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フィリップ・ドゥクフレ『新作短編集(2017)ーNouvelles Pièces Courtes』インタビュー!

フィリップ・ドゥクフレ率いるカンパニーDCAが、『新作短編集(2017)ーNouvelles Pièces Courtes』を引っさげ来日。昨春フランスで初演を迎え、話題を呼んだ最新作が早くも日本上陸を果たします。公演に先駆け来日中のドゥクフレに、作品についてお聞きしました。

今回の来日を機に、また日本を題材にした作品をつくる予定はありますか?

ドゥクフレ>今回は来日してまだ日が浅いので、日本で経験したことといったら鍼治療を受けたくらいでしょうか(笑)。日本独特の技術らしいのですが、鍼を刺しているのをほとんど感じさせない最高の治療でした。年を取ったせいか、最近は身体にやさしい治療法に興味を惹かれるようになっています。けれど、鍼灸に対するオマージュ作をつくるかというとそれはまだわかりません(笑)。

体験したものが蓄積して、何か面白い作品になるかどうか。何かを経験してそれをもとにすぐ作品をつくるというのではなく、消化する時間というのが必要で、1年〜5年かかることもあります。実際に両親へのオマージュも5〜6年かけてつくっています。ゆっくりとした性質なのかもしれません。

日本にはすばらしいアーティストがたくさんいますし、またご一緒したいという気持ちもあります。『DORA-百万回生きた猫』のキャストだった吹越満さんは他では見たことのないような演技をする人でした。『わたしは真悟』でご一緒した高畑充希さんも印象に残っています。彼女に“あなたは今地下室に閉じ込められて悲しい気持ちです。やってみてください”と言うと、いきなり泣き出したんです。稽古なんですよ。どうしたらああなるのでしょう。感情のスイッチがあって、ボタンを押しているかのようです。フランスでもあんなことができる人はいません。

伊藤郁女さんは日本でワークショップを開催したときの最もすばらしい生徒のひとりで、フランスで上演した『イリス』にも出演してもらいました。彼女はそのままフランスに残り、その後もすばらしい演出家たちと仕事をしています。今は私の家の近所に住んでいますが、フランスのサーカスアーティスと結婚をして最近赤ちゃんが生まれたばかり。とても力を持ったダンサーです。

 

フィリップ・ドゥクフレ

©Charles Freger

 

今回はご自身も舞台に立つそうですね。どのようなシーンに登場されるのでしょう。

ドゥクフレ>いくつかのシーンに出演する予定です。この短編集はこれまでいろいろな変化を伴いながら上演を重ねてきました。その理由のひとつとして、数ヶ月前にキャストのひとりがツアー中に亡くなってしまったため、変動する役がいくつかできたという経緯がありました。

まず“穴”のシーンでソロを踊り、そして日本の作品では坂東玉三郎さんのオマージュを演じます。これは日本だけのスペシャルで、玉三郎さんのような女役に挑戦します。ヒールを履いて舞台に立つので、足を挫かないようにするというのが目下の課題です。これまでヘンなことはたくさんしてきましたけど、ヒールにはさすがに慣れていないので(笑)。しかも足のサイズが45(ヨーロッパサイズ)とかなり大きいので、ドラァグクイーンのようなことになりそうです。ただ最終的には洗練されたシックな雰囲気にまとめたいと思います。常にうつくしいもの、そしてバランスを大切にしたいという気持ちがあります。

 

フィリップ・ドゥクフレ

©Laurent Philippe

 

不思議と舞台に出る機会というのは続くもので、最近はかなりの頻度で舞台に立っています。過去15年を振り返ると、時折ソロを踊る機会がありました。今年と来年またパリでソロを踊るので、ある程度身体をつくらなければいけません。

舞台に出る理由は大きくふたつあって、ひとつは演出家としてダンサーによりよい指示を出すためにも、舞台に立つ側の体験を定期的にする必要があると思うから。どれほど大変な状況であり、同時にどれほどすばらしい感覚であるかを体験するために。

もうひとつは、純粋に舞台に立つのが好きだから。楽しみでもあるということです。舞台の上にいるのは気持ちがいいですよ。人によっては何か問題があると病院に行くけれど、私の場合は舞台に立ってお客さんに会いに行く。これはずいぶん前に発見したことですが、悲しかったり苦しかったりする感情も、舞台に乗せるとうつくしいものに変換させることができる。それはとてもすばらしいことだと思います。

 

フィリップ・ドゥクフレ

 

 

-コンテンポラリー