湯浅永麻『enchaîne』インタビュー!
現在はシェルカウイ演出・振付作『プルートゥ』に出演中です。実は湯浅さん自身、知らない内にキャスティングされていたとか?
湯浅>昨年ラルビのオペラ『サティアグラハ』に出演していた時に、リハーサルアシスタントから、“永麻、『プルートゥ』に出るんだって?”と言われて、“え、そんなこと聞いてませんけど?”とびっくり。ラルビに聞いたら、“あ、そうそう『プルートゥ』ね”と……。そんな経緯です(笑)。
リハーサルは昨年11月後半にスタートしましたが、最初に作品の映像を観た時、これは難しそうだなと思いましたね。まず、すごく内容の濃いテーマを3時間の舞台に凝縮して伝える必要がある。
あとラルビはダンスだけでなくいろいろな役割をダンサーに与えることがよくあるけれど、『プルートゥ』もダンサーの役割が多い上に複雑で大変だよと聞かされていて。私は決まった場所に小道具をぴったり置いたりするような作業がすごく苦手で、ラルビもそれを知っているので、“いっぱい物を動かさなきゃいけないからね!”と事前にクギを刺されました(笑)。だけどいざ稽古に入ってみると、再演の方が多いということもあり、いろいろ教えてもらって助かりました。みなさんやさしい方ばかりで、すごくいいチームです。
ただ身体的には大変な面もあります。特に作中に登場するプルートゥは100㎏あるので、それを動かすダンサーの負担は大きくて。私は脚の部分を持っているのでまだそれほどではないけれど、胴体を支えている男性ダンサーたちは大変です。みんな文句も言わずにがんばってるけど、結構かわいそうですね(笑)。

photo by Maiko Miyagawa
今回はダンスだけでなく、台詞を喋るシーンもありますね。
湯浅>ダンスの舞台以外、こういうきちんとした演劇のお芝居として台詞を喋ったのは今回が初めてです。実は私自身台詞があるということを直前まで知らなくて。12月にキャストが初めて顔あわせをする本読みの場があり、そこで初めて聞かされました。そもそも本読み自体どういうものかよくわかっておらず、ぎりぎりに到着したら、関係者の皆様がすでにずらっと座っていらっしゃる。“おおっ、これが本読みか!”と圧倒されつつ、私は聞いているだけだと思っていたら、演出助手さんに“永麻さんはここを読んでください”と言われ、“え、私、台詞があるんですか!?”と……。
私は2幕にちょこっと喋るだけですけど、すっかりおののいてしまい、本読みが始まった途端台本を持っている手がぶるぶる震えていましたね(笑)。台詞回しについては演出助手さんに教えてもらったり、森山未來さんからもイントネーションのダメ出しを頂戴したりと、みなさんの助けを得て楽しく演じさせていただいてます。

photo by Maiko Miyagawa
シェルカウイの演出も大きな話題になっています。ダンサーからみた、演出家としてのシェルカウイとは?
湯浅>ラルビはダンサーに対しては厳しいですね。“この人はこれ以上できるキャパシティがある”と彼が考えた相手には特に厳しくしているのではないかと思います。私も自分ではちゃんとやってるつもりでいても、“もっと視野を広げなければダメだ”とよく怒られてます。
ラルビは半分モロッコの血が入っていますが、ベルギーで生まれ育つ中でずっと何かしらの差別を感じていて、それは未だに続いていると言う。彼が選ぶダンサーやコラボレーター、作品の内容もそこに通じるものがあり、何らかの垣根を取り払いた
最近になって思ったのは、彼の中にとてつもない大義があって、全てはそこへ到達するための通過点なんだろうなということ。いろいろなものを混ぜ、いろいろなものを乗り越えた先にある、すごく遠いところを目指しているんだろうなという気がします。

シディ・ラルビ・シェルカウイ『Satyagraha 』(c)Koen Broos