久保綋一『海賊』インタビュー!
新垣隆さんが手がけるオリジナル曲にも注目です。
久保>新しくシナリオを書き上げたはいいけれど、そうなると今度は既存の音楽が合わなくなってくる。アダンの全曲集を聴いていてもピンとこなくて、これはもうオリジナルをつくるしかないだろうと考えました。新垣さんとは以前『死と乙女』(2016年初演)でご一緒させていただきましたが、本当にいい曲を提供してくださった。とはいえ新垣さん自身全幕バレエの作曲は初めて。最初は引き受けてくれるか不安でしたけど、“僕が『海賊』を変えてみせます!”とすごくはりきってくれています。
全部を作曲してもらったわけではなく、部分的に新たな曲を作ってもらっています。みなさん『海賊』というと口ずさむ曲があるし、観に来たお客さんの期待は裏切れない。パ・ド・トロワなどお馴染みのメロディーは従来の要素を取り入れるようにして、全体を通して編曲もしてもらいました。
作曲に関しては、指揮者で音楽監修の冨田実里さんがいわば通訳の役目。まず僕が“こういう感じで”と富田さんに伝えると、それに沿った曲を彼女が挙げてきてくれて、そこから僕がイメージに近いものを選んでいく。その曲をベースに“この尺で何分あたりにこういうことが起きて、次にこれが起きて”と僕が指示すると、それに合わせて新垣さんが曲をつくってきてくれてーー、の繰り返し。
出来上がった曲に対しても、“ここの尺を長くして”“もう少し短くしてくれ”とあれやこれやと注文をつけているので、ぎりぎりまで調整が続くでしょう。でも今回はオーケストラが入るので、オーケストレーション化する必要がある。だから新垣さんは大変だと思いますよ。僕たちの要望に応えながら、オーケストラのことも考えている訳ですから。
振付アシスタントには新国立劇場バレエ団から移籍した宝満直也さんを抜擢しています。
久保>『海賊』の新作をつくるにあたり、最初は海外から振付家を招こうかという話が出ていたんです。ただそうなるとずっと日本にいる訳ではないし、僕らがやりたい方向に上手くコントロールできないかもしれないという危惧もあって、だったら僕とバレエミストレスとバレエマスターで振付けしようということで落ち着きました。
ところがあるとき知人から、“新国立劇場バレエ団の宝満くんが退団する、彼はきっとNBAバレエ団にとっていい人材になるだろうから一度会ってみないか?”と声をかけられて。宝満くんと面識はなかったけれど、以前彼が大貫勇輔くんと一緒に踊ったコンテンポラリーのデュエット作品を観たことがあって、それがすごく印象に残っていたんです。“あの時の彼か、しかも彼が振付をしていたのか。あの作品はすごく良かったよね!”と、そこで改めて気づかされた感じです。
彼自身もともと創作に意欲を持っていて、NBAバレエ団なら振付をする機会もあるからちょうどいい。移籍した時は『海賊』の振付アシスタントを務めるという前提があったので、彼もその覚悟を持っていたはずだし、準備はできていたと思います。実際彼は頭がいいし、天才肌だなという印象です。20代後半なのでカンパニーメンバーと同年代だけど、年齢の割に成熟してるし大人ですよね。
振付作業はどのように行っているのでしょう。
久保>まず僕が“この音でこの起伏が起きて、次にここでこういう場面があって、ここはこういう風にしたい”と大まかなゴールを定めて、宝満くんには“その間の振付は自由にしていいよ”と伝えてあります。演出面を決めてしまって、“ここまで行きたいからゴールまでの行き方は任せるよ”というやり方です。
もちろん僕も振付しています。ところが面白いことに、彼は僕が振付した部分をどんどん自由に変えていってしまうんです(笑)。“綋一さん、ちょっと変えてみたんですけど見てもらえますか?”と言ってきて、見てみると確かに自分の振付より良くなっている。じゃあこっちにしようかという感じで、柔軟に意見を取り入れるようにしています。そこでヘンなプライドを出すよりは、やっぱりお客さんを第一に考えないといけない。観た人が楽しいと思う方が絶対いいに決まってますから。
当然芸術監督としてブラッシュアップはしますし、宝満くんにも随時伝えています。例えば海賊たちのシーンにしても、“忙し過ぎて男の魅力が伝わらないからもっとゆっくり動かしてくれ”と注文を出したり。ただ彼にもきっとこだわりがあるでしょうから、そこは調整役的な部分も出てきます。
大切にしているのは、物語を表現するための振付です。振付はもちろん大事だけれど、この作品における振付というのは物語を表現する手段であり、振付を前面に押し出す作品ではない。例えばコンテンポラリー作品など振付でみせるもの、ダンサーの身体でみせていくものは振付の占めるウエイトがもっと大きくなることもあるでしょうけど、全幕バレエの場合は物語をみせることが重要であり、振付はあくまでも物語を表現する手段になる。お客さんが観ていて混乱することなく、しっかり理解できるものをつくることが第一だと思っています。