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笠井瑞丈×笠井叡『花粉革命』インタビュー!

舞踏家・笠井叡さんの代表作として知られるソロ作品『花粉革命』。日本国内はもちろん海外でも高い評価を受け、各地で上演を繰り返してきた本作を、実の息子である笠井瑞丈さんが再演。父・叡さんの演出・構成・振付のもと、新たな『花粉革命』を発表します。上演に先駆け、瑞丈さんと叡さんのおふたりに本作への想いをお聞きしました。

これまでの作品と比べ、勝手の違いを感じる部分はありますか?

瑞丈>これまで出演した作品は叡さんに振付指導され、それを僕が踊るという関係性だったけど、今回はまた違う関係性だなというのは感じます。僕の身体を通して自分が踊っているということです。だからといって今までのリハーサルとどこが違うかというと同じだけれど、何となくそういうものを感じることはあります。

叡>いつもは誰かに振付けをしても、ひとたびその人が舞台に上がると私は客観的になって作品から離れてしまいます。振付家というのは振りをいったん渡してしまうと関係がなくなってしまうんです。何故かというと、もともとその人の中にあるものを引き出して、自分が動いて、それを返すという作業だから。

でも今回の場合は引き出して返すのではなく、一方的な関係なんです。瑞丈の身体性の中に入っているので振付けをしていないんです。これは大きな問題で、このまま舞台に乗せていいのか、あるところで私から離して渡してしまった方がいいのか……。これでいいのか悩むところでもあるし、この問題は未だに解決していない状況です。

 

(C) TOKIKO FURUTA

(C) TOKIKO FURUTA

 

瑞丈>僕としては、50年踊ってきた叡さんの身体の歴史を知りたいという想いがあります。僕自身も自分のやりたいダンスというものがあって、それは叡さんとは絶対に違うんです。ただ身体の歴史を知るヒントがこの作品に全て入っているように僕は感じています。

叡>いつもと同じようにならないのは、彼自身振付が欲しいのではなく、振付を通して流れていくものを欲しているということなのかもしれない。それは親の愛情とかそういうものではなくて、振りを通して何かを与えている感じ。親と子であり、赤の他人ではない関係性の中でということです。非連続のものと連続しているものがあるとしますよね。一般的なダンサーであれば非連続の対象だけど、彼の場合は連続しているものがもともとあるから、その部分が重要なのかもしれません。

そういう意味では、今回はきっと親子という関係では成立しないことをしているんです。それは人間関係を修復するとか、新しく関係性をつくるということではなくて、どこまでもダンス的な関わりの中で、赤の他人ではない身体性であるということが問題なんだと思います。

 

(C) TOKIKO FURUTA

(C) TOKIKO FURUTA

 

振付作業はどのように行っているのでしょう。

瑞丈>叡さんの場合、基本的に振りを順番通りに組み立てて作品ができていく。習字でいうと二度書きしないというか、そのままの時間で作品ができ上がる。それは不思議な感じがするし、他にはいないと思います。リハーサルをしていても、叡さんはあまり“ここは違うよ”ということは言わないんですよね。振りを直すことはまずないし、即興から生まれるものだから、僕としてはなるべく生まれた瞬間をキャッチしなければいけない。通しをしていても、“ここは変えよう”ということは比較的少ない。振付家ってたいてい直すんです。10分カットしたり、前半と後半を入れ替えたりと大幅に直すような人もいる。僕も振付けをするのでそれはよくわかります。

たぶん叡さんは振りとして与える動きが重要な訳ではなくて、振りを渡したときに発する気やその瞬間、感覚的なものがすごく重要なんだと思います。もちろん言われた通りに振りをやろうとはするけれど、それが間違っていても実はそれはそれほど問題ではないというか……。

 

(C) TOKIKO FURUTA

(C) TOKIKO FURUTA

 

叡>たとえば厚さ10mの岩があるとする。振付というのは岩の側面に形を描き、それに従って向こうに突き抜けるまで掘り進んでいく作業。私の振付法だと、振りを描き、“わかりましたか? じゃあ後は掘ってください”で済む。でも今回の場合そうはいかなくて、一緒に掘り進んでいかなければいけない部分がある。だから時間がかかる。去年の8月からリハーサルを始めましたが、普段はそこまでかけないですよね。10分の作品をつくる場合、いつもだったら一回2時間×15回で振付を仕上げてしまいます。『今晩は荒れ模様』(2015年初演)のときはダンサーが6人出演したので、それぞれ2時間×15〜20回でつくってる。

振りというのはその都度つくっては破棄していくところがあるけれど、今回は消せない部分がある。10年先も踊るということを前提にしているからかもしれない。誰かに振付けを頼まれても、“この作品を10年踊ります”と言われるようなことはない。だから貴重ですよ。たぶん振りではなくて、もうひとつ振りの先にあるものを渡しているんだと思う。それは様式、フォルムといういい方をしても言いかもしれません。

 

(C) TOKIKO FURUTA

(C) TOKIKO FURUTA

 

瑞丈>動きは重要なんだろうけど、たぶんもっと大事にしているのが身体の状態だったり、質感ということなんだと思います。振りを渡したときに何かが身体の中に生まれるような、もっとコミュニケーションの部分が肝になってくる気がしています。

実際に動きではなく身体の状態に対して注意されることはあるし、そういう話をすることは多いですね。ときには“今日は即興をしよう”と言って、動きながら身体の感覚をつかんでいくこともあります。それこそ最初の二ヶ月間くらいは振付はせずに、即興の稽古をしてはディスカッションを重ねてました。だから本当に振付が始まったのは去年の10月くらいからですね。

 

(C) TOKIKO FURUTA

(C) TOKIKO FURUTA

 

 

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