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Kバレエカンパニー矢内千夏インタビュー!

Kバレエカンパニーの11月公演『ラ・バヤデール』で、主役のニキヤを踊る矢内千夏さん。今年5月にはアーティストでありながら『白鳥の湖』の主役に大抜擢。見事に大役を務め上げ、公演後に同団史上最年少の19歳でソリストに指名された期待の星です。『ラ・バヤデール』はソリスト昇格後初の主演作品となり、さらなる注目が集まるところ。開幕を控えた矢内さんに、作品への意気込みをお聞きしました。

今年5月には『白鳥の湖』の主演に大抜擢され、大きな注目を集めました。

矢内>まさか自分が選ばれるとは思ってなかったですし、全く期待もしていなかったので、本当にびっくりしました。キャスト表が張り出されたのを見て、まず荒井さんの名前が書いてあったので、“荒井さんの白鳥がみれる!”と喜んでいたんです。そうしたら“名前が書いてあるよ!”と言われて。よく見たらローマ字で“Yanai”と書いてある。でもそのときは全然実感が沸かなかったというか、何かの間違いなのではと思ってました。本当に実感が沸いてきたのは、リハーサルが始まってからでした。

 

一番大変だったのは?

矢内>白鳥と黒鳥の差を表現するのが一番難しかった部分です。本当に全然できなくて、“どこが変わっているのかわからない。悪い意味で同じ人が踊っているように見えてしまう”と言われてました。黒鳥は踊ったことがありましたけど、白鳥は初めて。ただ黒鳥にしても“感情をもっと表に出して、表現が全然足りない”と言われてしまう。振りはある程度練習すればできるようになっても、テクニックにとらわれたままだと何も伝わってこないし、何も感動を与えられない。コンクールならそれでいいかもしれないけれど、プロの踊りではない。踊り方を根本的に変えなければいけないと、そこで改めて思い知らされた感じです。

“物語を知っているから話がわかるのではなく、全く知らない人が観てもわかるように心情を出さないといけないんだよ”と言われて、物語を自分なりに解釈するように考えを変えていきました。それまでは“『白鳥の湖』ってこういうお話だからこう踊るものだ”という感覚でしたが、自分がその立場だったらどうするかよく考えるようになったと思います。あとは音楽から沸いてくるものも多いので、曲を徹底的に聴き込みました。

 

パートナーは宮尾俊太郎さん。大先輩の胸を借りた心境はいかがでしたか。

矢内>宮尾さんはもう完璧で、ふたりで組むシーンは最初から何もしなくてもできましたし、本当に助けていただきました。自分自身の踊りに関しては不安なところもありましたが、ペアの部分は宮尾さんに全てあずけていれば安心、という感じですごく心強かったです。テクニック的には頼りきりで、“ここができなかったらどうしよう”という部分がひとつもないまま本番を迎えられました。

 

2015年Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』より(C)瀬戸秀美

Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』より(C)瀬戸秀美

 

やはり本番は緊張も大きかったのでは?

矢内>緊張はもちろんありましたが、それも最初だけでしたね。いざ舞台に出て行ったら、役として生きることができたというか……。そういう話ってよく聞くけれど、一体どういうことなんだろうと思っていたんです。でも『白鳥の湖』を踊ったとき、物語の中で起きていることを自分が実際に体験している感覚というのを初めて味わって。そこでようやく役を生きるという意味がわかった感じでした。きっかけは熊川ディレクターの言葉です。“舞台に出る前からすでに気持ちが入っているように”と言われて、それが感覚で掴めるようになってから、役に入り込めるようになりました。舞台に出る直前ってアップをしたりとどうしても機械的に動いてしまいがちだけど、『白鳥の湖』のときは袖にいる時点ですでに自分を捨てて、違う人間になり切るような感覚で演じられました。

 

踊り終えた手応えはいかがでしたか?

矢内>リハーサルをたくさん重ねてきたので、あまりミスなくできたし、身体もいつも通り動かすことができたと思います。もう何度も踊られてすでにペースを持ってらっしゃるベテランの方のようにはいかないので、私は毎回二回ずつ踊るようにしたりと、とにかく必死で本番まで練習してきました。何より役に入れたのがよかったですね。無駄なことを考えてしまうと、やはりいつも通りに動けなかったり、力を出し切ることができなくなってしまうので。

それにリハーサルのときは肉体的につらいとモチベーションを上げるのが大変でしたけど、本番はセットや衣裳やメイクもあり、自分ではないような感覚でスムーズに役へ入り込むことができました。黒鳥のグランフェッテもいつもなら不安になってしまうところですが、役に入り込みすぎて“早く出たい、みんなに見せつけてやりたい!”というくらい強気になってましたね(笑)。練習のときはあれが不安、これが不安と思っていたのに、舞台の最中はひとつも不安じゃなかった。役に助けられてできた感じです。なので終わってから自分でもすごく驚きました。

 

カーテンコールのとき舞台上で熊川ディレクターに声をかけられていましたね。

矢内>“すごくよかったよ”と褒めていただきました。“カーテンコールと拍手を楽しみなさい。これが一番ダンサーにとってうれしいことだよ”と。本当に幸せで、一生今が続けばいいと思ってました(笑)。

二日目の舞台が終わったとき、ディレクターから“ソリスト”とひとこと告げられました。あまりにもサラッとおっしゃったので、“え、何のことですか?”という感じでしたね。私自身何も期待していなかったし、大役を無事に務めることができてよかったという気持ちしかなかったので、思いがけない言葉ではありました。でもすごくうれしかったです。

 

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