Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(17)
劇的舞踊『ROMEO & JULIETS』
演出振付:金森穣
出演:Noism1+SPAC
井関佐和子、中川賢、池ヶ谷奏、吉﨑裕哉、浅海侑加、チャン・シャンユー、 井本星那、鳥羽絢美(準メンバー)、西岡ひなの(準メンバー)、山田勇気(特別出演) 、金森穣(特別出演)、大内米治、貴島豪、鈴木真理子、武石守正、舘野百代、野口俊丞、布施安寿香、三島景太(SPAC)
初演:2018年7月6日
会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(新潟)、オーバード・ホール(富山)、静岡芸術劇場(静岡)、彩の国さいたま芸術劇場(埼玉)
SPAC-静岡県舞台芸術センターとの共同製作として創作された大作でした。
キャストの半分がSPACの役者さんでした。みなさん穣さんに対してすごくリスペクトがあり、稽古場に来た瞬間からもうやる気満々で、向き合い方がすごい。エネルギーの出し方がとてつもなくて、やっぱり鈴木忠志さんと一緒にやられていた方たちだなと感じましたね。
役者さんたちに新潟に来てもらい稽古をして、さらに静岡にも滞在して稽古を重ねています。本番は東静岡駅前の静岡芸術劇場でしたが、このときは日本平の静岡県舞台芸術公園内の稽古場を使っています。鈴木さんがSPACの芸術総監督をされていたころにできた場所です。野外劇場があって、稽古場や関係者が泊まる宿舎もある。みんなで買い出しをして、稽古をしてと、合宿みたい。毎年のように行っていた、懐かしい場所です。
キャストにはそれぞれ役がありました。
物語の舞台は精神病院です。ひとりのロミオと、5人のジュリエットたちがいる。私の役はロザラインです。原作ではロザラインはロミオの想い人として語られますが、本人は登場しません。Noism版では、穣さんのオリジナルで、アンドロイドとして登場しました。バレエ少女なら誰もが憧れるような作品で、あんなにうつくしい音楽で、アンドロイドって(笑)。アンドロイドという設定だったので、感情を表に出すことはありません。ただ愛するロミオの死により最後に一瞬見せる小さな感情が、プロコフィエフの感情的な音楽と相まってとても感動的なシーンになりました。
創作過程は私にとって困難でした。ジュリエットたちやロミオは物語にしっかり関わってくるけれど、ロザラインは明確な立ち位置がない。穣さんがその定まってないものを私にわたすので、果たしてロザラインは作中どういう立ち振る舞いをするのだろうと悩んでしまう。穣さんには「そのうちわかるから」と言われ続ける。「というか、俺もわからない。そのうち佐和子が自分でわかるから」と。リハーサルが進んで振りは決まっていくけれど、存在理由が定まらない。試行錯誤して、結局頭で考えてわかるものではない、ということを理解した。身体で空間に入り、理解して、そこから役がどんどん入っていくようになりました。
『セレネ、あるいはマレビトの歌』も同じでした。創作当初、私はただひたすら歩かされています。歩き方や空気のつくり方を穣さんに尋ねても、「全然決まってないから」と放置です。その上で「佐和子がそのうち自分で見つけるから」と言う。それだけ信頼してくれているということなのでしょう。言い換えれば、私が負けず嫌いなのを知っているということ。実際「自分で見つけるはず」なんて言われると、とにかくもがきます。見つけられないとそこで終わりなので、とりあえず必死にいろいろやるけれど、いいもなければ悪いもない。そのうちだんだん自分で自分を信頼できるようになってきて、焦りが消えていき、たぶんもっと進んでいけばわかるだろう、という感覚を持てるようになりました。
精神病棟のシーンでは『The Dream of the Swan』と同じベッドを使っています。このベッドには苦い思い出があって、人生ではじめて本番で出トチリました。看護師役の役者さん二人と一緒にベッドを運んでいくシーンです。音楽が難しく、袖で3人で一生懸命カウントを数えていた場面でした。でもその日に限って3人とも一瞬ぼーっとしたのか、気づいたら出のタイミングを逃していた。顔面蒼白とはまさにこのことです。その瞬間、“あれ、もう音過ぎているよね?”と3人で顔を見合わせて、3人で信じられない速さで出ていきました。みんなは「気づかなかった」と言っていたけれど、自分自身の中でやってしまった感がすごくありました。
『ROMEO & JULIETS』は2017/2018シーズン最後の作品でした。
いろいろ節目の年でした。まず中川賢が辞めました。ただすぐ後に『ラ・バヤデール―幻の国』の海外公演で、続いて『カルメン』の海外公演で彼を呼んでいます。だから本当の意味でのお別れは2019年5月のロシア公演『カルメン』で、それがNoismで賢と踊った最後です。
私自身は、ようやく辛い時期を抜けつつあったころでした。40歳になる年で、子どものことにしても、年齢的に割り切ったのだと思います。もうひとつ大きかったのが、翌年シアター・オリンピックスへの出演が決まったこと。鈴木忠志さんからお声かけいただき、是が非でも利賀村で踊りたい、という気持ちがありました。もういろいろ忘れたかったんです。年齢的な焦りと、踊りたいという気持ちが共存し、せめぎ合っていた。けれどシアター・オリンピックスが未来にあることで、フォーカスが定まった。心が決まって、いろいろなことに惑わされなくなった。それで少し余裕ができた。40代に入って、踊りが楽しくなってきました。
身体に対する向き合い方も変わりました。それまでやってきたこと全てに対して、疑ってみようと考えた。ひとつ大きなものを諦める決断をして、もう一方に進むとき、改革が必要でした。ストレッチからバーレッスンまで、ひとつひとつ改めて見直していきました。骨格本や子ども用のバレエの本を買い集めて、もう一度やり直しです。なかには子どものころ読んだバレエ本もありました。けれど、一番ポジションとはなんぞやという解説を読んでいると、また発見があるんです。知っているつもりだったんだなと、ちょっとずつ自分の中で納得しはじめた。やっているつもりをやめる。先入観を捨てて、まず本に書いてある通りやってみる、というプロセスのはじまりです。そうすると自分の身体がまっさらな状態になり、今までの蓄積でできてしまったクセが、少しずつ身体から剥がされていくような感覚になりました。
ただ40年近くやってきたことをゼロにするのは非常に大変です。もし実感がなかったら諦めていたでしょう。だけど、明らかに実感を伴った。だから続けていこうと思えたし、実際に続けることができました。
「R.O.O.M. / 鏡の中の鏡」
実験舞踊vol.1『R.O.O.M.』
演出振付・空間・照明:金森穣
出演:井関佐和子、池ヶ谷奏、浅海侑加、チャン・シャンユー、ジョフォア・ポプラヴスキー、井本星那、林田海里、カイ・トミオカ、チャーリー・リャン、西岡ひなの、鳥羽絢美、西澤真耶
『鏡の中の鏡』
演出振付・空間・照明:金森穣
出演:井関佐和子、金森穣
初演:2019年1月25日
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟)、吉祥寺シアター(東京)
『R.O.O.M.』は実験舞踊シリーズの第1弾。小さな部屋のような特殊な舞台空間で、トウシューズで踊っています。
『ラ・バヤデール―幻の国』に『ROMEO & JULIETS』と物語性のある作品が続いていて、久しぶりに抽象度の高い作品でした。作中は天井裏から降りてくるシーンが何度も登場します。屋根裏部屋はかがんで歩く程度の高さ。幅の狭い通路がつくられていて、踏み外したら落ちてしまう。天井から降りる練習を重ねました。手をどう置けば横ぶれせずまっすぐ降りられるか、いろいろ研究しています。
「トウシューズを履いて踊るよ」とある日突然穣さんに言い渡されました。若い子たちは最後に履いてからさほど時間が経っていないから、みんなはまだ感覚が抜けていなかったようです。でも私が最後に履いたのはクルベルグ・バレエ時代。『眠れる森の美女』でトウシューズを履くシーンがあって、それ以来なので約20年ぶりです。
時間があいてもベースがあるから、履けなくはないんです。でも余計に危ないですね。靴下で踊るときとは使う足の筋力が全然違う。どうにかしようとすると力任せになってくる。実際ずっとトウシューズで立っていると、だんだん重心が下がってきてしまう。若いころは自然とやっていたので考えたことはなかったけれど、トウシューズで立つってこんなにあちこち使っていたんだ、ということを知りました。
トウシューズを履くといっても、バレエのトウシューズを履いた状態、いわゆる引き上げた状態だけをNoismは求めません。トウシューズは上から立つことで成立するけれど、Noismでは下から立ったりもする。Noismバレエの延長のトウシューズなので、余計に負荷がかかってきます。ときにはトウシューズを履いたまま床を転がったりもします。これがしんどい。トウシューズのぶん足が長くなるので、いろいろなところにぶつけてしまい、いつもと勝手が違います。またそこで上半身はどう動かすか、という問題も出てきます。
部屋の中は壁に天井、床まで、銀紙をペタペタと貼っています。そのままだとトウシューズで床が削れてしまうので、銀紙の上に透明のビニールシートを貼りました。ゴムっぽさがあって、不思議な感触です。リノリウムと違い、トウシューズで立つと反発せずちょっと沈んでしまう。動くとき引っかかったりもして、いろいろなテクニックを要した床でした。Noismでトウシューズを履いたのはあれが最初で最後です。
『鏡の中の鏡』は井関さんと金森さんのデュエット作でした。創作はどのように行ったのでしょう。
まずそれぞれ違う音楽で、それぞれのソロを振付けています。穣さんのソロはマイケル・ジャクソンの『Smooth Criminal』。ノリノリのやつです。ビートに合わせているから、すごくハードだったと思います。私のソロはポルトガルの民族歌謡・ファド。私の大好きな女性歌手が歌っている、力強く哀愁ある曲です。
ただ本番ではその音楽は使わず、AIが学習して出てきた音源を使っています。前半はデイヴィッド・コープの音楽で、後半はベートーヴェンのソナタを真似たような音楽です。だから当初の音楽とは全然違う。舞台を観ると静かなイメージだけれど、自分たちの中では、マイケル・ジャクソンやファドでつくったときの感覚を重視して踊っています。
最初はほぼ無音で、音楽は二人が出会うところからはじまります。穣さんがソロを踊って、私がソロを踊って、お互いほとんど触れずに踊る。デュオでありながら、目も合わさず、お互い舞台の端と端に座り込む。そして作品の最後で二人同時にぱっと顔を上げて、はじめて互いを見て終わります。
タイミングは決めず、自分の中で「時が来た」と思ったら顔を上げる。だから、合うかどうかはわからない。実際に二人のタイミングが合ったのは、全公演の半分くらい。ぱっと合ったときの二人の本当の驚き。ズレたときでさえ、それを受け入れる。お客さんには、“遅れちゃった”ではなく、一方が顔を上げて、それをもう一方が見る、というようにも見えたでしょう。その都度作品の最後で、届く物語が変わる。素晴らしい瞬間でした。
Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(18)につづく。
プロフィール
井関 佐和子 Sawako ISEKI
Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督 / Noism0 舞踊家。1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャールらに師事。’98年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。’01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。’04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、日本を代表する舞踊家のひとりとして、各方面から高い評価と注目を集めている。’08年よりバレエミストレス、’10年よりNoism副芸術監督を務める。22年9月よりNoism Company Niigata国際活動部門芸術監督。第38回ニムラ舞踊賞、令和2年度(第71回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
Noism
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する、日本初の公共劇場専属舞踊団。プロフェッショナル選抜メンバーによるNoism0(ノイズムゼロ)、プロフェッショナルカンパニーNoism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーNoism2(ノイズムツー)の3つの集団があり、国内・世界各地からオーディションで選ばれた舞踊家が新潟に移住し、年間を通して活動。2004年の設立以来、りゅーとぴあで創った作品を国内外で上演し、新潟から世界に向けてグローバルに展開する活動(国際活動部門)とともに、市民のためのオープンクラス、学校へのアウトリーチをはじめとした地域に根差した活動(地域活動部門)を行っている。Noismの由来は「No-ism=無主義」。特定の主義を持たず、今この時代に新たな舞踊芸術を創造することを志している。https://noism.jp/





