中村恩恵×近藤良平×首藤康之『トリプレット イン スパイラル』インタビュー!
構成・演出を中村さんが、振付は中村さんと近藤さんのおふたりが手がけます。創作はどのように行っているのでしょう。
中村>作品全体の構成は私が担当していますが、振付けに関しては私と良平さんがパートごとにつくっていて、この3人のパートに関しては良平さんがつくってくださっています。
近藤>この3人のパートはできるだけ僕がリードする。その上で何か修正しなければいけないところは恩恵さんに意見を聞くこともあるでしょう。どんな作品でもそうだけど、振付けってワクワクしたり、心配したり、どきどきしたり、いろいろなことが混ざり合う。自分の中の起伏もそうだし、“身体が付いていけるのかな”という部分も含めてまずそれが起こる。
ただその時点で“絶対にこの形に持っていくだろう”というものはあまりないですね。おそらく僕的にやることはある。でもそれはさほど大きな声で言いたいことでもないというか。腕が二本あって、脚があって、というのは変わらないし、首が長くなる訳でもない。
20代の頃だったら“こんなことをしたら奇抜だろうな”なんて考えていたかもしれない。ただ僕もある程度やってきたから、今となってはエッジを効かせるという感じでもなくて、“首藤さんと恩恵さんを入れ込むときっと面白くなるだろうな”というところからはじめています。僕は現場でダンサーと試さないと気が済まないタイプ。そうしないと全然わからない。それはコンドルズでも同じこと。
例えば左手で“3”を書くとか、“3”で絵描き歌をつくるとか。恩恵さんに人文字風に“3”をやってもらうかもしれない。恩恵さんのやる“3”ってどういう感じかなとか。首藤さんがやるのと、僕がやるのとでは、たぶん全然違う感じになるはず。とりあえず“3”がどれだけ僕たち自身に影響を及ぼすか、ちょっと知りたいですよね。
中村>近藤さんとのクリエイションは、さまざまな「遊び」を通じて徐々に展開していて、その「遊び」によってダンサーのいろいろな側面が引き出されてゆくように感じています。ゆっくりと話をする時間を取りつつ、クリエイションの時間を進められてゆく。3人の何気ないやりとりの中で、若い時に観て心を揺さぶられたタラコフスキーやフェリーニの映画の話に夢中になったり、楽器や音楽の話を通じてその人の物の感じ方に触れたりと、同時代に生きて活動を重ねてきた者としての共感を深めています。
三者三様の道筋を歩んできたこの3人が、この時期に手と手を取り合って一緒のステージに立つことが出来るとは一種ミラクルのよう。どのような作品に仕上がってゆくのがとても楽しみです。
この3名に加え、福田さん、渡邊さん、加藤さんが出演します。彼らをキャスティングした理由とは?
中村>ダンサーの選択に関しては本当に直感です。この人はこういう部分が良かったからだとか、あの人はこうだから目立ったというのではなく、その人が浮いて見えるというか、すとんと目が行く感じ。オーディションもそうですが、ダンサーを決めるときってたいていそういうことが多いですね。
加藤さんと知り合ったのもオーディションで、日本バレエ協会主催で去年開催されたトリプルビルのときのこと。その後私のワークショップオーディションにも参加してくれています。彼女は基礎がきちんとしていて、その上で自由に身体が使える可能性がある。私も楽しみにしています。
首藤>オーディションで恩恵さんがダンサーを選んでいるのを見ていると、踊る前からチェックしていて、最後まで見て決めるという感じでは全くないんですよね。たいていバーの最初の方で決めてしまって、以上、みたいな感じ。たぶんぱっと見て決めているんだと思う。その決め手というのが何なのかはわからないし、もちろんそれぞれ好みというのはあるけれど、“あぁ、なるほどな”というのは感じます。
近藤>日本バレエ協会のトリプルビルでは僕も作品をつくりましたが、あのときは合同オーディションだったんですよね。ダンサーの中にはどの振付家の作品でもオッケイという人もいれば、恩恵さんの作品に出たい、僕の作品に出たいという人もいる。それを振付家3人が審査するという。なぜか僕もバーレッスンを見ることになって、あのときはアウェイすぎてすごく緊張しましたよ。コンドルズはオーディションなんてしませんから。たいてい飲み屋で知り合った人とかね(笑)。
中村>福田さんと渡邊さんの新国立劇場バレエ団のダンサーふたりと加藤さんが会うのは今回が初めてなので、そこでのケミストリーも楽しみにしていた部分です。私自身あらかじめ“こうだろう”と決めつけないように、なるべくニュートラルなところから生まれる化学反応を膨らませていきたいと思っています。
福田さんはとてもユニークな個性の持ち主で、彼のつくる作品も面白い。作品に出てもらいたいというのも、その人に興味があって、もっとその人のことを知りたいと思うから。異なる環境に入ったときどういう風に変わっていくのか見てみたいと思ったり、何かしら触発されるものがあることが多いですね。
クリエイションでは、とても繊細で温かみのある、そして密度の濃い時間が流れています。物静かな加藤さんが、福田さんと目があうと思わず笑い出します。不思議なケミストリーです。それぞれ非常に感性の鋭いダンサーが互いを感じあうことで、自分の個性を解放できるような創作の時間になっています。
この3人のパートでは、まず福田さんと渡邊さんのおふたりと、そこには居ない者のトリオをつくっています。カインとアベルの話を喚起させられます。兄弟というテーマを「遊び」の中で語ってゆきたいと思っています。
もうひとつ、加藤さんが加わる舞踊的なシーンを構想しています。人の心の綾が綿密に張り巡らされた迷路のような空間の中で、踊りを紡いでいこうと思っています。その綾を読み解くかのように、もしくはその空間に命の痕跡を刻み込むかのごとくに。