dancedition

バレエ、ダンス、舞踏、ミュージカル……。劇場通いをもっと楽しく。

谷桃子バレエ団75周年ガラ開催! 芸術監督・髙部尚子インタビュー

リアル動画で話題沸騰中の谷桃子バレエ団が、この夏75th Anniversaryガラ公演「TMB HISTORY GALA PERFORMANCES」を開催。谷桃子バレエ団が誇る人気演目とダンサーが勢揃いする豪華プログラムで、大きな話題を集めています。開幕を6月に控え、リハーサル中の髙部尚子芸術監督にインタビュー! 75周年を迎えたバレエ団の現在と未来についてお聞きしました。

6月に開催を迎える75周年記念ガラ公演「TMB HISTORY GALA PERFORMANCES」。一般販売当日に早くもソールド・アウトするなど、大きな反響を呼んでいます。

髙部>もう嘘のようでね。4月3日にファンクラブとYouTubeのメンバーシップを対象に先行販売をしたら、そこで半分以上が売れてしまって。一般販売はその3日後で、4時間半で完売することができました。販売時は900人以上の待ちになって、最後の方は奪い合うようにして取っていただいたと聞いています。みなさんお仕事もあるなか、何時間も根気よく待ち、苦労して手に入れてくださった。本当に感謝しかありません。

谷桃子バレエ団公式YouTubeより

会場となる新国立劇場の中ホールの席数は約1000席で、3日分計約3000席が売り切れたことになります。これまでも新国立劇場の中ホールで公演をしたことはありましたけど、完売したことはなかったですね。

去年東京タワーで公演を開催しましたが、小さいホールながら売り切れとまではいきませんでした。やはりなかなか難しいものだなと感じましたね。新春公演『白鳥の湖』は上野の東京文化会館で3回公演をして、新人の森岡恋さんと森脇崇行くんの回は2300席全て売り切り、あとの2回は若干残ってしまったというのが実情です。一昨年の『ドン・キホーテ』も完売はしたけれど、それでも売り切れたのは本番の3週間ほど前でした。今回は本番の2ヶ月前だったので、うちのバレエ団としてはもう画期的な売れ行きです。“お客さまは神様です”という言葉を身に染みて感じています。

追加公演ができるなんて、もう夢のよう。あわよくば完売したら追加公演をしよう、とは言ってはいたんです。でもまさかこんなに早く……、という心境です。谷桃子バレエ団で追加公演をするのは私が知る限りはじめてです。谷桃子先生が現役で踊っていた頃はものすごい人気でしたので、もしかしたらそういうこともあったのかもしれないけれど、私がバレエ団に入ってからは聞いたことがないですね。

『ドン・キホーテ』過去公演より

『白鳥の湖』にはじまり、『「イーゴリ公」よりダッタン人の踊り』、『ライモンダ』まで計11演目。充実のラインナップも魅力です。

髙部>普通はガラというと、お客さまウケをする派手な作品から選んでいくことが多いですよね。ただやっぱり私たちも、従来の考え方ではいけないと最近思うようになって。75周年の記念になるような何か意味のあるガラにしなければと、そうでなければお客さまが観ても楽しんでいただけないのではないかと考えました。

谷桃子バレエ団には、この75年間に全幕物をひとつひとつ上演してきた歴史がある。今回は『HISTORY GALA PERFORMANCES』と銘打って、歴代上演してきた順に演目を並べています。『ドン・キホーテ』や『リゼット』など谷桃子バレエ団には日本初演の全幕作品もいくつかあって、そうしたことも歴史の流れとして組み込んでいます。ただ『瀕死の白鳥』『ダッタン人の踊り』『ライモンダ』は全幕作品ではないので、それらは全幕の間にポンポンとちりばめました。全幕作品にしても、必ずしもグラン・パ・ド・ドゥではなく、『くるみ割り人形』だったらクララと王子の雪のシーンのパ・ド・ドゥにしたり、『シンデレラ』もパ・ド・ドゥのみにしたり、その作品のいいところを観ていただけるようにしています。

休憩時間を入れて上演時間は約2時間半。かなり演目が多いので、お客さまが長く感じられないようお見せできればと考えています。

『海賊』過去公演より

キャストにはYouTubeで人気のメンバーも多く起用されています。配役はどのように決められたのでしょう。

髙部>今回は作品に一番合う人を選んでみました。一度私が候補を出して、そこからバレエミストレスやバレエマスターたちと会議を重ねて決めています。

ビジュアルから入られるお客さまも多いので、そこは我々も取り入れていかなければいけない部分でもあります。 YouTubeで広まったお客さまがいろいろなダンサーを生の舞台で観ていただくいい機会でもあり、ここでまた新しい推しのダンサーをつくっていただければと思っています。

谷桃子バレエ団公式YouTubeより

抜擢もずいぶんありました。なかでも一番の挑戦は大塚アリスさんの『ジゼル』。谷桃子バレエ団にとって『ジゼル』は本当に大切な作品です。大塚さんはまだまだ全体的な技術のバランスが良いわけではなく、パ・ド・ドゥだけとはいえ、果たしてここで彼女に重要な作品の主役を与えてもいいのだろうかという迷いはありました。ただ彼女に合っているとは思いますし、スタイルが良く美しいのでラインが出る。今は細かいつま先に関する部分や、背中が反る癖などを取りながら、早いパにどれだけついていけるか練習しているところです。

大塚さん自身入団前に関西で『ジゼル』を踊った経験があるそうです。でもやはり谷桃子バレエ団独特の『ジゼル』があるので、そこはいちから伝えています。谷先生が亡くなる2年前に、「ダンサーにビデオを見せて振りを覚えさせるのはやめてほしい」と託されています。その遺言があるので、谷桃子バレエ団では必ずバレエマスターやバレエミストレスが振りを伝えるようにしています。人間対人間で振りを渡す、それはうちのバレエ団のポリシーであり特色でもあって。もちろんそのためには振りを渡す側の私たち自身が動画を見直し、覚え、納得して、解釈して、という段階が必要になる。そこは大変ではあるけれど、面倒くさがらずにやらなければいけない。私も今はものすごく動けるわけではないけれど、知っているものはちゃんと直接渡す、渡したいという想いがあります。

新春公演『白鳥の湖』

ただこれがまた難しいところで、例えば『白鳥の湖』のオデットにしても、谷先生はダンサーによって振りや踊り方を微妙に変えているんです。だから大塚礼子先生が踊ったオデットと私が踊ったオデットは少し音の取り方やニュアンスが違っていたりする。

なので背が低めで体系的に似ているダンサーには私が、礼子先生のように脚が長くて背丈もあるダンサーには礼子先生のニュアンスを伝えたりと、ダンサーによって伝える人間やニュアンスを変えています。

今回大塚さんには私が踊った『ジゼル』を伝えつつ、身体のラインなどは礼子先生がミストレスとして指導しています。手間はかかるけれど、そこで手を抜いたらダンサーのレベルは上がってこない。どうしてもダンサーというのは踊りやすい方に流れてしまうものだけれど、クラシックバレエというのはしっかりとした規定があるから、それは許されない。踊りやすいよう流れないためにも、毎回毎回みんなで細かくチェックしながら指導していくということが大切になる。その結果として、作品もきちんとした形で残り、伝統が守られていくのではないかと思っています。何よりそうしないと感動が生まれないのではないかという気持ちがあって。そこを信じて、大変でも続けています。でも伝えることができるというのは、とてもありがたいこと。幸せなことだなと思って日々続けています。

大塚さんは『瀕死の白鳥』も踊ります。実は今回のガラの作品の中でひとつだけ私が踊ってないのが『瀕死の白鳥』なんです。礼子先生は谷先生から直々に教わっていて、バレエ・フェスティバルなどで踊られてきました。なので『瀕死の白鳥』に関しては礼子先生に付きっきりで教えてもらいつつ、私もそこに付き添い、私自身も勉強させてもらっています。

『リゼット』過去公演より

森岡さんは『リゼット』と『ドン・キホーテ』、『シンデレラ』を踊ります。どれも彼女に合いますね。今回のガラ作品の中で私が現役の頃一番多く踊ったのが『リゼット』でした。最初に谷桃子バレエ団の全幕で主演した作品で、当時18歳。なので私個人でいうと、『リゼット』が一番想い入れがあるかもしれません。

森岡さんは技術的にはとてもいいものを持っていますし、誰より早く言われたものをぱっと形にできる。彼女に関してはあまり心配はないですね。指導的にはたぶん一番手がかからないのではないでしょうか。ただまだ若いので、彼女的な踊りになりすぎないよう、ニュアンスなどは指導者がある程度深く掘り下げて話すようにしています。

森岡さんは元気もあるし、キビキビ動けるのですぐに振りを覚えました。だけどやはり『リゼット』なので大変です。実は今回のガラの全てのパ・ド・ドゥの中で一番きついのが『リゼット』なんです。彼女もはじめて踊った時は“キツイ!”とびっくりしていましたね。でも、やりきれると思います。そしていつか彼女で全幕ができればいいなという想いもあります。

『シンデレラ』は追加公演で出演が決まりました。パートナーは森脇くん。新春公演『白鳥の湖』に続くモリモリコンビです(笑)。新春公演で二人のチケットが売れた実績もありますし、期待されるコンビでもあります。まだ未熟ですが、一生懸命真摯にバレエに向かい全力投球しているところで、二人は今ダンサーとして理想的な日々を過ごせているのではないでしょうか。

『シンデレラ』過去公演より

北浦児依さんは『ドン・キホーテ』と『海賊』を踊ります。彼女はまだファーストアーティストですが、入団してもう10年近くとキャリアは長い。実は入団当初から彼女にはいい役をつけていましたが、若かったというのもあって上に上がろうとする欲がそれほどなく、また精神的に弱い面もあって、なかなか花開いてきませんでした。

最近は年齢が上になってきたということもあり、コール・ド・バレエに入ってもリーダー的存在で、みんなをまとめ上げたりと責任感も出てきている。今非常に伸び盛りのダンサーで、またひとりいいダンサーが出てきたのではないかと思います。でも北浦さんがあそこまでたくさん食べる人だとは、YouTubeを見るまで私も知らなくて。あんなに細いのに、とびっくりしましたね(笑)。

『海賊』で北浦さんのパートナーを務めるのが今年3月に入団した高谷遼さん。彼はコロナ禍にスターダンサーズ・バレエ団を辞め、エンジニアとして3年間働いていたそうです。だけど30歳手前になって、もう1回バレエにかけてみようということで、うちのバレエ団を受けてみたいというお話をいただきました。プライベートオーディションでみせもらいましたが、もともと主役も務めていた方だったので、やはり立派に踊られるる。ぜひ本団の方にということで入っていただいています。

バレエ団を辞めてから3年間全く踊らなかったわけではなく、発表会などのお仕事はしていたそうです。とはいえプロの世界からは離れていたので、身体が戻るか少し心配していました。でも早かったですね。2、3週間でスッと痩せてきて、力強い踊りをみせてくれた。谷桃子バレエ団としては初お目見えということで、楽しみにしていただけたらと思っています。

谷桃子バレエ団公式YouTubeより

浅田良和さんと秋元康臣さん、豪華ゲストダンサーにも注目です。

髙部>浅田良和さんは日本バレエ協会の公演で私が振付けした作品に出演していただいたご縁があって、そのときは谷桃子バレエ団の馳麻弥さんをパートナーに踊ってもらっています。馳さんとは背丈も合いますし、今回も二人のペアで『白鳥の湖』より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥと『ライモンダ』のグラン・パ・ド・ドゥを踊っていただくことになりました。

秋元康臣さんとははじめてお仕事します。ただずっと彼の踊りを見ていたので、どれだけ素晴らしいダンサーかというのはわかっていて。バレエ団に所属されていたのでなかなかお声かけできなかったけれど、フリーになられたというので、じゃあ思い切ってお願いしてみようかということになりました。今回のガラでは『ライモンダ』のグラン・パ・ド・ドゥを永橋さんと踊っていただくことになっています。

新春公演『白鳥の湖』

 

-バレエ