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谷桃子バレエ団75周年ガラ開催! 芸術監督・髙部尚子インタビュー

リアル動画で話題沸騰中の谷桃子バレエ団が、この夏75th Anniversaryガラ公演「TMB HISTORY GALA PERFORMANCES」を開催。谷桃子バレエ団が誇る人気演目とダンサーが勢揃いする豪華プログラムで、大きな話題を集めています。開幕を6月に控え、リハーサル中の髙部尚子芸術監督にインタビュー! 75周年を迎えたバレエ団の現在と未来についてお聞きしました。

今年3月、入団オーディションを実施しています。YouTubeで注目が高まり、入団希望者も増えたのでは?

髙部>応募者は70名くらいでした。前回が120名近かったので、実は去年の方が多かったんです。なかなか難しいですね。みなさんYouTubeを見ていて、そこに自分が映るということにちょっと躊躇される方もいたようです。

オーディションの結果、セカンドカンパニーに10名、アプレンティスに3名入っています。今回は正団員に入った方はなく、まずセカンドから見てみようということになりました。

ガラのオープニングを日原永美子さんにつくってもらっていて、そこにオーディションで入った新人を出そうと考えています。

あと、この春ユースを発足しました。ユースのメンバーはオーディションに来た70名の中から18歳〜22歳までの若い方たちを選んでいます。アプレンティスのひとつ下にアカデミーがありますが、ユースのメンバーに選んだのはアカデミーの一番上のクラスと同程度の能力の人たち。在籍は23歳まで。まだまだプロのダンサーとしては未熟だけれど、谷桃子バレエ団の先生たちがレッスンを指導して、アプレンティスにいけるかどうか見せていただく形です。ユースはセカンドカンパニー関係の公演や、アカデミーで発表会をするときに参加したりと、今在り方を考えているところです。

『リゼット』過去公演より

YouTubeも定着し、バレエファンのみならず一般の方への認知も広まりました。バレエ団内改革は着実に進みつつあるようです。今後の展開をどう考えていますか?

髙部>改革の一つとして、今年から専属のピアニストを入れることになりました。ピアニストのことはずっと気になっていて、日々のレッスン、それからリハーサルをピアノの生演奏でやりたいという気持ちがありました。ちょうどモナコ王立グレースバレエ学校で8年間弾いていた真家香代子さんが日本に帰ってくるというので、じゃあうちのバレエ団に専属で入ってくださいということで、彼女にお願いしています。今は真家さんを中心にしたピアニストのグループができていて、ダンサーに音楽的な面からも勉強してもらっているところです。

あと欲を言えば、環境の良いスタジオが欲しい。今は梅ヶ丘と、自由が丘、六本木の三つのスタジオをみんなが行ったり来たりしながら稽古やリハーサルをしている状況です。衣裳や装置はまた別にあるので、そこも必要があれば行き来しなければなりません。理想としては、ある程度の広さのあるスタジオがあって、みんながいろいろな場所を渡り歩かずとも物事が済むようにしたい。まだまだすべきことがいっぱいありますけど、ひとつひとつ取り組んでいくつもりです。

新春公演『白鳥の湖』

もちろん改革の成果はあって、それは何よりこうしてお客さまがたくさん公演を観に来てくださるようになったということですよね。従来のバレエ公演を観に来るお客さまというのはたいていバレエ関係者ばかりで、見知った顔ぶればかりというのが当たり前になっていたけれど、『白鳥の湖』はそうではなかった。それはもう本当に違う景色でした。

今回のガラにしても、こうして完売したということは、間違っていなかったんだなと受け止めています。ここまで本当にわからないことだらけでした。運営チームが売り方を考えてくれて、そこに私たちがなんとかついていった感じです。全くの手探り状態で、こういうことをしてもいいのだろうかという迷いもありました。

私自身ずいぶん考え方を変えました。今までの考え方だったら、絶対にああいう売り方は拒否していたでしょう。そこは苦しく辛いところでもありました。だけど、こういう風にチケットが売れる方法もあるんだということを知った。そして今、ソールドアウトという夢のようなことが起きている。

だからといって、今までの考え方は全部捨て去って、新しい考えにするかといったら、決してそうではありません。やはり谷先生から受け継いだものがありますし、私が想うバレエの素晴らしさというものがある。これをみなさんにお見せしたいというものがある。

谷桃子バレエ団公式YouTubeより

なぜ私たちがバレエという道を選んだか。どうしてバレエを素敵だなと思い、なぜバレエを職業にしたか。それは、言葉がなく、 歌もなく、セリフもなく、説明もないのに、踊りだけでものすごく奥深いものがわかったから。それがわかるから、この職業を選んだ。あまりにわかりやすく全てのものを説明しすぎたら、やっぱりバレエ本来の良さというものをお見せできないのではないかという心配はあります。

じゃあ説明しませんよ、ということではなく、バレエを知らない人にも観やすい状況をつくらなければいけない。間口を広げ、初心者の方にも足を運んでもらえるようにする。その方たちが何度も何度も足を運んでくださることで、いつかバレエのファンになっていくのではないかと期待しています。そのときはじめて見える景色というのもたぶんあると思う。またそこで私たちが本来見せたいと思っているバレエ、バレエという舞台芸術の本質を知っていただけるのではないかと思っています。道のりは長いですよね。私が生きている間にできるかどうか、というくらい。

その道のりの過程で、ダンサーにもっと賃金が払われるような状況にもなるかもしれない。私たちの世代までは、収入を得るために踊ってきたというわけではなく、収入が得られないことをわかっていて、それでも踊りたくて踊ってきた。だけど、今はそうではない。そこは変えていくべきところです。どうしたらバレエダンサーという職業が一般企業と同じ収入を得るレベルにしていけるか。

毎日自分の根底にあるものとせめぎ合いです。だから苦しい日々は続きますけど、変わらずに変えていく。常に塀の上を歩いている感覚です。

でもやっぱり世の中にバレエを観たことのない人がまだまだいる。それがこの改革で本当によくわかったので、そういう方々にまずは観てもらうことから取りかからないと変わっていかない。今は少しずつ少しずつ進んでいるところです。

新春公演『白鳥の湖』

 

プロフィール

髙部尚子
Hisako Takabe

4歳より小野正子に師事。1979年谷桃子バレエ団研究所入所。1983年東京新聞全国舞踊コンクール ジュニア2位、同年日本バレエ協会第1回全日本バレエコンクール第1位。1984年第12回ローザンヌ国際バレエコンクールにおいて、プリ・ド・ローザンヌ受賞。スカラーシップにて英国ロイヤル・バレエ・スクール留学。帰国後、谷桃子バレエ団入団、プリンシパルとして『リゼット』を皮切りに『白鳥の湖』『ジゼル』『ドン・キホーテ』『シンデレラ』『くるみ割り人形』『令嬢ジュリー』『テス』などすべての公演の主演を踊る。1994年文化庁派遣在外研修員としてカナダ、イギリスにて研修。1997年から2004年まで新国立劇場バレエ団において登録ソリストして、バランシン振付『テーマとバリエーション』プリンシパル、ナチョ・デュアト振付『ドゥエンデ』などを踊る。バレエ団公演以外にも出演作品は数多くその活動は多岐にわたる。1988年に松村賞、1990年に芸術選奨文化大臣新人賞、1992年にグローバル森下洋子・清水哲太郎賞、1992年に服部智恵子賞、1995年に橘秋子優秀賞を受賞している。2017年5月谷桃子バレエ団芸術監督に就任。

 

谷桃子バレエ団公式HP
https://www.tanimomoko-ballet.or.jp

谷桃子バレエ団公式YouTube
@tmbcompany

 

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