぞれとやりとりしながらちょっとずつ進めていく感じ。今回は真樹さんの日常の仕草が入ってくるので、そこはすごく難しいところではありました。もともと森下真樹の身体を前提に映像ができているから、私はこんなことはしないとか、それをどうやって自分のなかに作るのか、自分のものにしていくのか……。試行錯誤の連続です。

森下>試すこともなしに“できない”と言うダンサーもいるんです。まず頭で納得しないとだめで、理解できないから身体を動かすことはできませんと言う。そういう意味で、この人を動かすのは大変だとか、どうやってのせたらいいのかなという人もいる。美奈子はそうではなくて、“できない”とは言わない。まず身体で試して、そこから見えてくるものもあるし、そういうものを探してるのかなって感じます。

鈴木>“できない”って言葉で言うのではなくて、身体でやって“ほらできないでしょう?”って見てもらう方が逆にわかりやすいような気がして。言われたことを自分なりに解釈してとりあえずやってみるというのは基本にあって、“何で?”と思うこともまず返さずに、“何で?”と思うけどどういう意味だろうって自分のなかで考えてみる。考えてわからないところはとにかくやってみて、その上でやっぱりわからないということで“何で?”と返すことはありますね。

©igaki photo studio

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