湯浅永麻『enchaîne』インタビュー!
2015年までNDTに所属。その後フリーとなり、活躍の場を広げています。
湯浅>NDTを辞めたのが2015年の11月で、NDTにはNDT2(ジュニアカンパニー)とNDT1(メインカンパニー)合わせて11年間在籍していました。日本人の中では一番長いと聞いています。NDTにはほかにも日本人ダンサーは何人かいて、私が入団した時は渡辺レイさん、小㞍健太さんがいて、中村恩恵さんはすでにカンパニーを辞めてたけれどまだオランダにいらしたので交流がありました。私が在籍中も7人以上の日本人ダンサーが入れ代わりいらっしゃい
イリ・キリアンがカンパニーを去ったのは私が退団する3年くらい前。キリアンが言うには、年齢的なものとカンパニーとの方向性の違い
11年間変わらずNDTにいたのは、やはりキリアンの影響が大きいですね。最初はとにかくキリアンの作品が踊りたいという気持ちが強くありました。その後、クリスタル・パイト、ウィリアム・フォーサイス、オハッド・ナハリン、ピーピング・トムなど、すばらしい振付家の方々とクリエイションをする機会をもらい、多くのことを学ばせていただきました。それは宝だと思っていたし、どこか他のカンパニーに移りたいという考えは起きなかったです。
NDTは2も1も基本的に忙しかったですね。NDT1で年に100回くらい公演数がありました。NDT時代はオランダに帰る場所があったというのが違うくらいで、ツアーに出ることもたびたびあったりと、やはり旅は多かったです。
11年間で特に印象的な出来事といえば?
湯浅>入団直後にNDT1・2・3合同のクリスマスコンサートに出演しましたが、それがNDT3(40代以上のダンサーによるカンパニー)を合わ
キリアン以外にもいろいろな作家とお仕事させていただきましたが、なかでもクリスタル・パイトは数少ない女性の振付家であり、すごく印象に残っています。彼女が初めてNDT1に作品をつくったとき私はNDT2で観客として観ていましたが、最初から本当にすばらしかったですね。あの頃はまだ名前を知られてなかったけれど、当時の芸術監督が優れた目を持っていて、才能ある振付家をいち早く見つけては創作を依頼していたんです。
クリスタルはそれから毎年のようにNDTで作品をつくるようになりましたが、興味深かったのが、お子さんを産む前と後で作風が変わったこと。彼女の変化は新鮮だったし、すごく面白いなと思いました。もともとストーリーテリングな方でしたが、出産後につくった『PARADE』という作品が、柔らかくてフェアリーテイルな雰囲気でありながらシャープなメッセージが込められているという、絵本から出てきたような長編で。子供が観てもわかる表現になってはいるけど、ただ単に楽しいだけの作品ではなく、小さな子でも何かしら感じられるすばらしい作品でした。
キリアンが去ったのがNDTを退団した理由でしょうか。
湯浅>キリアンの不在はやはり大きいですね。あとNDTでの生活がすごく快適で、そこに対する危惧もありました。NDTは新作も上演しますが、レパートリーカンパニーなのでやはり同じことの繰り返しが多くなってきてしまう。それはそれで毎回違う発見があって楽しいけれど、“快適なままここにいて、体力的にもうダメだというところまで踊り続けるのかな”と考えたら、先が見えてしまったというか。未来を想像してしまった時に、“他に見つけるべきものがありそうだ”という気持ちが頭をもたげてきて……。
そこからNDTを辞めるまで三年間迷いました。カンパニーに長い休みをもらっては外部のプロジェクトに出るということを続けていましたが、だんだん私の求める休みの期間が長くなってきてしまい、最終的にやっぱり辞めようと決意しました。
今はフリーランスではありますが、OptoとラルビのEastman、この二つのプロジェクトには関わっています。Optoは元NDTの渡辺さん・小㞍さんと一緒に活動しているプロジェクト。Eastmanはメンバーの中から“今回はこの人で”とラルビが選んだダンサーにオファーが来る、いわばプロジェクトベースのカンパニーです。
NDTを辞めた直後にマッツ・エックから連絡をもらい、エック版『Juliet&Romeo』のジュリエットを踊ることになりました。彼とはNDT時代に『Sleeping Beauty』で一緒に仕事をしていて、“NDTを辞めるならちょうどジュリエットのセカンドキャストを探してるところだから出てくれないか”と声をかけていただきました。『Juliet&Romeo』は再演も多く、思いのほか長く関わることになりました。
ただ昨年9月にスウェーデンで再演した時、“この作品はこれが最後だ”とは言っていましたね。マッツはもう70歳を過ぎていて、また彼自身自分の目がきちんと届いていないとイヤなタイプの方なので、再演をするとしたら大変な負担がかかってしまう。とはいえ彼は今もアナ・ラグーナとのデュエット作品を各地で公演していて、自身も踊っているのですごく元気ではあって。スウェーデンでは演劇界でも有名なので、創作活動は絶対に止まらないと思います。つい先日来シーズンのパリ・オペラ座に新作をつくることが発表されましたし、その内“やっぱりまた再演しよう!”と言い出すのではないでしょうか(笑)。