井手茂太『薄い桃色のかたまり』インタビュー!
さいたまゴールド・シアターの最新作であり岩松了さんの書き下ろし作、さいたまゴールド・シアター第7回公演『薄い桃色のかたまり』で振付を手がけます。オファーがあったときの心境はいかがでしたか?
井手>お話をいただいたときは、“まさか”という感じでしたね。岩松さんとは過去に三度ほどご一緒させていただいていますが、今回はゴールド・シアターでという。そもそも岩松さんが“ゴールド・シアターに井手さんが振付をしたらどう見えるだろう?”と言い出されたらしく、僕としても“是非!”という気持ちでした。岩松さんが手がける作品も、役者さんとしての岩松さんも大好きなので、本読みのときからもうわくわくしっぱなし。僕はお芝居の人間ではないので普段あまりそういうことはないけれど、岩松さんが手がける世界観が面白くて、すごくイメージが膨らむんです。
物語は福島が舞台になっていますが、岩松さんの世界感というのが本当にすごい。もちろんゴールド・シアターがお芝居をするというのを考えてのことだと思いますけど、非常に人間味があるんです。それでいてさり気なく鋭かったり、ときには厳しかったりもする。
ト書きにもしっかり“ここで踊りが入る”と書いてあって、そこもうれしいところでしたね。ここで踊り出して次の展開につながるとか、ここは会話シーンから自然と踊りになっていくとか、踊りへの持っていき方が面白い。いきなり音がカットインして踊りが入るというのではなく、お芝居とクロスした感じ。日常的な仕草から踊りに派生するという意味では、イデビアン・クルー的な雰囲気はあるかもしれません。お芝居の中のいちシーンなので、振付も物語に沿うような自然な動きを考えています。ダンスを発表しますよというよりは、その役柄に合う動きをつくる感じです。
岩松さんの選ぶ曲も大好き。歌モノなんだけどロックでもないし、どこからこんな曲を見つけていらしたんだろうというような……。僕が普段使わないような曲だし、聴かない曲。何とも不思議で、でも何故かしっくりくるんです。
振付作業はどのように進めているのでしょう。
井手>まず立ち稽古の前にワークショップを二日間行って、そこで“もしかしたらこういう振りをお渡しするかもしれません”とあらかじめみなさんにお伝えしました。実際に振りうつしのときも、“ワークショップでこういう動きをやりましたよね、じゃああなたはそれをやってみましょうか”という感じで渡しています。
踊りに関して岩松さんから何かリクエストされるということは特になく、基本お任せ。岩松さんとのお仕事はいつもそうですね。演出家によっては“もうちょっとここは機敏な動きにしてくれ”とか“もっと小さい動きで”と細かく指示される場合もありますが、岩松さんの場合は“何か楽しんでる風景を”といったイメージを伝えてくださるだけで、後は自由にさせてもらっています。具体的には、立ち稽古をして、美術やセットを決めて、じゃあここで踊りのシーンが入ります、という進め方。“このシーンにはこのメンバーが出演するので、彼らに振付ていきましょう”という作業です。
高齢者が相手ということで気を遣う部分はありますか?
井手>全然ないですね。お年寄りだからといって特別なことはしてないです。もちろん“無理はなさらずに”というのは前提としてありますけど、普通に対応していますし、自分としてはわりと厳しくしているつもり。もともとお年寄りだからとか、子供だから、障害を持っているからとか、立場によってへんに特別扱いするのはどうかと思っていて。振りを渡すのは“僕のテイストはこういう感じです”と伝える作業であり、それはある意味自己紹介みたいなものなので、そこは素直にやらせていただいています。もちろん“無理だな”とご自身で判断されたら見学もアリ。必須ではないということですね。
これだけ大勢の高齢者の方々に振りを渡すのは僕も初めて。彼らと一緒に作業していくうちに、“こうこうこうやって”とかっちり決めていくよりは、ごちゃごちゃでも早い動きを渡すと喜んで踊ってくださるんだなとか、いろいろ発見がありました。もちろんなかには“私はきっちり振りを踊りたい、覚えたい”という方もいます。そこは年齢に関係なく人それぞれですね。僕としては、たとえ振りを正確に踊っていなくても、“こういうお芝居のこういうシーンで踊っているんだ”という感覚さえしっかり持ってくだされば、正直言って振りはどうでもよくて。気持ちさえあれば、自然と身体が動いている感じだけで、そのシーンは十分成立するようにつくっています。
ただ振りを渡しても次の日には忘れてることも多々あるので、何度も同じことを伝えてあげなければいけない。それはもちろん自分の仕事ですし、そういう小さな苦労はあるかもしれないけど、うれしい苦労です。僕も“あの人ちゃんと覚えてるかな?”なんて、リハーサルに向かう電車の中で考えてるとすごくわくわくする。そこで覚えてくれていたらやっぱりうれしいですよね。もし忘れてしまっていても、指摘して“あ、そうだった!”っていう言葉を聞くとちょっとうれしい。みんなダンスを楽しんでくれているみたいで、本当にありがたいですね。
普通のお爺さん、お婆さんじゃないな、ただ者じゃないなというのはすごく感じます。ハングリーというか、“自分を見て!”とアピールをしてくるし、どんどん主張してくる。特に女性はすごいですよ。“ここは乱れて”というと、本当に乱れまくる。彼らはもう一周回っていて、何もかも経験されているので、そこに躊躇はないんです。だからやりやすい。ヤル気もあり余るほどで、“え、私は踊らないの?”とか、“私は腰と膝が悪いけどそれは今だけだから、本番ではしっかり踊るから”と言ってきたりする。ときには“腰が悪いからちょっとここは辞めておく”と言いつつ、みんながわいわい楽しそうにしていると、“やっぱり自分も踊る!”と言い出したり……。何ともかわいらしいんですよね。
現場の雰囲気はいかがですか?
井手>今までに全く経験のない現場だし、本当に不思議な現場です(笑)。本読みからしてそう。ふたり同時にセリフを言っては、“ここはワシだ!”とか、“いやワシだ!”とか言い合ってる。その時間がまた長いんです。“どこまでがお芝居なの?”って思っちゃう。セリフを言い忘れている人がいるとちゃんとツッコミを入れたりする。たまに僕の話を聞いてなくて、“聞いてる? もう一回言うね、もうすでに四回言ってるけど、もう一回言おうか?”なんて言うと、“わかってるよ!”ってすかさず返してくださるから本当に面白い(笑)。
ゴールド・シアターの現場はスタッフワークも素晴らしくて、周りの人たちのサポートが本当にすごいんです。演出助手だったり、演出部だったり、ネクスト・シアターの若手たちもそう。やっぱり蜷川さんってすごいなって思いました。亡くなってもまだ生きてるみたい。ちゃんとこういう“落とし物”をつくっていかれたんですから。
ネクスト・シアターはキャストとして出演するのはもちろん、演出も手伝えば、ゴールド・シアターのケアをしたりと、役者以上の仕事をしています。みんな若いけど、不満なくゴールド・シアターのみなさんをサポートしてる。ああいう若者を見てるとエライなと思います。ネクスト・シアターとゴールド・シアターの絆は強いなと感じます。
リハーサル時間は短い方で、せいぜい2〜3時間。90歳を超えている方もいるし、お疲れ具合もある。ただみなさん出番がなくてもきちんとリハーサルに参加しにくる。なかには待ち時間に老眼用のものすごい大きな眼鏡でずっと台本を読んでる人もいたりして、さすがだなって思います。役者って普通そうなんです。どんなお芝居でも必ずみなさん稽古に参加しては、“今日は出番なかったな……”なんて言って飲んで帰ったりする。ゴールド・シアターもまさにそう。みなさん役者さんなんです。本当に真剣だし、プロ意識を感じます。