dancedition

バレエ、ダンス、舞踏、ミュージカル……。劇場通いをもっと楽しく。

小林ひかる・平野亮一・高田茜『輝く英国ロイヤルバレエのスター達』インタビュー!

元英国ロイヤル・バレエ団のダンサー・小林ひかるさんがプロデュースを務める『輝く英国ロイヤルバレエのスター達』。平野亮一さんや高田茜さんをはじめ、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルら10名のダンサーが登場する豪華ガラが、来春日本初開催を迎えます。開幕を前に、小林ひかるさん、平野亮一さん、高田茜さんの3者にロンドンで現地インタビュー! 公演への想いと見どころをお聞きしました。

2020年1月に東京で初開催を迎える『輝く英国ロイヤルバレエのスター達』。ガラ公演を日本で開催しようと考えた動機は何だったのでしょう。

小林>まず一番の目的として、バレエを観に来る日本のお客様の層を広げたいという想いがありました。公演のプロデュースを手がけるのは今回が初めてです。現役時代は踊りの方に専念していたので、イメージはあってもそこまで具体的なことは考えていませんでした。今こうしてプロデュースをはじめてみると、やることがたくさんありすぎて正直驚いています(笑)。

退団してからは、ロイヤルの朝のクラスでフロアバーを週に3回ほど教えています。 ガラのキャストはこれまで一緒に仕事をしてきた人たち、大好きなダンサーに声をかけた形ですが、ロイヤルには素晴らしいダンサーがたくさんいるので、ピックアップしていくのは大変な作業でした。なかでも私が伝えたいことをしっかり表現してくれるダンサー、この公演でお客様に伝えたいことを届けてくれるだろうと思ったダンサーに声をかけていきました。

高田>私にとってひかるさんは大先輩であり雲の上の存在です。今コーチングをしていただいていますが、他の先生方には注意されない部分も含めて的確な指示をしてくださる、とても素晴らしい先生です。ダンサーとして何が大切なのか深く知っていらっしゃるので、ためになる助言をたくさんいただいています。今回はひかるさんのプロデュースのもと来日できるということで、とてもうれしく思います。

平野>小林さんとはこれまで古典やアシュトン振付作などいろいろな作品で一緒に組んで踊ってきました。こうしてまた小林さんと日本で一緒に公演ができるということで楽しみです。

 

© Andreuspenski

 

プログラムはPart.1『ダイナミズム』、Part.2『パーソナル・エモーション』、Part.3『神秘的な存在』の3つのパートで構成。それぞれ古典から現代作品まで幅広い演目が用意されています。

小林>“バレエを普段観ることのない方々に足を運んでいただきたい”という想いからはじめた公演ではありますが、バレエを知らない人にいきなり抜粋の場面をお見せしても、きっと“いったい何をやっているんだろう?”と理解してもらえないまま終わってしまうでしょう。バレエを知らない方に作品をわかっていただくにはどうしたらいいかと考え、まずプログラムをテーマごとのパートに分け、初めての方にもわかりやすいようそれぞれのテーマにあった作品を集めました。

さらに、それぞれの演目の冒頭に映像を流し、作品の概要を紹介していきます。映像はダンサーのインタビューとリハーサル風景で構成していて、これはこういう作品で、こういう形でつくられ、ダンサーたちはこういう想いで踊っていますよ、ということが完結にわかるような内容にしています。映像を前置きに演目を観ていただくことで、より作品が理解しやすくなればと考えています。演目選びでは、ダンサーの意見も取り入れています。ダンサーによっては“何でも大丈夫です”とお任せの人もいれば、いろいろご自分の意見を伝えてくれる人もいましたね。

平野>僕は基本お任せでした(笑)。

高田>私はちょこちょこと言いましたね(笑)。

小林>いずれにせよ、このダンサーにはこの演目が合うだろうと思ったもの、ダンサーが惹かれるだろうと思う演目をプログラムに入れたつもりです。ダンサーと一緒になって考え、みんなでつくったプログラムになっています。

 

平野さんと高田さんはアサフ・メッセレル振付『春の水』のパ・ド・ドゥを踊ります。

小林>『春の水』はロシアでつくられたかなり昔の作品で、非常に短い古典の小品です。

平野>映像で観ましたが、難度の高いリフトがあって好きなタイプの作品です。

高田>すごく勢いがある作品ですよね。

小林>そうですね。ふたつのパワーがぶつかって弾ける感じの作品で、私もはじめて観たとき“わっ!”と思いました。女性はトリッキーな跳躍もあり、男性はそれをしっかり受け止められるダンサーでなければいけません。だからこそこの作品を踊るには組み合わせが大切で、それができるのがこのふたりだと思っています。

 

小林ひかる、高田茜、平野亮一。英国ロイヤル・バレエ団にて。

 

ロイヤルではおふたりがペアを組むのは珍しく、今春おふたりが踊った『ロミオとジュリエット』は大きな話題を集めました。それだけに、今回は貴重なステージとなりそうです。

平野>『ロミオとジュリエット』では珍しく茜ちゃんとペアを組みましたが、普段はほとんど踊ることはないですね。僕と茜ちゃんが一緒に踊ることが少ないのはバランスの関係で、僕は185㎝あるので身長差が問題になってしまうんです。バレエは目で観る芸術なので、やはり見た目が良くなかったらダメだし、バランスは大事にしなければいけません。

ただ茜ちゃんはこちらを信頼してくれて、身体をしっかり任せてくれるのでパートナーとしてはすごくやりやすいですね。相手によってはお互いちょっと反発してしまうようなこともあるけれど、信頼してもたれかかってもらった方が支える側としてはやりやすいんです。

高田>一緒に踊る相手によって安心感は全然違ってきます。信頼できる相手と踊るのは、女性ダンサーにとっては心の支えにもなるくらい。ひとりで踊っているときとも違いますし、“何とかしてくれるだろう”と思えると舞台の上で自由になれる。平野さんと踊れる方は羨ましいなと思います(笑)。

平野>僕は普段はよくサラ・ラムと組んで踊っています。サラはとても自分に厳しいひと。ただこちらをすごく信頼してくれていて、僕と一緒に踊るときは気楽にできる、自分に集中できると喜んでくれています。信頼してもらえるのはやはりうれしいですね。

ペアを組むときはまず相手の要求をしっかり聞きます。あと一緒に踊っていると相手が身体をどう持っていきたいかというのはわかるので、そこを考えながらサポートするようにしています。自分がやりたいようにやって、女性の方が踊りにくかったら意味がないですから。

高田>私が今回この作品で課題にしているのは、体重のある踊りをするということ。それは『マノン』(ロイヤルで10月に踊った)での課題でもありました。軽いところは軽く、それでいて体重を感じさせるところは感じさせる。体重が感じられると強弱が出で、アクセントもつく。女性らしさが出たりもするし、ダイナミックにもなります。重さがあることによって踊り方にも違いが出てくると思うので、そこは気を付けて踊っていきたいなと思っています。

役によっても望ましい重さの在り方は違って、例えば『ラ・シルフィード』や『ジゼル』の二幕は人間ではない役なので浮遊感が大切になるけれど、人間みのある役のときは重く踊るようにしています。トゥシューズを履くとどうしても重力をあまり感じさせない、ちょっと浮いた感じの踊りになって、そういう方がいい作品もあるけれど、人間みのある作品の場合はしっかり重さを表現していきたいと思っています。

 

平野さんはマヤラ・マグリと『火の鳥』のパ・ド・ドゥを踊ります。先シーズンのロイヤルでやはりマヤラと『火の鳥』を踊られていますね。

平野>彼女と組んだのはあのときが初めてでした。『火の鳥』は女性の方が大変な作品で、男性はサポートが重要になります。マヤラと日本で踊るということで、パートナリングをより強化していくつもりです。

 

マヤラ・マグリ『ジゼル』

 

高田さんとウィリアム・ブレイスウェルの踊る『コッペリア』第3幕よりグラン・パ・ド・ドゥも注目です。ロイヤルではこの年末年始にかけ『コッペリア』の上演が控えています。

高田>私はこのロイヤルの公演で『コッペリア』デビューをします。ヴァリエーションはよくコンクールで見ていたけれど、私自身は踊ったことがなくて、全く初めての経験です。物語自体はもちろん知っていますが、ロイヤルの『コッペリア』は映像でも観たことがなかったので、いちから取りかかる感じです。ただ、コミカルですごく可愛らしい作品ですよね。

平野>『コッペリア』をロイヤルで上演するのはすごく久しぶりで、今回の公演が十数年ぶりなんですよね。

小林>茜ちゃんとウィリアムが12月のロイヤルの公演でペアを組むことになっていて、それもあって今回のプログラムに入れました。

高田>ウィリアムとは『白鳥の湖』で全幕を一緒に踊ったことがあって、これで二度目の共演になります。

小林>茜ちゃんとウィリアムを見ていると、個性を違えるふたりが舞台の上でとても自然な形で調和しているのを感じます。その雰囲気がすごく良くて、日本のみなさんにぜひ観ていただきたいですね。

 

小林ひかる、フェデリコ・ボネッリ『白鳥の湖』

 

高田さんはアクリ瑠嘉さんとのペアで“Homage to the Queen"より“Earth"のパ・ド・ドゥにも出演します。

小林>“Homage to the Queen"はロイヤルのレパートリーで、デヴィット・ビントレー振付の“Earth"、マイケル・コーダー振付の“Fire"、クリストファー・ウィールドン振付の“Water"、フレデリック・アシュトン振付の“Air"と、4つのパートで構成されています。ストーリーがあるという訳ではなく、それぞれのエレメントをダンサーが表現していくというものです。

平野>僕は以前“Fire"を踊っていて、初演ではマイケル・コーダーがロイヤルに来て一緒にクリエイションをしています。ただ僕は“Air"しか踊ったことがないので、茜ちゃんの踊る“Earth"をすごく楽しみにしています。

小林>見応えがあると同時に、ダンサーたちの魅力を引き出すものは何かと考え、今回はビントレーの“Earth"を選びました。きっと茜ちゃんとアクリさんに合うのではと思っています。“Earth"は2006年に初演されましたが、私も当時クリエイションに関わっていました。ビントレーはダンサーに何を求めているか明確にわかるので非常に仕事がしやすかったし、私はとても好きでしたね。ただステップは複雑ですごく難しいけれど。

高田>私が入団する前の作品なので、踊るのは今回が初めてです。映像を観ましたが、難しそうだなと思いました。特に音楽が複雑で、音取りが大変そうです。アクリさんとははじめてこの作品で一緒に踊ります。

小林>彼は2019/2020シーズンにファースト・ソリストに昇格したばかり。今シーズンの『コッペリア』で主役デビューが決まっていて、注目のダンサーです。なのでふたりのペアは楽しみですね。

 

アクリ瑠嘉『シンフォニー・イン・C』

 

日本をはじめ、ロンドン以外でも多く舞台に立たれています。日本で踊るときは何か心境に違いはありますか? 海外ツアーでこれまで印象に残っている舞台といえば?

高田>日本で踊るときは毎回緊張します。バレエ界のスターがたくさん日本で踊っているし、日本のお客様はバレエをよく知っている方が多いので、みなさん目が肥えている。自分のベストの踊りをお見せしなければいけないし、そう考えると自然と緊張感は高まります。もちろん自分が日本人というのもあって、日本の方に観ていただくのは特別なものを感じます。

平野>インターナショナルツアーは毎年夏で、この前は日本に行きました。日本で踊るのはやはりうれしいですよね。ロンドン以外では日本で踊ることが多くて、ガラ公演に呼ばれてたびたび出演させてもらっています。

高田>これまでの海外ツアーでは、スペインの野外ステージで『白鳥の湖』のコール・ド・バレエを踊ったのが印象に残っています。入団直後だったので野外で踊ること自体はじめてで、しかもステージはアルハンブラ宮殿の遺跡です。景色が本当にすばらしくて、野外なので踊っていると本物の月が見えるんです。“ロイヤルってこんなステージで踊るんだ!”と、感動したのを覚えています。

平野>僕もいろいろな場所へ行きましたけど、野外劇場はやはり珍しいから記憶に残りますよね。トルコの野外コロシアムとか、あと二年前に行ったオーストラリアのガラ公演も野外で、あれも印象的でした。

高田>野外なので雨が降ってきたら中止になったりして(笑)、思い出深いステージですね。

ロイヤルのシーズン中でもありますが、ガラ公演のリハーサルはどのように行っているのでしょう。

小林>それぞれのリハーサルの合間をみながら調整しつつ進めています。カンパニー側も私たちのガラに賛同してくださっていて、ガラのリハーサルもロイヤル・オペラ・ハウスの中で行っています。

外部で踊ることで成長していく部分というのは確かにあって、ダンサーにとってはロイヤルだけに縛られることなく外で踊った方が絶対にいいし、やはりダンサーも外に出ると変わるんです。芸術監督のケヴィン・オヘア自身がもともとバーミンガム・ロイヤル・バレエ団のダンサーだった方なので、その辺りの事情をよくわかっているんだと思います。

 

小林さんは2003年にロイヤルに移籍されています。当時と今で変化を感じる部分はありますか。

小林>あれからロイヤルも大きな変化がありました。メンバーがまず違うし、年齢層もぐっと若くなって、レパートリーも新しい作品が増えました。もちろんロイヤルということでトラディショナルな部分は失わないよう配慮はされていますが、やはり以前にはないタイプの作品を取り入れるようになっていますね。教える人たちも変わったし、指導する人が変わると同じバレエでも変わってきますから、そこはいろいろな意味で変化を感じます。

日本人もかなり増えました。ロイヤルにはイギリス人以外のダンサーもたくさんいて、日本人のほか、ブラジル人やオーストラリア人も多く在籍しています。ロイヤルのダンサーとなるとトップレベルの実力が求められるので、ひとつの国だけではとてもまかない切れないし、そうなるといろいろな国から優秀な人材を集めることになります。

平野>日本人は今ローザンヌの研修生を入れると10名います。ロイヤルはいわばメジャーリーグのヤンキースと同じ。ヤンキースもNYだけでなく、世界中からいい人材を集めていますよね。トップのトップとなると自国だけではカバーできないので、幅広くいいダンサーを集めていいものをつくる、という訳です。

小林>なかでもこのおふたりはこれからますます良くなれるダンサーですよね。ただロイヤルの中だけで踊っていると、限られるものがある。ロイヤルだけでなくさまざまな作品を踊ってもらい、それによってもっと成長していって欲しいという気持ちがあります。

彼らはプリンシパルという立場にはなったけど、本当に大変なのはトップの座をずっと保ち続けていくことだと思っていて。今後は下からもどんどんダンサーが上がってくるでしょうし、その中でプリンシパルとして輝き続ける必要がある。ふたりには自分の踊りをより深めてもらい、これまでにない自身の姿をお客さまに見せていって欲しい。またそこが、彼らにとっての勝負だと思います。

 

おふたりは2016/2017年シーズンにそろってプリンシパルに昇格され、日本でも大きな話題となりました。プリンシパルになったことで、心境に変化はありましたか?

高田>プリンシパルとして舞台に立つのはやはりそれまでとは違い、プレッシャーをすごく感じるようになりました。以前は自分の思う形で作品や役を表現していきたいという気持ちが強くありましたが、舞台全てをつくり上げる存在でなければならないとなったとき、どう見せていくべきかという部分を研究するようになりました。最近はドラマティックな作品を踊ることが多くなってきましたし、同じ作品を繰り返し踊ることも増えてきたので、プリンシパルになる前とはまた違った難しさを感じます。

また最近になって、舞台に向かう気持ちを変えていこうと考えるようになりました。少し前ケガでしばらく休んでいましたが、やはり一回離れてみると自分がどういう風にリハーサルをしていたか、舞台に向けてどういう形で集中していたか、改めて気づかされることが多く、自分自身を見つめることができたいい時間だった気がします。もともと心配性で、“大丈夫かな?”と考えることがかなりあったけど、これからはもう少し気を楽に持っていけたらと、“それでもいいんだよ”と自分で自分に伝えられたらいいなと思っています。

平野>“ディレクターがやっと決心してくれた”というのが、プリンシパルに決まったときの心境でした。あの年は主役をはじめいろいろな作品でメインキャストを踊っていて、これ以上できないだろうというくらい舞台に立っていたので、これでプリンシパルになれなかったらもうムリだろうと考えていたんです。やはりプリンシパルに昇格するというのはなかなか大変なものがあります。僕は入団して15年で昇格しました。僕の前に日本人でプリンシパルになったのは熊川哲也さんで、哲也さんはプリンシパルになったのが最年少に近かったけど、僕はたぶん最年長で就任したプリンシパルです(笑)。

今年の夏、はじめてロイヤル・バレエ団のツアーでプリンシパルとして日本で踊りましたが、かなり緊張しましたね。プリンシパルになってから日本でも何度か舞台に立ってはいますが、カンパニーのプリンシパルとして踊るとなるとやはり意味合いも違ってきます。プレッシャーもあったし、期待も感じたし、自分自身ピリピリもしてました。出番も多かったので大変ではあったけど、評判も良く手応えを感じました。

ひかるさんも言う通り、これからどう自分を持っていくか、プリンシパルである今が勝負だと考えています。ただそこはやはり毎日の練習です。これまでしてきたことが成功したことで今があるから、今まで通りのことをして、それをより深めていくこと。何をどう練習し、自分の持ち味にしていくか、ということが一番大切だと思っています。

 

平野 亮一 『眠れる森の美女』

 

公演数や条件面など、プリンシパルになると具体的にどのような変化があるのでしょう。

高田>楽屋はまず少人数になりますね。私はサラ・ラムとふたりで楽屋をシェアしています。公演回数もかなり少なくなりました。

平野>僕はキャラクテール・プリンシパルと一緒の部屋です。出演する公演数は少なくなって、それだけ一回一回の舞台に集中できるようになりました。ロイヤルでは全幕物が年間5〜6プログラム、トリプルビルがやはり同じくらいあり、合わせてだいたい年間11〜12プログラム上演しています。プリンシパルの場合、ひとつのプログラムに3回ずつ出演したとして年間で計30回という感じでしょうか。ただやはりそれぞれのダンサーに合う役とそうでない役もあるので、必ず全てのプログラムにキャスティングされるという訳ではありません。

 

プリンシパルとして、今後目指すものとは?

平野>プリンシパルになって舞台数も少なくなっているので、一回一回の舞台でどんな演技をするか、というのが僕たちにとってはすごく大切なことになっています。これからの意気込みは、ケガせず長く踊ること。そして踊ることで感動を与えること。またそれをいかに長く続けるか、ということに尽きると思います。

高田>ダンサーでいられる期間というのはほかの職業と比べると極端に短く、その短いダンス人生の中でどれだけ自分の求める表現に近づいていけるか、というのが私の目標であり一日の課題になっています。舞台数は少なくなっているし、ひとつの作品にどれだけ自分の想いや自分のベストが込められるかが大切です。またそこに集中できる環境が整っているので、それをどう自分で使っていくか、考えながら踊っていきたいと思っています。そうやってひとつのことにぐっと集中して、舞台をつくっていく感覚が私はやっぱり好きなんだなと、最近になって改めて感じています。

バレエは芸術なのでひとりひとり受け止め方は違うし、それでいいと思う。私は私なりの解釈があって、そこで納得した形で踊るのと、そうでないのとではまた違ってきます。例えば『マノン』は世界中でたくさんのダンサーが踊っていて、その分幅広い表現方法や多くの意見があると思うけど、それを見聞きしてただその通りやるのはちょっといやだなと思っていて。お客さまのために踊っているけれど、最終的には自分のために踊っていきたいという想いがあります。誰かのためにではなく、自分がどう踊りたいかという部分をもう少し大切にしたい。どう踊りたいかという部分は役や作品ごとに違っていて、自分の中に役のイメージがそれぞれあり、そこがまた目指すものになってきます。

私自身がクリアでないと何を伝えたいかあやふやになってしまう。お客さまにもそれが伝わって、きちんと受け止めてもらえないでしょう。だからこそ、自分の気持ちをもっとクリアにしていきたい。踊り方にしてもそうだけど、何を表現したいか、自分の想いがクリアであるということを大切にしていきたいと思っています。

 

高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル

 

プロとして第一線で長く踊り続けるためには何が必要だと考えますか?

平野>自分の限度を知ること。メンテナンスもそうだし、治療やアイシング、ジムに行くこともそこに含まれると思います。“今日はこれ以上できない、今日はこれ以上してもダメだ”というときに、身体を痛めつけてまで打ち込んでも意味がないということもある。

毎日100%の力で臨んでも疲れが溜まるだけで、舞台にも響いてしまうでしょう。舞台の前日に思いきり踊って、翌日の本番で筋肉痛になっても意味がないですよね。プロとして、スケジュール感や自分の身体の在り方を知っておく必要がある。実際に舞台の前日は軽く音を流して動く感じで、稽古はほとんどイメトレ程度。何が必要で何が必要でないか、自分に正直でないといけません。

強い意志を持ち続けるのは大変なことで、もちろん時には落ち込むこともあります。でもくよくよしていても意味がないし、僕は意味のないことはしたくない。時間をムダにしたくない。くよくよする時間があるのなら、筋トレをしたり、練習をしたり、悩みを忘れて自分のためになることをした方がいい。今日のリハーサルがよくなかったからとくよくよするのではなくて、明日のためにしっかり休み、明日いい踊りをする。そのオン・オフのつけ方というのも技術だと思います。

自分を知るのは、やはり経験によるものが大きいと思います。心配ばかりしていると、どうしてもやりすぎてしまう。これまで十数年プロとして踊ってきて、僕もそれができるようになったのはごく最近です。休むのも僕らの仕事だと思っています。僕がいつも心がけているのは、するときはする、休むときは休む、ということ。けれど結局のところ毎日の積み重ね。常に頑張っているからこそ、しっかり休めるということでもあります。

小林>本当にそうですね。やはり自分の身体のメンテナンスが一番だと思います。プロとして踊り続けるには、まず自分の弱いところを強化し、そして舞台に持っていく、ということが大切です。

 

踊っていてやりがいを感じる瞬間、手応えを感じるのはどんなときですか?

平野>舞台が終わって、カーテンコールで拍手をいただいたときがやっぱり一番ですね。拍手が大きい・小さいでなはなくて、拍手があること自体がうれしいし、そこで自分の中の達成感もある。ちゃんと観てもらったんだなと感じます。

高田>お客さまの反応はやはりうれしいですね。やりがいを感じるのは、お客さまのリアクションから、自分の伝えたいこと、作品に込めた想いがきちんと伝わったんだと思えたとき。そこに至る過程にもまた達成感を感じますし、だから辞められないのかもしれません。

 

 

 

-バレエ