Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(10)
「NHKバレエの饗宴2012」
『solo for 2』
演出振付:金森穣
出演:井関佐和子、宮河愛一郎、藤井泉、中川賢、真下恵、青木枝美、藤澤拓也、宮原由紀夫、亀井彩加、角田レオナルド仁、小㞍健太(ゲストメンバー)、櫛田祥光(ゲストメンバー)
初演:2012年3月13日
会場:エル・パーク仙台(宮城)、NHK ホール(東京)、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟)、KAAT神奈川芸術劇場(神奈川)
『solo for 2』は『academic』(「ZONE」)の改訂版で、「NHKバレエの饗宴2012」用につくられた作品でした。
再演といえど、穣さんは必ずリメイクします。それどころか、毎回公演ごとに変わります。初演当初はそのときの最高のものと思っているけれど、距離を置くことで作品の核心に触れることができ、必要なもの、不必要なものが明確に見えてくるのだと思います。
舞台上には折れ曲がった椅子が置いてあります。あの椅子はとても繊細で、作品によく合っていましたね。4本の脚のうち1本だけ短くなっている。椅子そのものだけでは傾いてしまい、存在価値を見出せない。人が座ると人の重みとの共同作業により、椅子という存在価値が生まれる。椅子は須長檀さんの作品で、ほかにもいろいろな美術をNoismのためにつくってくれています。
元NDTの小㞍健太さんがゲストメンバーとして参加しています。
健太との付き合いは古く、ヨーロッパ時代、彼のNDT入団前に遡ります。健太はローザンヌ国際バレエコンクールで賞をとり、フランスのカンパニーに研修生として入団した。そのカンパニーがNDTの本拠地にツアーに来て、研修生だった健太と出会っています。健太いわく、「元気な日本人に話しかけられた」という記憶があるそうです。健太がNDTのオーディションを受けるとき、私の家に1週間ほど泊まっています。当時のことを振り返っては、健太に「恩人だよ」と言われます。ただ彼がNDTに入ったのは私が辞めた後だったので、被ることはありませんでした。
このときは健太がNDTを辞めて日本に帰ってきたころでした。穣さんは「海外とは違うから来たら大変だよ」と健太に言っていたけれど、彼自身Noismで試してみたかったのだと思います。
『academic』では穣さんと踊ったけれど、『solo for 2』は健太と踊りました。穣さんと健太はやはり違います。例えるなら、穣さんは鷹や鷲で、健太は大きいアザラシ。二人とも大きいけれど、健太はどっしりして重い。穣さんは引っ張っていく感じで、健太はどちらかというと一緒に行く感じ。
私をリフトするとき、穣さんは事前に用意をはじめて、私が行こうとする流れを区切ることなく、そのまま持っていく。健太は動くタイミングが私と一緒で、それでいてこちらの動きを切ることはなく、すごいパワーで持っていく。普通は男女が一緒のタイミングで動くと、ちょっとギクシャクしてしまうもの。女性の動きが止まって、待たなければならない瞬間が出てきてしまう。でも健太は沼のようなエネルギーがあって、それで持っていくので、こちらの動きも止まらない。彼くらい踊れるダンサーが相手だと、やはり全然違います。
『Nameless Voice―水の庭、砂の家』
演出振付:金森穣
出演:井関佐和子、宮河愛一郎、藤井泉、中川賢、真下恵、青木枝美、藤澤拓也、宮原由紀夫、亀井彩加、角田レオナルド仁、小㞍健太(ゲストメンバー)
初演:2012年6月29日
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟)、彩の国さいたま芸術劇場(埼玉)、静岡芸術劇場(静岡)、愛知県芸術劇場(愛知)、金沢21世紀美術館(石川)
見世物小屋シリーズ第3弾で、社会問題への取り組みを感じさせる作品でした。
新潟の「水と土の芸術祭2012」参加作品で、水がテーマの作品でした。金森SF作品のような感じです。人間や生物や自然の未来の姿とでもいうべきか。物語というより、断片的なイメージが強い。中川賢が宇宙人のような格好をしていたり、お面をつけた男性たちがいたりと、混沌としていて、観客に委ねる部分が大きくありました。
どこまで語るべきか、というのは本当に難しい。あまりに委ねすぎてしまうと、見慣れていない人には、意味がわからないまま終わってしまう可能性がある。ただスタジオ公演で距離が近いぶん、身体はよく見えるので、そのすごさというのは感じ取ってもらえたのではないでしょうか。
ペットボトルを使った舞台美術も印象的です。
Noism作品のあるあるで、まずどうやってペットボトルを並べるか、時間をかけて模索していきました。本番用は空のペットボトルを買ったけど、最初はみんなで家にあるものを持ってきて、ワークショップをしています。この時期はみんな2Lのペットボトル飲料をよく飲んでいましたね。
作品の冒頭、舞台の中央にあるペットボトルのタワーの中で、健太がじっと待機しています。音が鳴るとペットボトルをバンっと崩し、バラバラになったペットボトルの中で健太が踊る。毎回公演前に、ペットボトルをひとつずつみんなで積み重ねています。それが一苦労でした。
石川公演は金沢21世紀美術館が会場で、仮設で幕をつくりました。ところが冒頭、幕が途中でひっかかり、斜めに開いて上がりきらなかった。けれどペットボトルのタワーの中にいる健太には周りの状況が見えなくて、音と同時にタワーを壊して踊りはじめてしまった。その間も幕は斜めのままです。客席の一番後ろにいた穣さんが「幕が上がらないのでもう1回やり直します」と話し、いったんお客さん全員に会場の外へ出てもらいました。私たちみんなでペットボトルを組み立て直して、改めて再開しています。
ラストは砂が敷き詰められたステージで踊ります。
1部のラストの私のソロで砂が降ってきて、2部は砂を敷き詰めた上で踊ります。本物の砂です。最後に水が降ってびしょびしょになるので、毎回新しい砂に変えなければいけません。
あれは本当に踊りにくかった。砂って場所によっても日によっても形が違うから、バランスボールの上で踊っているよう。しかも全員でゆっくりバランスを取るユニゾンが多く出てきて、もうみんな足がプルプルの状態です。カウントで踊るのではなくみんなの呼吸感で踊るシーンだったので、角度により1番端にいるメンバーがキーパーソンになって、その人にみんなが合わせていきます。彼がばっちりバランスを取れたりすると、その後「なんであそこであんなに止まるの!」とみんなから袋叩きです。
Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(11)につづく。
プロフィール
井関 佐和子
Sawako ISEKI
Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督 / Noism0
舞踊家。1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャールらに師事。’98年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。’01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。’04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、日本を代表する舞踊家のひとりとして、各方面から高い評価と注目を集めている。’08年よりバレエミストレス、’10年よりNoism副芸術監督を務める。22年9月よりNoism Company Niigata国際活動部門芸術監督。第38回ニムラ舞踊賞、令和2年度(第71回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
Noism
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する、日本初の公共劇場専属舞踊団。プロフェッショナル選抜メンバーによるNoism0(ノイズムゼロ)、プロフェッショナルカンパニーNoism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーNoism2(ノイズムツー)の3つの集団があり、国内・世界各地からオーディションで選ばれた舞踊家が新潟に移住し、年間を通して活動。2004年の設立以来、りゅーとぴあで創った作品を国内外で上演し、新潟から世界に向けてグローバルに展開する活動(国際活動部門)とともに、市民のためのオープンクラス、学校へのアウトリーチをはじめとした地域に根差した活動(地域活動部門)を行っている。Noismの由来は「No-ism=無主義」。特定の主義を持たず、今この時代に新たな舞踊芸術を創造することを志している。https://noism.jp/






