dancedition

バレエ、ダンス、舞踏、ミュージカル……。劇場通いをもっと楽しく。

KENTARO!! 『前と後ろと誰かとえん』インタビュー!

東京ELECTROCK STAIRS率いるKENTARO!!さんが、ダンスの祭典Dance New Air 2016に登場。KENTARO!!さん振付による世界初演作『前と後ろと誰かとえん』を発表します。10月の開幕を前に、創作にあたるKENTARO!!さんに作品についての想いをお聞きしました。

もともとヒップホップを学びながら、コンテンポラリー・ダンスの世界に進出しようと思ったのは何故ですか?

KENTARO!!>ヒップホップテクニックでコンテンポラリー・ダンスをつくっている人がいないということにあるとき気付いて、だったらパイオニアになれるかもしれないと思ってソロをつくったのが始まりです。それにストリートシーンも自分には先にやりたいことがなくて、クラスを増やす、メジャーデビューする、バックダンサーになるということにあまり惹かれなかった。だったら好きな映画のようなものをダンスで表現したらどうだろうと考えて、それがコンテンポラリー・ダンスというジャンルなのかなと思った。何か違うものをやりたかったんです。

長い作品をつくってみたいという気持ちもありました。ストリートは長尺になると面白くない。地明かりの素舞台、無音ではきっとできない。できたとしても、変なストーリーを入れてみたりと、オプションを加えないと成り立たなかったりする。でも僕は今は蓄積で独自の方法論を習得しているから、かっこいい以外の感情を生むことができる。コンテンポラリー・ダンスの作品をいろいろ観て、こんな長尺で何もしなくてもいいんだとか、こんな変なことしていいだとか、価値観がすごく変わったんです。音に合わせなくていいんだということも初めて知りました。ストリートをやっている人は無音で踊るという概念がないし、僕もなかった。ストリートとコンテンポラリー・ダンスでは、陸上競技の人が水泳に転向するくらい違うんです。やっぱり違う概念を取り入れるのってすごく勇気がいることですよね。

 

img_7989

 

どうやってジャンルの垣根を跳び越えていったのでしょう?

KENTARO!!>たぶん僕の場合は視野が広かったんです。舞台を観て勉強していればみんなちょっとはつくれると思う。でもストリートダンスの人たちってシーンが成立しているし、他に目を向けることがない。でも僕は両方観てた。勉強のために演劇とコンテンポラリー・ダンスを3年間くらい続けて年間100本くらい観まくりました。それがすごく大きかったと思います。そのころから音もつくりはじめたんですけど、そうやって好きなものを少し努力する才能が自分にはあった。僕はコンテンポラリー・ダンスを習っていないので、つくることに関しては観ることで学べた。そこでジャンルを飛び越えたというか、つくることができた。もちろん失敗もしました。ソロをつくりはじめて2〜3年は何もひっかからなかったけど、いろいろなコンペティションに出るうちにだんだんわかってきたような気がします。

 

img_7944

 

いろいろ観たなかでも特に印象に残った作品、振付家は?

KENTARO!!>ピナ・バウシュの『ネフェス』。衝撃でした。まず上演時間の長さに驚かされたし、自分の概念がひっくり返された。それで最後は泣いちゃったんです。ラストシーンですごく感動したのを覚えてます。それまで舞台を観て、きれいだな、かっこいいなと思うことはあっても、そこに喜怒哀楽は存在しないというか、自分にはそれが欠落してると思ってた。だけど、ダンスを観て泣けるんだとはじめて知った。でもあれからいろいろ観てちょっとスレちゃったから、今観たらまた違うかもしれない。

当時、日本人の振付家の作品はほとんど観たと思います。その時は新鮮でどの作品もみんな面白かったですね。珍しいキノコ舞踊団の『家まで歩いてく。』はすごく好きでした。バレエテクニックでこういう世界がつくれるんだって新鮮に思った。舞台を観ていてつまらなくても、何故つまらないのか考えるきっかけになるから、自分がつくるときの基準になる。

舞台のつくり方もすごく勉強になりましたね。音の出し方、照明のあり方にしても、観てないと話ができないから。灯体の場所とか、このくらいの高さだからいいんだとか、そういうことがわかってくると、作品をつくるときイメージできるようになる。たぶんヒップホップの人が舞台で上演するときは明確なリクエストを言うことはまずないし、言ったとしても“幻想的な雰囲気で”という程度で抽象的だと思う。僕はすごくこまかくて、昔は色も全部指定して図面のように書いてました。でもそうすると照明の方のスキルを引き出すことができないのが分かり、逆に世界観を狭めてしまった。今は以前ほどこまかくせず、なるべく余白をつくるようにしています。

 

img_8018

 

演出家気質が強いということでしょうか。

KENTARO!!>自分が舞台に出てないときは完全に演出に徹しています。本当は自分が出てない方がいい作品がつくれると思う。相当踊れる人があと三人いたら僕は出ないでソロをつくるかもしれない。ある程度年齢がいったらやっぱり若い子とは一緒に踊りたくない。逆にダンサーとして出るなら同じ年くらいの人がいいし、同じ年くらいの人たちとできるなら作品をつくってみたい。

劇場の芸術監督になりたいという気持ちもあって、もし自分がなったら独自のキュレーションをする自信があります。演劇もダンスも音楽もある程度わかるし、ストリートの知り合いも多いから、面白いものが観れる場所をつくる自信はある。でも自分がかっこいいと思うものが前衛的な作品に寄ってしまう可能性があって、そうなると人が来るかどうかわからない。人が来ないとクビになると思うからから無理かもしれない。ただ劇場監督になるのって運にも左右されると思うし、そのポストを誰にするか決める人が僕のことを知らなかったら当たり前に話もこない。他の人を知っていたらその人にいくだろうし、有名だからなるというものでもない気がします。いつかなれたらいいけど、そこは他力本願でもあるし第一ではなくて。とにかく今は、ダンス、音楽、演劇、全てを底上げして、その上で僕の作品を観に来てくれるお客さんを増やしたい。いろいろな底上げをして、“ぜひ芸術監督になってください”と頼まれるくらいの存在がいいです。

自分の踊りを観てもらいたいという気持ちも、年齢を重ねてだいぶなくなってきました。ソロをつくりたいという気持ちも今はなくて、あれは何だったんだろうというくらい。若い子たちに譲るじゃないですけど、たぶんちょっと引いちゃうんでしょうね。でも今回の作品ではかなり踊ると思います。そこですごく手応えを感じて、これはいいなと思えばまた踊りたくなるかもしれない。そういう結果を求めてるのかもしれない。そろそろ今までつくってきたものを塗り替えないといけないな、という気持ちもあって。“そろそろ”っていつも言ってるんですけど(笑)、今度こそ本当に集大成にしたいですね。

 

img_8032

 

 

-コンテンポラリー