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篠原聖一×下村由理恵『アナンケ 宿命』インタビュー!

2015年、大阪で初演を迎えた篠原聖一演出・振付作品『アナンケ 宿命』。ヴィクトル・ユゴー原作『ノートルダム・ド・パリ』をテーマにドラマティックな作品世界を描き、大きな注目を集めた話題作が、待望の東京初演を迎えます。この秋の上演を前に、篠原さんと主演を務める下村由理恵さんにインタビュー。作品への想いと意気込みをお聞きしました。

2001年にDANCE for Lifeをスタートし、下村さんを主演に数々の作品を発表してきました。それ以前から創作に対する意欲はお持ちだったのでしょうか?

篠原>母が現代舞踊の人間なので、地元の札幌で自作自演の作品に出たり、学生時代は演劇の人たちに振付をしたりと、創作はちょこちょこ手がけていました。あと『白鳥の湖』や『ジゼル』といったクラシック作品で自分が主役を踊りながら振付をしたこともありました。つくるのは好きだったんでしょうね。

下村>以前は出品する場が限られていたけれど、2001年にDANCE for Lifeをはじめたことで、みなさんに見ていただく機会も増えました。以降DANCE for Lifeはだいたい二年に一度のペースで公演を開催していて、『カルメン』『femme fatale』など彼のオリジナル作品をつくってくれるようになりました。

 

 

篠原>これまでのDANCE for Lifeで一番大変だったのは『femme fatale』。カルメン、椿姫、サロメと、それぞれ全幕とは違う形で30分ずつつくり、それをひとつのステージに仕立てました。男性の人生を変えた3人の女性、3人のファム・ファタルを三作続けて次々と踊らなければいけない。それを休憩なしで上演したので、彼女は相当ハードだったと思います。実際観に来てくださった方に、“あれは下村さんでなければできないですよね”と言われました。大変だったけど、僕は好きな作品です。

下村>『femme fatale』ではヨカテーン役で笠井瑞丈さんに出てもらいましたが、彼も私が“絶対にいいと思う”と言ってオファーしたダンサーのひとり。山本さん(アルマン役)、佐々木さん(ホセ役)といったバレエダンサーと並んでの出演で、リハーサル初日はすごく緊張されていましたね。

篠原>僕も瑞丈さんとは初めてで、お互いに探りながらではありました。彼自身“僕は叡さん(父・笠井叡)の指導しか受けてこなかったから”と言っていたし、最初は戸惑う部分もあったと思います。ただ最終的に、僕のつくり方が叡さんに似ていたと、だから入りやすかったと言ってくれて。実際彼はすごく良かったし、僕はすごく好きでしたね。

 

 

下村>DANCE for Life も数を重ねてきましたが、まだまだこれだけじゃだめ。篠原にはまだまだつくってもらわないと。眠っている過去作品もいろいろありますから、それらをリプレイしていくのは私の役目。一度や二度の公演で終わらずに再演していきたい。誰かがやらないと作品は死んでしまいますから。せっかく創作にイチから携わってきた訳だし、今後も続けていきたいという気持ちでいます。

篠原>やりたいことはたくさんあります。例えばシェイクスピアものでいうと『リチャード三世』や『ハムレット』、あと『シラノ・ド・ベルジュラック』も手がけてみたいですね。ただ実際につくるとなるとまた音楽が必要になって、それに合うようなダンサーを集めて、とかなりの労力が必要になってくる。

下村>成功する・しないはやはりキャストにもよりますし、そこにぴたっと合うテーマがあればいいなと常に探しています。

 

 

公私ともにパートナーのおふたり。スタジオを離れてもやはり話題の中心はバレエについて?

篠原>家ではバレエの話はしないし、僕はあまりバレエに触れていたくないタイプ。彼女に対しては奥さんという感覚はなくて、常にダンサーとして見てしまいます。創作をするときも、純粋にプロのダンサーに振りを与えている感覚ですね。

下村>だからよく“飲み過ぎじゃないの?”ってチェックされるんです(笑)。

 

 

篠原>彼女は僕とは逆のタイプで、家に帰っても過去作品のビデオをお酒を飲みながら観たりしてる。僕は新作をつくり出すと過去の舞台は観ない。もう観たくないっていう気持ちの方が強い。自分の中でこれは終わったんだと線を引き、次のことを考えないとだめなんです。だから再演でフィードバックをするときはすごく大変です。

現役時代もそうで、自分の踊りを観ることはなかったですね。できればニジンスキーの時代に生まれたかった。映像が残っていないからみんな伝説的なことを言うじゃないですか。ジャンプして舞台の端から端まで飛んでいっちゃった、とか。僕らの時代は残ってるからつらいですよね(笑)。

下村>私はビデオを観るのが大好き。自分の踊りということではなくて、作品が好きなんでしょうね。リハーサル期間も長いし、ラクしてつくっていないので、やっぱり思い入れがある。あのときはそうだったな、こういうこともあったな……、なんて思いながら観ています。

 

 

もうすぐ東京初演を迎えます。現在の心境をお聞かせください。

篠原>どういう風にみなさんに映るのかと思うと、やっぱり怖いですよ。自分の裸を見られるような気がしてしまう。幕が上がる前はいつも、“もういやだ”、“もういやだ”と言ってます。ところがそれは僕だけじゃないんだということにあるとき気付いて。以前ネザーランドダンスシアターに研修に行ったとき、イリ・キリアンも初演の前はそわそわしていて、ワインをがばがば飲んでいたんです。そうか、あのキリアンですらそうなんだと。僕はアルコールは飲まないけれど、その分胃にきたりする。下村はその辺の切り替えが得意で、“もうしょうがないじゃない”ってよく言われます。もうしょうがないと考える、要するにそれが無になるということだと思うんだけど、まだまだ僕は修業が足りないんでしょうね。昔はよく彼女に“滝に打たれて来なさい”と言われてました(笑)。

下村>彼が現役のときは本番前になると必ず“あそこが痛い”“ここが痛い”“肉離れがどうの”とはじまっていたので、“またなの? そんな軟弱なこと言わないの!”と言っていましたね(笑)。

開幕まであとわずかとなった今は、楽しみでしょうがないという気持ちでいます。あとはダンサーのみなさんに任せているので、私としてはとにかくみなさんがケガをしないこと、病気にならないこと、無事に踊りきって欲しい、ただそれだけです。あとはみんなで舞台を楽しむだけですね。

篠原>彼女は潔いんですよね。潔さというのはダンサーにとってすごく大事だと思う。だけど僕はなかなかそうはならなくて。僕はたぶん本番直前までずっとドキドキしているんじゃないかと思います(笑)。

 

 

 

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