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カラス・アパラタス三周年! 勅使川原三郎インタビュー。

2013年7月、荻窪にオープンしたカラス・アパラタス。勅使川原三郎率いるKARASの拠点であり、館内のホールではダンスシリーズ『アップデイトダンス』の連続公演を行うなど、オープン以来精力的に活動を続けています。この夏迎える三周年記念公演を前に、主宰の勅使川原さんにインタビュー。これまでの三年間と、今後の展望についてお聞きしました。

ハードな日々が続いていますが、休みや息抜きもときには必要では? 勅使川原さんの気分転換法とは?

勅使川原>こう見えても休みは上手く入れています。ただ創っていること、活動していることが楽しい。いわゆる労働だと思っていないので、好きなことをやらせてもらっているという気持ちが一番にあります。もちろん準備の段階で事務的な作業も出てくるし、それが難しいときもある。でも自分たちがやりたいことをやっているから面白いし、これがない方がつまらなくて疲れてしまうかもしれない。休暇をとるより楽しんで活動している方が、自分にとってリフレッシュになっていると思います。

毎年4〜5カ月海外で仕事をして、後は日本で活動するという生活を1980年代の終わりからずっと続けてきました。かれこれ30年くらい海外と日本をほぼ半分ずつ行ったり来たりしていて、それが自分のなかでリズムになっている。けれどアパラタスができてからは、日本での活動をより充実したいという気持ちになっています。

 

『詩人なき詩』©KARAS

『詩人なき詩』©KARAS

KARASとしての今後の展開は?

勅使川原>今のペースでリズムが出来ていることは確かです。でもそれを安易に守ろうという気持ちはなくて、ここ数年は演奏家と関わるプロジェクトも多く、日本では武満徹さんの『秋庭歌一具』を雅楽の方々と共演するし、海外でも弦楽のアンサンブルとの共演があり、オーケストラでも踊ります。創作活動では来年の秋にまたパリ・オペラ座で振付をします。あと美術関係ではポンピドーセンターがメッツにできて、その展覧会に僕たちも参加します。劇場以外での活動も行っていて、それも全てダンスと関わっている。そういう意味ではダンスの活動の方法をいろいろ広めているのは事実です。

 

『静か』©KARAS

『静か』©KARAS

日本ではダンスはまだ一部の愛好家のものであり、あまり一般には親しまれていないのが現状です。しかしアパラタスでの幅広い活動が、ダンス界の底上げになっているのではないでしょうか。

勅使川原>残念ながら、日本ではオペラやミュージカル、有名な俳優が出る演劇の方がお客さんが入りますよね。でも興味深いことに、ダンスは芸術として高い位置にあるんです。例えば劇場のプログラムを見ると、オペラ、ダンス、ミュージック、ドラマという順で並んでる。そこにヒエラルキーは必要ないかもしれないけれど、ダンスは決して下の扱いではないんです。ダンスは芸術的に高度なものだという風潮が社会認識としてある。だから何も貶められることはないし、アパラタスも小さいけれど高度なことをやっているという認識を持っています。しかし、大きい劇場で行われていることの方が価値がありそうだ、といういわれ方はあるように感じていて、それが僕には不当に思える。大きい声を出せば、大勢で話せば価値がありそうだという雰囲気はあるような気がします。

 

『モーツァルト』©KARAS

『モーツァルト』©KARAS

 

茶の湯や生け花、お能など、制約のなかに高い価値を見い出そうという文化が日本人にはある。昔から日本人は繊細で心遣いの国だと言われてきましたよね。でも近頃はどこかで丁寧さ、大事にするという価値を捨ててしまっているように感じます。マスコミや経済の影響も多分にあるでしょうし、さまざまなところで齟齬が出ていて、我々日本人が自ら自分たちを戸惑わせている。お金がなければ生きていけないというのは事実かもしれない。でも物を大事にするより買いかえた方がいいと考えていたら、どんどん経済が疲弊してしまう。経済の前にまず育てようとする気持ちがあるべきだと思う。大事にすることから価値観が生まれるわけで、必要以上のものがあると人間は気持ちが雑になってしまう。

近頃は日本人がそもそも持っている弱さ、謙譲の心、繊細さがどんどんなくなってしまって、自分たちに合わない世の中をつくっているように見えます。それは大きな劇場にも感じるところで、採算がとれるかどうかばかり考えていて、いいものをつくるということが後回しになっている。そんなにお金かけなくてもできること、それを大事にできるという価値観と、僕がダンスをしながら考えていることが近い気がして。本当の意味の喜び、面白さを発見する力が必要だと考えています。

 

『春と修羅』©KARAS

『春と修羅』©KARAS

アパラタスができたことで、普段ダンスに馴染みがない人たちもダンスに触れやすくなった。そういう意味では、新しい流れが生まれているように思います。

勅使川原>そうなったらうれしいですね。1986年にフランスのバニョレ国際振付コンクールで賞をもらい、各地のフェスティバルによばれ続けました。初めて東京で公演をしたのが1987年で、池袋のスタジオ200です。そのとき驚いたのが、みなさんいわゆるダンスの観客ではなかったということ。アートや音楽に興味がある人たちが来てくれた。次のスパイラルホールでの公演も、パルコ劇場でもそう。それまで劇場に来なかった人たち、ダンスの観客ではなかった人たちがたくさん来るようになった。いわゆるダンス系ではない人たちにダンスの風を吹かせることができた。

アパラタスがまたそうなれたらいいですよね。三周年といっても、まだまだ三周年だと思っています。何年後にこうしようというものは何も決めていないし、自然となるようになるだろうと考えています。あえて何かを仕組むのではなく、重要なのは積極的に活動すること。ただ荻窪に来てくださる人たちを少しずつでも増やしていきたいので、この活動はずっと続けていく。実際近頃はダンス関係者だけではなく、近所の人も来て下さるし、10代から年配の方までいろいろな人が来てくれている。ほんの少しの変化でもいい、とても小さい空間だけれど、小さな波が起きたらと思っています。

 

『平均律』©KARAS

『平均律』©KARAS

 

 

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