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Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(16)

2004年4月に発足したNoismの結成メンバーであり、舞踊家であり、国際活動部門芸術監督を務める井関佐和子さん。創作の模様から楽屋話まで、Noismと共に歩んだ20年の道程と、全作品を語ります。

「NINA―物質化する生け贄(ver. 2017) / The Dream of the Swan」
『NINA―物質化する生け贄』(ver. 2017)
演出振付:金森穣
出演:中川賢、池ヶ谷奏、吉﨑裕哉、浅海侑加、チャン・シャンユー、坂田尚也、井本星那、 鳥羽絢美(準メンバー)、西岡ひなの(準メンバー)、山田勇気(特別出演)
初演:2008年2月7日(ver.black)
会場:Daegu Arts Center(大邱・韓国)、Zhejiang Concert Hall(杭州・中国)、Kwai Tsing Theatre(香港・中国)、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟)、彩の国さいたま芸術劇場(埼玉)、Shanghai International Dance Center(上海・中国)
『The Dream of the Swan』
演出振付:金森穣
出演:井関佐和子
初演:2017年12月15日  
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟)/ 彩の国さいたま芸術劇場(埼玉)/ Shanghai International Dance Center(中国・上海)

『NINA』はver. 2017としての再演となりました。

 このとき衣裳が大幅に変わっています。女性は肌色のレオタードから、廣川玉枝さんのSkin Series(スキンシリーズ)のボディスーツになりました。身体にピタっとくっつくニットです。

 私は出演せず、みんなを指導しています。私自身初演から踊っているということもあり、想い入れのある作品です。作品って再演のたび洗練されていくので、作品自体が多くのことを語り出す。ただ踊り手は入れ替わるので、作品の方が先にいく。そこにどう舞踊家が追いつけるか、ひとりひとりがその作品をどう解釈するか。たいていの舞台作品は展開が早く、短い時間の中で表現しなければいけません。どんどんシーンが展開されていくけれど、その変わっていく様をとらえて踊るのもまた難しいところです。

 リハーサルを見るとき気になるのは、その人が何を感じているか、振りや形になる以前の状態はどうであるか、そしてそれらが形になりその先に何を語るのか。『NINA』ほど力強い作品になってくると、みんな最初から向き合い方が違うので、ある意味悪い先入観がついている。先入観をどう取り除くか、という作業の方が多かったように思います。私自身が踊っていたから、言えることがたくさんありました。

『NINA―物質化する生け贄』(ver. 2017)Photo:Kishin Shinoyama

海外ツアーにも出向いています。

 中国ではトラブルがありました。『NINA』は照明がとても重要ですが、オーダーしていた照明機材がないことが現地で判明して、そこから夜中まで先方とずっと話し合いです。向こうは「照明はあるじゃないか」と言う。彼らが言う照明はムービングライトで、コンサートなどでよく使われているものです。ムービングライトはいろいろな色が出て、動きもする。一般照明は吊ったらそこにしか明かりがあたらないけれど、ムービングライトは動かせるからラクなんです。

でも穣さんが求めていたのは、一般照明で出るシャリンとした輝きと同時の闇。ムービングライトはペトっとフラットに見えてしまう。穣さんは激怒するし、向こうは「ムービングライトじゃダメなのか」と逆ギレして、公演をやる・やらないという話にまでなった。言い合いをしたところで、結局折れなければならないのはこちらです。ムービングライトである程度つくり直したけれど、照明はバキバキで、『NINA』ロックコンサートバージョンといった感じ。海外に行くのは本当に大変です。

『NINA―物質化する生け贄』(ver. 2017)Photo:Kishin Shinoyama

『The Dream of the Swan』は井関さんの短いソロ作品でした。

 タイトルは音楽からきたものです。私のためにトン・タッ・アンが書いてくれた楽曲でした。以前別の作品の音楽をアンに依頼したとき、いくつかつくってくれた楽曲のひとつです。そのときは使わずにいたけれど、ここで日の目を見ています。

 ひとりの女性が気が狂い、妄想に取り憑かれる。枕を投げつけ、何かを吐き出すように叫び、最後はベッドに消えていく。ソロのときは、たいてい明確な物語はなく、この作品もそうです。刹那な感情の連続という感じです。穣さんは私にソロを振付けるとき、その時々の私と向き合う。彼がそのときの私の人間性をどう見るか、それが作品になる。だからこのころの私は相当狂っていたのでしょう(笑)。私の中のストレスを穣さんが感じ取っていたのだと思います。自分の中では『めまい―死者の中から』とも通じるものがあって、見えないものが見えてしまう感じ。そんなに激しい踊りではないけれど、印象としてはすごく激しい。

 踊り手にとって、狂気を踊るのはかなりしんどいものがあります。狂っている人を演じるのとはまた話が違う。眼差しや集中を極限までもっていったとき、狂っているように見える。普段の自分とはかけ離れたエネルギーを出さなければいけないので、すごく消耗してしまいます。それもあって、本番が終わると、鬱のようになりました。燃え尽き症候群とは違って、やり切った感ではない。精神が高ぶりすぎて、肉体が動かない。何もしたくないということではなく、何かしなければいけないのに、する対象がなくて、だから身体が動かない。闘っている感がすごくあった。それだけの覚悟がいる作品でした。

『The Dream of the Swan』Photo:Kishin Shinoyama

〈上野の森バレエホリデイ2018〉
『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』
演出振付:金森穣
出演:金森穣、井関佐和子、中川賢、池ヶ谷奏、吉﨑裕哉、浅海侑加、チャン・シャンユー、坂田尚也、井本星那、鳥羽絢美、西岡ひなの
初演:2018年4月28日
会場:東京文化会館小ホール(東京)

上野の森バレエホリデイに初参加。新作を特別上演しています。

 『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』は、ベジャールさんへの穣さんの強い想いがあってできた作品でした。ベジャールさんの命日は、穣さんの誕生日の日だったのです。ベジャールさんが亡くなった翌年、2008年からの10年間に創作した作品の中から黒衣にまつわる10のシーンを選出し、さらに新作を加えています。

 この作品で穣さんが久しぶりに踊っています。膝の半月板を痛めて、1年近くリハビリを重ねていたところでした。最初に穣さんのソロがあり、それが復活の瞬間でした。ベジャールさんへのオマージュ的な要素があって、振付自体もジャンプや回転、シンプルなアラベスクが出てきたりと、膝への負荷がかなりありました。私は穣さんの心配ばかりしていました。穣さんと一緒に舞台に立つとき、自分のことより、私はなぜか穣さんの心配をしてしまいます。母性なのか何なのか、私は彼の性格を知っているので、びっくりするくらい心配なんです。

 踊るときってまっさらになるから、踊り手の本質があらわにされる。穣さんは舞踊家としてピュアなんです。そのピュアさが私を不安にさせる。突拍子もなく抜けたり、お茶目なところがありすぎる。作家であるときと舞踊家であるときの差が大きく、そこは面白くはあるけれど。

 このときはブランクがあったぶん、穣さんが少しでもよく見えるよう私がアドバイスをしています。穣さんがよく見えないというのは、私の中ではありえない。穣さんも私の意見をちゃんと聞いてくれますね。パ・ド・ドゥで一緒に踊ると喧嘩になりがちだけど、ソロに関しては「こうしたらいいと思う」と私が言うと、穣さんも「そうか」と一生懸命やっています。

『Mirroring Memories ―それは尊き光のごとく』Photo:Kishin Shinoyama

 それでも本番でやらかすことはあります。やらかすとしても数年に一度。でもその一度が大きいから心配になります。近藤良平さん振付の『犬的人生』では出トチり。『no・mad・ic project』では、最後に全員で踊るユニゾンで穣さんがど真ん中で踊り出す音を間違えて、派手に先に動き出してしまった。でも穣さんは何が起きてもやりきるので、お客さんにはわからないかもしれません。ただ一緒に踊る人間にとっては大変です。出番になっても出てこないし、真ん中で先に踊り出すし。unit-Cyanで高知で踊ったときは、二人して転がって派手にコケたことがありました。穣さんは小さいことはやりません。やっぱり大物です。

 まだまだあります。『Silentium』の稽古でのことです。舞台上にいる私のもとへ穣さんが舞台袖から走ってきて、スライドして私の目の前で止まる、というシーンでした。ところが思いきりがよすぎて、穣さんはスライドして止まりきれず、私を通り越して滑っていってしまってーー。通し稽古をするはずだったのですが、私は大笑いしていましたね。

〈国民文化祭・にいがた2019〉で『あわ雪』を踊ったときは、最後に穣さんが私を抱えたままぐるぐる回り、正面を向いてぴたっと止まる、はずでした。穣さんがすごい速さで回るから、私はとりあえず穣さんにしがみついているだけ。すると止まったとき、正面でなく横向きになってしまった。そこでまた穣さんがものすごい速さで正面に戻した。それはもう素速くて、しがみついていた私の脳みそが揺れる感覚があったくらい。普通は怖がったり、安全牌を狙って少しスピードを緩めて回ったりすると思うのだけれど、そういう中途半端なことは絶対にしないのが穣さんです。一期一会とはこのことかと思うくらい、穣さんと踊るのは面白いですね。

『Mirroring Memories』Photo:Kishin Shinoyama

 

Noism20年 井関佐和子、全作品を語る(17)につづく。

プロフィール

撮影:松崎典樹

井関 佐和子
 Sawako ISEKI


Noism Company Niigata国際活動部門芸術監督 / Noism0
舞踊家。1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャールらに師事。’98年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。’01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。’04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、日本を代表する舞踊家のひとりとして、各方面から高い評価と注目を集めている。’08年よりバレエミストレス、’10年よりNoism副芸術監督を務める。22年9月よりNoism Company Niigata国際活動部門芸術監督。第38回ニムラ舞踊賞、令和2年度(第71回)芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
 


 

Noism


りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する、日本初の公共劇場専属舞踊団。プロフェッショナル選抜メンバーによるNoism0(ノイズムゼロ)、プロフェッショナルカンパニーNoism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーNoism2(ノイズムツー)の3つの集団があり、国内・世界各地からオーディションで選ばれた舞踊家が新潟に移住し、年間を通して活動。2004年の設立以来、りゅーとぴあで創った作品を国内外で上演し、新潟から世界に向けてグローバルに展開する活動(国際活動部門)とともに、市民のためのオープンクラス、学校へのアウトリーチをはじめとした地域に根差した活動(地域活動部門)を行っている。Noismの由来は「No-ism=無主義」。特定の主義を持たず、今この時代に新たな舞踊芸術を創造することを志している。https://noism.jp/

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