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湯浅永麻『enchaîne』インタビュー!

元NDTの湯浅永麻さんが、この春東京で振付・演出・出演最新作『enchaîne』を上演! 東京・六本木の国際文化会館を会場にサイトスペシフィックな作品を繰り広げ、その世界観を披露します。開幕に先駆け、湯浅さんにインタビュー! 作品に込めた想い、そしてご自身の活動についてお聞きしました。

振付・演出・出演を手がける最新作『enchaîne』をこの春東京で上演します。タイトルに込めた意味、作品のテーマとは?

湯浅>『enchaîne』とは、何かと何かを繋げるという意味のフランス語。私たちダンサーは多国籍な人たちと仕事をすることが多く、特にフリーになってからは“初めまして”の握手をしたらすぐ自己紹介もないままリハーサルで一緒に踊る、という体験をたびたび繰り返してきました。イントロデュースの部分がすっぽり抜けていて、相手に触れることで“この人はこういう人なんだろうな”と理解する感じです。

その後話をしていく内に改めて彼らのバックグラウンドを知る訳ですが、実は彼ら自身の過去もそうだし、彼らのご両親がある時期日本にいたことがあったりと、全く関わりがないように思っていた人と繋がることがよくあって。全く違う国籍、文化、宗教を持つ人たちでありながら、不思議とどこかで繋がっている。そうした人との繋がり、縁といったものをテーマにしたいと想い、enchaîneをタイトルに付けました。

 

湯浅永麻

(C) James Vu Anh Pham

湯浅さんのほか、ジェームズ・ヴ・アン・ファンとアラン・ファリエリの二名のダンサーが出演します。彼らについてご紹介ください。

湯浅>ジェームズはシディ・ラルビ・シェルカウイの作品に出演した時にお会いして、これまで3度ほど一緒に仕事をしています。まだ20代半ばと若いけど、両性具有の美しさがあり、踊りも本当にすばらしい。

ご両親はベトナム人ですが、彼自身はオーストラリアの国籍を持っていて、ある時“どうしてオーストラリア国籍なの?”と訊ねたことがありました。ジェームズいわく、もともとご両親と彼のお兄さんの一家三人でベトナムで暮らしていたけれど、ベトナム戦争時にお父さんが難民船に乗って国を離れ、オーストラリアへ流れ付いたと。“必ず連絡するから”と言い残してきたもののしばらく音信不通になってしまい、その間お母さんも国を出ようとしては捕まって、ということを繰り返していたそうなんです。お父さんの生活が安定してお母さんとお兄さんを呼び寄せたのが7年後で、オーストラリアで産まれたのがジェームズだったーー。

そう淡々と語る彼の姿を見て、もしかしたら彼がここにいるのは偶然と偶然でないものが重なった結果なのではないかと、彼が何故こんなにもオープンな性格でオープンな踊りをするかがそこでわかった気がしたんです。今回は作中にダンサーにインタビューした音声を使おうと考えていて、それにもぴったりだと、とてもすばらしいものになりそうだと思い、彼に出演をお願いしました。

 

enchaîne

ジェームズ・ヴ・アン・ファン(C) Pippa Samaya

 

アランはもともとベジャールバレエ・ローザンヌで活躍していたダンサーで、その後NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)に移籍し、以来ずっと一緒に踊ってました。彼は私より年上で40歳くらい。今はフリーランスになって、パートナーとスペインで暮らしています。アランのダンスや芸術性もそうですけど、物事に対するオープンな考え方に惹かれていて、ずっとご一緒したいと考えていたんです。

彼はブラジル出身ですが、完全な黒人という訳ではなくて、中間のムラートなんですね。アランがブラジルにいた時それで差別を受けていたということを聞き、すごく衝撃を受けたことがありました。白人、黒人、黄色人種と肌の色で差別があるのはわかっていたけど、もっと細かいカテゴリーが存在するんだと。また彼らがそれぞれ誇りを持っていて、だからこそムラートという言葉ができて差別が生まれているんだということを知ってーー。そうした部分も『enchaîne』に入れていきたいと思っています。

これまでたくさんの方とお会いする中で、自分の考え方、日本的な考え方、先入観がどんどん壊れていき、同時に教科書でしか知らなかったものが実感として感じられるようになった。ジェームズにしても、“もしベトナム戦争がなかったら、この人はこういう人になっていなかっただろうな”と考えたりもする。いろいろなものが混ざり合って私たちが出会えたんだなと思う。そう考えると、人との出会いってすばらしいなって感じます。

 

enchaîne

アラン・ファリエリ(C) Javier Garceche

リハーサルはどのように進めていますか? 湯浅さんのクリエイション方法とは?

湯浅>決まった方法論は特になくて、何を言いたいかというのもその時々によって全然違ってきます。動きはイメージと作品のメッセージからつくります。形式は全くないけれど、あるとしたらイメージと作品コンセプトから生まれるメッセージでしょうか。

アランはスペイン、ジェームズはオーストラリアと、みんな拠点がばらばらなので、三人揃ってのクリエイションというのはなかなか難しい。昨年11月に私とジェイムズがラルビの仕事をべルリンですることになっていたので、その時アランに来てもらおうと思っていたんです。ところがジェームズのビザが直前になって取れなくて、結局ベルリンに来たアランと私のふたりでクリエイションをすることに(笑)。

アランもジェームズも枠組みの中で出すインプロがすばらしいので、ある程度の枠をつくっておいて、そこで彼らがその時感じたことを言ってもらったり、体現してもらいます。だから、かなり自由な感じです。

 

enchaîne

『enchaîne』映像より (C)Ema Yuasa

 

空間を手がける田根剛さん、衣裳を手がける廣川玉枝さんとのタッグも注目です。

湯浅>田根さんは建築家ですけど舞台芸術にも興味を持っていらして、いつか一緒に仕事をしたいとずっと思っていたんです。田根さんと初めてお会したのは私がNDT2にいた頃で、かれこれ10年以上前のこと。もともとスウェーデンの大学に通っていて、当時ヨーテボリ・バレエの舞台を観て衝撃を受け、ダンスが好きになったとか。ロンドンでNDT の公演を観て以来、(NDT の拠点であるオランダの)ハーグにも公演を観に来たり、フォーサイス・カンパニーの公演などヨーロッパでたくさんのダンス公演を観ていらして、とても詳しく、審美眼をお持ちです。

田根さんには空間デザインという形でお力をいただいています。今回会場になる国際文化会館は三人の建築家が共同で建てたというすごく面白い建物で、とてもインターナショナルな場でもある。その建築要素がまた田根さんにぴったりなのではと考えました。

廣川さんには昨年6月にセルリアンタワー能楽堂で上演した新作能でやはり衣裳を提供してもらっています。彼女のスキンシリーズを衣裳にしてくれないかとお願いしたら、“もちろんです!”と快くお受けいただいて。私が何かアイデアを出すとそれをどんどん具体的に提案してくださったりと、すごくクリエイティブな方です。本当にすばらしい方々に協力をいただいて、ありがたいなと思っています。

 

湯浅永麻

国際文化会館

 

もともと振付に興味があったのでしょうか?

湯浅>昔は創作に対する興味はさほど強くなかったけれど、いろいろな振付家のクリエイションに立ち会う内に、“ここはこういう風にした方がいいのにな”、“ああやっぱりここはこうしたんだ”、“どうしてこれはこうしないんだろう”と、自分の意見が出てくるようになったのが創作をはじめた動機のひとつ。

あと自分自身も“このメッセージを伝えてみたいな”とか “これを舞台で出してたくさんの人に共感してもらえたら”という気持ちが生まれ、作品をつくるようになりました。

本格的に作品をつくったのはNDTにいた時です。ダンサーが企画から振付まで全て手がける毎年恒例の行事があって、そこで4〜5作品つくらせていただきました。初めて振付したのは2007年。映像と衣裳を友人の日本人女性にお願いして、女性チームでソロ作品をつくりました。創作は大変ですけど、面白いなと思います。

 

 

-コンテンポラリー