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フィリップ・ドゥクフレ『CONTACT-コンタクト』インタビュー!

“空間演出の魔術師”フィリップ・ドゥクフレが、自身のカンパニーDCAを率い、最新作『CONTACT-コンタクト』を日本初披露。ポップで奇抜なドゥクフレ流フレンチ・キャバレー・ミュージカルを繰り広げます。この秋の開幕を前に、来日を果たしたドゥクフレにインタビュー! 作品への想いをお聞きしました。

劇中で演奏されるオリジナル楽曲にも注目です。

ドゥクフレ>ノスフェルとピエール・ル・ブルジョワという才能あるふたりのミュージシャンが参加していて、彼らが楽曲をつくり、彼ら自身が全ての公演でライブ演奏を行っています。ノスフェルとは『OCTOPUS』(2010年初演)ではじめて一緒に仕事をしました。とはいえ最初から彼に音楽を頼んでいた訳ではなくて、『OCTOPUS』ではまず曲を決めないままダンサー数人とクリエイションを進めていたんです。ある日ダンサーのひとりが“すごく才能あるミュージシャンと出会った”と言い出して、翌日彼女が連れてきたのがノスフェルでした。

音楽や振付、演技に関しても、私はみんなの意見を自由に聞きます。もちろんそれらを誘導していく作業は私が担う訳ですが。特に今回恵まれていたのが、ミュージシャンが同じスタジオで仕事をしてくれたこと。パリの郊外にスタジオを持っていて、そこでダンスのクリエイションと作曲を同時進行で行いました。この方法の良いところは、相互反応ができるということです。曲をつくり、それで実際にダンサーが動いてみて、上手くいかなかったらミュージシャンがその場でどんどん変えていく。

このエピソードからもわかっていただけると思いますが、家族のようなカンパニーです。家族的といえば、今回のツアーがはじまってからダンサーのうちふたりが妊娠して出産したので、子どもがふたり増えました。妊娠中のダンサーというのは舞台上ですごく興味深い状態です。大きなお腹で踊る様子は非常にすばらしいものがあり、彼女のためにソロを振り付けました。でも残念ながら、それは永久には続きません。人生が変わっていくように、この作品も変化を繰り返してきました。

 

『CONTACT』©Laurent.Philippe

『CONTACT』©Laurent Philippe

クリエイションはどのように行ったのでしょう。ドゥクフレさんの創作メソッドとは?

ドゥクフレ>毎回同じメソッドを使っている訳ではなくて、作品ごとにあえて違う方法で創作しています。『CONTACT』に関しては4〜5人の執筆グループがいて、まず執筆作業からはじめました。週末ごとに田舎に集まり、どういった作品にするか意見交換をして、作品プランを書き出してくというやり方です。そこで出てきた最初のアイデアが、ゲーテの『ファウスト』、ピナへのオマージュ、個性や才能が際立つさまざまなキャストです。ところがいざクリエイションがスタートすると、プランはどこかにいってしまった。作品プランとして全体の構成を決めてはいたけど、実際その大半はどこかに飛んでいき、もともとあったいくつかの要素が残った形です。

毎回違う方法を取っていますが、ベースのメソッドとして共通してあるのが、アイデアを出すということ。そしてひとつひとつのアイデアについてワークショップを行います。ワークショップが終わった段階でパズルのコマができ、それを使って私がパズルを組み立てていきます。今回の作品でいえば、パズルを組み立てるのが最も難しいところでしたね。というのもそれぞれのコマが大きく異なっていたので、どう組み立ててひとつの画にするかという作業に手間取りました。

ツアーに出て一年目はまだパズルを組み立てている段階で、公演を重ねてようやくきちんとした完成形を迎えることができました。でもそれは舞台作品が生きている証だと思う。ツアーに出ているからといって毎回全く同じことをしているのではなくて、毎回違うことが起こっているのが舞台の良さ。しかもやっとパズルが組み立てられたというときに、主役級のひとりが靱帯を痛めて踊れなくなってしまい、また作品に手を加えることになりました。でも今ではそのダンサーのケガも治ったので、今回の日本公演では14人のキャストがそろった完成形で観てもらえると思います。

 

『CONTACT』©Laurent Philippe

『CONTACT』©Laurent Philippe

ワークショップから生まれた要素で残ったものは?

ドゥクフレ>ひとつは催眠術のシーン。実際にこの役を演じているふたりがアイデアを出してきたものです。最初に聞いたときはどうかなと思ったけれど、デモンストレーションを観たらすごく面白かった。マジックは好きなんです。“ジャン・クロード”と呼び合うシークエンスも集団作業から出てきたものです。この作品のテーマとして、男とは何か、女とは何かといったジャンル分けに意味があるのかという話をしていて、じゃあみんなでジャン・クロードと呼び合おうと一種のゲームとしてはじめました。実はジャン・クロードというのは今フランスでは流行らない名前なんです(笑)。悪魔と契約する際に、ダンサーが“ソロのダンスを踊りたい”と訴えるのもクリエイションの過程で生まれたシーンです。ああいう不器用な人間が突然動きの自由を手に入れるというのが面白い、うつくしいと思いました。

 

『CONTACT』©Laurent Philippe

『CONTACT』©Laurent Philippe

悪魔があらわれて“何かひとつだけ叶えてあげよう”と言われたらどう答えますか?

ドゥクフレ>その話はここではしない方がいいでしょう(笑)。実はずいぶん前に悪魔とは契約済みで、とても口にはできないことを望んでいます。しかし、本音を言うと私自身は悪魔も神も信じていません。では何故このテーマを扱ったかというと、神に近づこうとして神を理由に狂気の行動に走るという状況が、現代社会と反響するものがあると思ったから。残念ながら、この作品をつくったときより社会の状況はもっと悪くなっているようです。

 

『CONTACT』©Laurent Philippe

『CONTACT』©Laurent Philippe

 

-コンテンポラリー