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折原美樹『音楽と舞踊の小品集/ラメンテーション』インタビュー!

マーサ・グラハム舞踊団のプリンシパルダンサー・折原美樹さんが、この夏みなとみらいで開催される『音楽と舞踊の小品集』に出演。1931年に初演されたマーサの代表作のひとつ『ラメンテーション』でソロダンスを披露します。開演を間近に控え、帰国中の折原さんにインタビュー! 本作への想いとご自身の活動についてお聞きしました。

この夏開催される『音楽と舞踊の小品集』に出演し、マーサの振付作『ラメンテーション』を踊ります。本作はもともとマーサ自身が踊っていたソロ作品で、カンパニーの重要なレパートリーとしても知られています。

折原>『ラメンテーション』の初演は1931年。マーサが自身に振り付けた作品で、音楽家のルイス・ホーストが彼女のために選んだ曲で踊っています。以来マーサ・グラハム舞踊団のレパートリーとなり、代々のダンサーに踊り継がれてきました。カンパニーが最後に来日公演を行ったのが1995年で、そのときも『ラメンテーション』は上演しています。

カンパニーの中でも『ラメンテーション』を踊ることができるのはプリンシパルかソリスト以上。この作品に憧れているメンバーは多いと思います。私も初めて観たときはとても感動して、“これを踊ることができるようになれたら……、いつか絶対に踊りたい!”とずっと思っていました。カンパニーのレパートリーとして早い段階から振りは習ってはいましたが、実際にパフォーマンスで踊ったのは随分経ってからでしたね。

全体としては4分程度の小品ですが、初演当時はちょうどアートの世界でモダニズムがわっと盛り上がっていた頃で、そんななかマーサがこの作品を発表したことで広く知られるようになりました。ダンサーは筒状になった生地に身体を包んだ状態で踊りますが、この生地はある意味自分の皮膚のようでもあります。身体はほとんど見せないままで、生地上にあらわれるラインによって表現をしていきます。

 

©Anotnia K Miranda

 

動きはとてもすばらしいけれど、踊る方は大変です。まず布を使うということ自体が大変で、腕だけの力では動けない。身体が本当に使えていないと、布を引っ張ったり押し出したりといった動作がまずできません。私も初めて踊ったときは、“簡単そうに見えるのにこれほど大変なものなのか!”と非常に驚かされました。

最初の頃は生地に負けないようにするのが精一杯で、生地が本当に自分の肌だと感じられるようになるまでかなり時間がかかりましたね。自分の肌を引き離す、辛い、痛いというだけではなく、その中にあるものが生地を通して外に出てこなければいけない。生地がなければ当然身体は見える。けれど見えない状態で表現しつつ、なおかつその奥にあるものが見えてこなければいけません。

『ラメンテーション』には悲哀や哀歌といった意味がありますが、自分の皮膚ではなく生地を使うことで、辛いだとか悲しいといった感情がよりフォーカスされるようになる。ただそこに行き着くまでが大変で、私も“ああ、踊った!”と思えるようになるまで10年くらいかかりました。

 

マーサ・グラハム テクニック ワークショップ

 

ダンサーによっても表現の仕方は違っていて、ドラマティックに踊る人もいれば、淡々と踊る人もいたりとさまざまです。身体全体が生地に覆われていて、表面に出ているのは顔と手、そして脚の一部だけ。なので顔を使って表現するダンサーはたくさんいますが、私の場合はそうではなくて、身体全体で表現したいという想いでいます。身体がうれしかったら頬の肉がふっと上がって顔も自然とにこやかになるし、悲しかったら頬の肉も自然と下がる。顔の表現はその程度で、あとはできるだけ身体を使ってみせていきたい。

観る人によっても受け取り方はさまざまです。子どもたちの場合はその違いが顕著で、四角い物体が動いているという子もいれば、悲しそうだという子もいれば、笑い出す子もいたりする。だからすごく面白いですよ。

どんな見方があってもいいと思っていますが、私の中では“ロスト”という言葉がぴったりだなという気がしています。哀しくて呆然とする、どうしていいかわからない、悲しいからこそ涙が出ないーー。そんな感覚をいつも想って踊っています。

 

©Tokio Kuniyoshi

 

-モダンダンス