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NBAバレエ団『リトルマーメイド』リン・テイラー・コーベット インタビュー!

NBAバレエ団でこの秋日本初演を迎える『リトルマーメイド』。リン・テイラー・コーベット振付により2012年にアメリカで初演された話題作が、待望の日本上陸を叶えます。開幕に先駆け、リハーサルのため来日中のリンさんにインタビュー。さらに、芸術監督の久保紘一さんに、本作に対する意気込みをお聞きしました。

『リトルマーメイド』や『HIBARI』のほか、『死と乙女』『ドラキュラ』など、挑戦的な作品に次々と取り組み、それがまた新たなファンを増やしているように見受けられます。これは今までの日本バレエ界にはなかった傾向ではないでしょうか。

久保>僕としては特別なことは何もしているつもりはなくて、自分がアメリカで経験してきたことをそのまま日本でやっているだけという意識があります。自分の育ったアメリカはエンタメ志向・お客さま第一主義で、“観る人がいかに楽しんでくれるか”というのをまず考える。そういう意味では、ヨーロッパとアメリカでは意識に違いがあるのを感じます。

ヨーロッパは作品志向で、“観てわからなければお客の方が悪い”となる。またこれは全くの主観ではありますが、日本はどちらかというとヨーロッパ志向で、“作品を理解できないのならあなたたちの勉強不足だ”という傾向があるように思います。もしかするとそういう風潮の中に、アメリカ流の方法論を持ってきたのが新鮮に受け止められたのかもしれないですね。

ヨーロッパの劇場文化にも学ぶべきことはたくさんあります。ヨーロッパには劇場文化が根づいていて、いつも何かしら作品を上演している。例えば英国ロイヤル・バレエ団などは劇場の立地自体が非常に良く、観光スポットに組み込まれていたりする。実際お客さんの大半を観光客が占めていたりと、国も観光収入をあてにしているのがわかります。パリ・オペラ座もそうで、劇場自体が街の文化遺産になっている。まだまだ日本は追いついていない部分がたくさんあるのを感じます。

 

 

本作を通して期待すること、その先に目指すものとは?

久保>『リトルマーメイド』はまずテーマが楽しいし、キャラクターたちも見るからに面白い。バレエを観たことがない人でも楽しむことができ、同時にバレエの良さも理解しやすい作品だと思います。どんなにいい作品でも観てもらわなければダメだと考えているので、まずは劇場に足を運んでもらいたい。そういう意味では、バレエの入り口としてとてもいい作品ではないでしょうか。

ナレーションや歌もあるので、大人はもちろん子どもも十分楽しめる。大人だけにターゲットを絞っているとやはり観客人口も限られてしまうけど、これが間口を広げるひとつのきっかけにもなるかもしれない。もちろん作品自体に魅力がなければいけません。もし初めて観るバレエがNBA団のステージだとしたら、それが頭の片隅に一生残る訳ですよね。ゆくゆくはそれが将来につながるかもしれないし、おろそかにはできないところです。

セットなど物量がさほど多くないので、いろいろなところにフットワーク軽く持って行けるというのもバレエ団としては魅力です。なかには子ども向けの作品をレパートリーに持つバレエ団もありますが、NBAでは特に用意がありませんでした。しいて言えば『くるみ割り人形』や『ドン・キホーテ』などは子どもにも楽しんでもらえるけれど、全幕ものとなるとどうしても長さがネックになってくる。

新しい作品を導入するときは、まずお客さんに退屈させないようにする、ということを意識しています。お客さん目線で観たときどう感じるか。昔と今では生活スタイルが変わっていて、情報社会が進み何事もスピーディーになっている。そうなるとやはり長時間の作品はなかなか難しいものがある。僕自身休憩なしで1時間半見続けるとなると、もう苦行になってしまいますから(笑)。

『リトルマーメイド』は全部で約70分程度と長さもちょうどよく、純粋に物語に没頭できる。『リトルマーメイド』は再演も考えていて、すでに来年のプログラムに組み込んでいます。NBAバレエ団の新たなレパートリーとして、愛される作品になるよう期待しています。

 

リン・テイラー・コーベット

 

 

-コンテンポラリー