レーゲンスブルク劇場ダンスカンパニー・竹内春美インタビュー!
この秋レーゲンスブルクで幕を開けた森優貴振付最新作『Shakespeare Dreams』。竹内さんは主要キャストのひとりとして、日替わりでメインパートを踊っています。初演を迎えた感想をお聞かせください。
竹内>実は本番前に芸術監督からダメ出しをたくさんもらって、かなり追い込まれた中での幕開けでした。本作で私は初日に踊る第1キャストではなく第2キャストで、クリエイションの時は第1キャストに優貴さんが振付けるところからはじまり、彼らに振付けられたものを私たち第2キャストが覚えていくという流れ。もちろん第1キャストのダンサーと私では体型も個性も違うから全く同じように踊るというのは無理な話で、クリエイションされていく過程で第1キャストから学ぶものは学びつつ、私は私なりの方法で振りを消化していきました。たぶん優貴さんもそれでいいと考えていたと思います。
ただ、私が舞台に立つ予定だった3日目の公演ギリギリになって改めてたくさんの注意をもらい、突きつけられて。“本番まであと5時間なのに、こんなにダメなところがある!”と思ったら、もうガクンとへこんでしまったんです。とはいえこれ以上踊り込んだら本番まで身体がもたない。とりあえずできることをやろうと曲を聴きながらひたすらイメージトレーニングをしてたいら、“もういいか、自分の好きなようにやろう!”とふと思えた瞬間があって。そうしたら急にラクになって、舞台が楽しみになってきた。たぶんそれが良かったんだと思います。実際に踊っていても注意されたことは全部覚えていたし、言われたことはなんとか消化していたと思います。
本番は楽しかったです。舞台に立ったら作品の力はやっぱり強くて、自然と役へ入っていけました。作品が私を連れていってくれた気がします。それがなんだか特別な気分でもあり、ギフトをもらえたような気分です。最後の方はすっかり役に没頭していたし、すごく幸せな気持ちでしたね。
アブストラクトでありながら、非常にドラマティックでもある。森優貴作品特有の重厚な世界観が、竹内さんをはじめ多様なダンサーにより厚みをもって描かれていました。創作にあたり、芸術監督から事前にコンセプトの説明などはあったのでしょうか。
竹内>本作に限らずたいていコンセプトミーティングがリハーサルの最初に盛り込まれていて、プロダクションごとに毎回説明を受けています。場合によってはそこで舞台装置や衣裳の写真を見せてくれたり、模型があったり、曲を聴かせてもらうこともあります。動きこそ一緒につくっていきますが、ダンサーがリハーサルに入るずっと前から優貴さんの頭の中では作品づくりが始まっているんだと思う。私たちダンサーの前に優貴さんが立つときは彼の頭の中ではすでに作品の流れができていて、全て説明できるようになっています。
キャスティングもたいていそのとき発表されます。『Shakespeare Dreams』で私たちに課された役割は、まず優貴さんが描いた冒頭のシーンでシェイクスピアの世界観にお客さんを連れていき、そして自分たちもその世界に入っていくというもの。男女の出会いがあり、物語が進んでいくにつれ男性は動物的な象徴となり、本能と衝動、力を持つ象徴になっていく。女性は性的衝動とシェイクスピアならではの人間本質における無限の可能性を要素として持ちはじめ、そして最終的に男女の立ち場が入れ替わります。抽象的でありながら、物語性もある。特定のシェイクスピア作品を描くのではなくて、いろいろなお話の要素が入っている感じでしょうか。
今回のクリエイションはちょっと特別で、踊りではなく、セリフの練習から始まりました。キーワードが書かれた3ページ分くらいのプリントを渡されて、それを私たちが喋るんです。セリフといっても意味をしっかりお客さんに伝えるのが目的ではなくて、シェイクスピア作品の中から優貴さんが選び抜いたセリフ、シェイクスピアの語録として残されている言葉を英語でサウンド表現していく感じ。
動きのクリエイションがスタートしたのはその後です。私はまず第1キャストの動きを真似していった訳ですが、踊り込んでいく過程で自然と自分の動きになっていった気がします。私たち第2キャストはある意味ずっと放っておかれた状態で、自分でつくり上げたものを舞台に持っていかなければならない。それは自分のクセばかり出さずに踊るチャンスでもあり、ひとつの修業でもありました。
クリエイションの最中はかなり任されていた感覚がありましたね。ただ任されてそのまま舞台に立つのかと思っていたら、最終的に細かいダメ出しをたくさんもらった訳ですけど(笑)。
任されるというのは、竹内さんに対する信頼のあらわれでもあるのでは。
竹内>ありがたいことに、最近は任されているなと感じることが増えました。一回振りを渡されたら後は自分で消化する時間をくれるというか、ちょっとした注意はあっても“そこはもうできてるからいいよ”と言われることもあります。
先シーズン末まで上演していた『恐るべき子供たち』のときは特に任された感じがしましたね。開幕の一週間前につくり変えたシーンが一箇所あって、急遽私のソロが入ることになったんです。一週間前だったのでもう時間もないし、通し稽古までリハーサルも2回あるかどうかというタイミング。そんな状況でも、私が出したものをどんどん採用してくれて。私としては、“優貴さんがいいと言うんだからいいんだ!”と信じるしかない。そういう任され方は多くなってきた気がします。
プレミアをスタンディングオベーションで迎えるなど、観客の盛り上がりも非常に大きかったように思います。自分たちの街のダンスカンパニーに対する愛情と誇りがひしひしと感じられました。
竹内>お客さんの反応は本当にあたたかかったですね。ああいうことは日本ではあまりないので、うれしかったし、お客さんにはすごく救われます。二年前の新作ダンスサスペンス『The House』に出演した時はよりそれを強く感じました。そのとき私が演じたのは誰にも見ることのできない子どもの役で、不気味でグロテスクでありながら子どもらしい無邪気さと可愛らしさを求められるという面白い役所。ちょっと目立つ役だったこともあり、街中で“この前の『The House』良かったよ!”“面白かったよ!”と全く知らない人たちから声をかけられることがたびたびあって。こんなに観てくださっているんだと改めて知って、すごく驚いたし、とてもいい経験になりました。