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川村美紀子『横浜ダンスコレクション2017』インタビュー!

2015年の『横浜ダンスコレクションEX2015』で、若手振付家のための在日フランス大使館賞・審査員賞をW受賞した川村美紀子さん。今年開催される『横浜ダンスコレクション2017』では、受賞者公演として日本初演作『地獄に咲く花』と受賞作『インナーマミー』の二作を披露します。開幕に先駆け、川村さんにお話をお聞きしました。

作品をつくる上で川村さんの動機となるもの、重要な要素とは?

川村>環境が大きいです。自分でつくった舞台を観ていても、私単体でコレっていうものはあまりなくて、環境で左右される部分が沢山あります。そのときの環境に一番すっと刀が入る部分というか。それに気付かない方がいいときもあるし、気付いたときはそれが作品に生きてくるのかなって思います。

 

今はどんな環境ですか?

川村>フランスに行って、改めて“東京って面白い!”って思いました。それは決してばかにしている訳ではなくて、今の環境が恵まれているという事実を再認識したということです。この前リハーサルのとき、みんなに“金銭面、人間関係、恋愛問題、仕事面、あれこれ全て満たされたとする。もう頑張る必要もない。さて、何をしますか?”と問いかけてみたんです。全て満たされたら何をするのか。みんなは“動けなくなると思う”とか、身体の状態について言ってましたね。“全て満たされたらと思うとぞっとした” というのと、“わくわくした”という答えがありました。

仮想体験じゃないけれど、私はフランスをそういう風に捉えていて。何も苦労することなく毎月お金がおりて、家もあって、人も優しくて、自分も安定している。不安が何もない。そこで、自分の中に入り込むということをしてみたんです。東京にいるといろいろな暇つぶしができるから、改めてそれをしようという感覚にはならない。

満たされた状態と身体の動きというのは、何か関係があるのではないかという仮説を立てていて。フランスでは国が主催している公演なんかは動きがある作品をやっているけど、今どきのコンテンポラリーダンスとなるとあまりフィジカル的な感じではない。どちらかというと総合的なもの、ノンダンスみたいな作品が多く見受けられたんです。だけど以前シンガポールに行ったときはまた違って、ダンサーひとりひとりに話を聞いていると、“家が貧しくてこれに受からないと生きていけない”とか、“自分のセクシャリティに周囲の理解がなくて何回も死のうとした、でもダンスは僕の生きる意味だからダンスがなくなったら生きていけない”とか、いろいろ悩みがあって泣いてしまう人がすごく多くて。

フランスがどうとかシンガポールがどうというのではなく、環境が整っていないところでダンスをやっている人たちは実際すごくよく動くんです。じゃあ東京だったり自分の周りにいる人はどうなんだろうと考えていて、それはまだ咀嚼できてないんですけど。ただ、ひとりの人間としてフランスやシンガポールで自分が感じたことをきちんと捉えておきたいなという気持ちでいます。

 

(C)塚田洋一

(C)塚田洋一

満たされているから踊るのと、満たされていないから踊るのと、それぞれ動機になり得るとしたら、川村さんはなぜ踊るのでしょう?

川村>難しいですね。いい意味でやらざるを得ないというか。たぶん欲って追いかけ合いで、満たされることがない。だったら、どれだけ満たされていても心が貧しくならない方がいいなと思っていて。なぜ踊るかというと、“恩返し”という言葉が今の自分にとっては近いですね。それは場を与えてくれた人たち、世の中とか大きい意味のどちらもあると思います。意味を付けるのはきっと後からだから、今はまだわからないし、相手にとってはありがた迷惑みたいになるかもしれないですけど。

 

いわゆる自己表現のために踊る訳ではない?

川村>プロ意識がないと言われたらそれまでなんですが、あまり表現しているという感覚がなくて。可能性の話で、踊ることでいろいろな選択肢がもっと大きくなって自分に返ってくるような気がしています。もちろんそれを求めている訳ではないし、私がそうすることで一時的に仇みたいなってしまっても、長い目で見て大きな恩として返せたらそれが一番いいんじゃないかなと。そのためにここにいる、ということなんじゃないかなと思います。

 

©Duron Cedric

©Duron Cedric

 

-コンテンポラリー